コロナ禍で昨季は大会開催直前に中止になった世界選手権が、今季はストックホルム(スウェーデン)で開催にこぎ着けた。初日は女子ショートプログラム(SP)が行なわれ、紀平梨花が合計79.08点をマークして2位発進。首位は合計81.00点のロシア…

 コロナ禍で昨季は大会開催直前に中止になった世界選手権が、今季はストックホルム(スウェーデン)で開催にこぎ着けた。初日は女子ショートプログラム(SP)が行なわれ、紀平梨花が合計79.08点をマークして2位発進。首位は合計81.00点のロシア女王、アンナ・シェルバコワで、紀平との点差は1.92点だった。



2位となった紀平梨花のショートプログラムの演技

 初出場だった前回大会(2019年)は総合4位に終わった紀平にとって、満を持して臨む大会となった。是が非でも金メダル、初優勝を勝ち取りたいところだが、気負いは微塵も感じられなかった。それは、練習をしっかりとこなし、準備万端を整えてこの舞台に乗り込んで来たからにほかならない。

 これまで、紀平の心配事は常にスケート靴だった。武器であるトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)という大技ジャンプを跳ぶためには、自分の感覚に合うスケート靴を用意して調整することが必要となる。今回は、自分好みのスケート靴を手に入れて大会にやってきたという。

「(昨年12月の)全日本選手権後に靴を変えました。左1足、右1足、それぞれに合う靴を見つけて、ものすごく跳べる靴で、トリプルアクセルも4回転サルコウも跳びにくくない靴が用意できました。(私にとって)跳ぶ感覚を掴むためには靴がすごいポイントだったので、全日本よりもアクセルが跳びやすくなっていると思います。

 4回転サルコウについても、いまの靴であればこういう風に跳べば跳べるという感覚は掴めているので、そういう感じを試合本番に持っていけるようにしたいです」

 22日の公式練習後にこう語っていた紀平。2018年のシニアデビュー以降では、初めて靴の不安がない状態で自信を持って挑める大会になったようだ。

 SPでは、ほどよい緊張感を漂わせながらも、笑顔でリンクに立った。凜とした佇まいで、しっかりと集中していた。

 重厚なリズムを刻む『ザ・ファイア・ウィズイン』の曲に乗り、冒頭のトリプルアクセルを鮮やかに成功させると、続く3回転フリップ+3回転トーループの連続ジャンプ、3回転ルッツも決め、いずれも安定感あるジャンプだった。演技後は、右手でガッツポーズも見せたほど、充実感いっぱいの表情を見せた。

 SPの見せ場でもある片手側転からのステップも、3つのスピンも、すべてレベル4を獲得。自己ベストの83.97点に近い高得点が期待されたが、ジャンプ2つにわずかに回転が足りなかったという「qマーク」がついてGOE(出来栄え点)で減点がつき、技術点(43.68点)が思ったよりも伸びなかった。

「とりあえず、3つのジャンプをちゃんと降りることができたので、そこはすごくよかったです。(この日の)ジャンプはまだまだ(得点を)伸ばせるジャンプでしたし、フリップ+トーループ(の連続ジャンプ)では、特にフリップの後の流れがなくて、トーループがちょっと縮こまってしまったので、そこを改善して、フリーに向けてもっともっといい演技を目指していきたいです。

 本当にたくさんの方のサポートのおかげでここまで来られたので、常に感謝してやろうと決めてきましたし、この舞台で恩返しするしかないという気持ちでジャンプに集中して試合に臨みました」

 無観客試合や「バブル方式」を経験することになった紀平は、現地入りしてから2日間の隔離生活をこなしたが、心身のコンディションをどう整えるかに努めてきたという。

「思ったよりも試合の感じがあって、しっかりといつもどおり試合に集中することができました。今季は全日本選手権しか出場していなくて、この世界選手権はすごく久しぶりの国際大会でしたので、ここまでいろいろモチベーションを保つことは大変でした。練習の成果を出せる場がなかったので、練習を積んでも達成感がなくて、練習もあまり楽しくなかったです。それでも諦めずにこの日まで頑張ってやってきたことは、よかったなと思います」

 首位のシェルバコワを2点足らずの点差で追いかける展開になったが、力強さとしなやかさを兼ね備えたスケーターに成長した18歳は、ライバルとなる16歳のロシアの新星との優勝争いにどう立ち向かうか。

 フリーでは、紀平が4回転サルコウを完璧に跳び、武器のトリプルアクセルで得点アップを図れれば、面白い勝負に持ち込めるだろう。4回転フリップと後半の3回転ルッツ+3回転ループの連続ジャンプを武器にしているシェルバコワに対抗するためには、わずかなミスも許されないはずだ。そのことは紀平本人も十分承知していた。

「フリーは体力面できつい内容になっていますし、ジャンプ構成も、1つミスが出てしまうと、どどどっとミスが出てしまうプログラムになっているので、本当に集中しないとどうなるかわからないと思っています。

 4回転サルコウについては、まだまだ自信を持てる状況ではないので、気を引き締めていきたいです。何とか4回転をプログラムに入れられる(2位という)位置には立てたので、フリーに向けての練習でしっかり調整して、一番いい状態を本番の時間に持っていけるようにして、ノーミス演技を出して頑張りたいです」

 視線の先にあるのは、ロシア勢を打ち破っての、初となる世界女王の座だ。そのチャンスはしっかりと紀平の手中にある。掴めるかどうかは紀平の出来次第にかかっている。