ロジャー・フェデラー(スイス)は常にグランドスラム・タイトルを獲る力が自分にはまだ残っていると信じていたが、まさか故障による6ヵ月の休養から戻った直後にそれが起こるとは思っていなかった。しかも、彼の最大のライバルであるラファエル・ナダル…

 ロジャー・フェデラー(スイス)は常にグランドスラム・タイトルを獲る力が自分にはまだ残っていると信じていたが、まさか故障による6ヵ月の休養から戻った直後にそれが起こるとは思っていなかった。しかも、彼の最大のライバルであるラファエル・ナダル(スペイン)に相対して。

 「決勝の前にも言った。もしもラファに勝ったらそれはものすごく特別で、美しいことだ。僕はもう本当に長いこと、グランドスラム決勝で彼を倒していなかったから」

 フェデラーは全豪オープン決勝でナダルを6-4 3-6 6-1 3-6 6-3で倒したあとにこう言った。

 正確に言えば、10年だった。フェデラーが最後にグランドスラム大会決勝でナダルに勝ったのは、2007年ウィンブルドンでのことだ。以来ナダルはグランドスラム決勝で、フェデラーを連続4回破っていた。

 フェデラーとナダルの双方が昨年故障から回復するためにとった長い休養から戻ったところで、その直後の全豪でこのような位置に立つことを予想していなかった。

 フェデラーはその長いキャリアを通して、故障のために長い期間プレーできなくなることは滅多になかった。彼はグランドスラムで連続65大会プレーしてきた男なのだ。昨年、彼が故障により全仏から棄権したとき、この連戦記録はストップした。

 フェデラーはここ何年か故障を完治させるための時間をとる代わりに、痛みを感じながらもプレーするという過ちをおかしていたと認めた。

 そして昨年の彼はそれまでとは違う道を選び、初めてかなり長い休養期間をとった。そして膝を完治させるための6ヵ月の休養をとったあと、これまでになく強くなって戻ってきたのだ。

 「僕が最近ようやく気づいたのは、具合が悪く、あまりにも多くの問題があるときにはトップ10選手を倒すことはできないということなんだ」

 準決勝でスタン・ワウリンカ(スイス)に勝ったあと、フェデラーはこう言っていた。

 「そこで(そのことに気づいた時点で)、僕自身と、たぶんラファもそうだと思うが、『OK、もう十分だ。100%の体調に戻ったんだ。もう一度テニスを楽しみ、練習を楽しもうじゃないか』と言ったんだよ」

 5年ぶりにグランドスラム大会で優勝し、フェデラーは間違いなくふたたびテニスを楽しんでいる。

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 以下は、2017年全豪オープンが残してくれたこもごも。

セレナの次のゴールは?

 23回目のグランドスラム・タイトルを獲ったセレナ・ウイリアムズ(アメリカ)は、優勝回数でシュテフィ・グラフ(ドイツ)とタイだった「22回」の記録を破るのに非常に長い時間がかかったと感じている。それゆえ今はただ勝利を楽しみ、先のことは見たくないと言う。

 全時代を通してもっとも多くの優勝回数を誇る、マーガレット・スミス コート(オーストラリア)の24回を追い抜くのはどうだろうか?できるだろうか?彼女はまだ、そのことについて話したがらない。それと、年間グランドスラム(一年に4つのグランドスラムを制覇すること)は?「それもわからないわ」とセレナは言った。ただ「一度に一つずつね」とは言っている。

三十路のファクター

 セレナは35歳であってもグランドスラムで勝ち続けることは可能なのだと証明した。実際、30歳過ぎの選手たちは今回の全豪オープンで大いに楽しみ、活躍した。

 36歳のビーナス・ウイリアムズ(アメリカ)、34歳のミルヤナ・ルチッチ バローニ(クロアチア)は準決勝で35歳のセレナに合流した。男子の部でもベテランがよく頑張り、35歳のフェデラー、30歳のナダル、そして31歳のワウリンカも準決勝に進んだ。

ジョコビッチの横滑り

 ノバク・ジョコビッチ(セルビア)は昨年の全仏オープン優勝以来、本来の彼ではない。しかし、何が彼を煩わせているのかは相変わらずはっきりしない。

 ワイルドカード(主催者推薦枠)で出場したデニス・イストミン(ウズベキスタン)に対する2回戦での敗戦で、ジョコビッチは激しさを欠いているように見えた。これは彼にとって2008年ウィンブルドン2回戦敗退以来となる、グランドスラムでの早期敗退だ。

 そして負けたあと、彼は多くを語らなかった。この敗戦から(レッスンとして)何を持ち帰るかと聞かれた彼は、「カバンを手に取って、家に帰る」と答えている。

2度目のチャンス

 今回の全豪オープンは、心温まるカムバック・ストーリーでいっぱいだった。ルチッチ バローニは18年ぶりにグランドスラム準決勝進出を決めたあと、インタビューで感極まり涙を流した。

 未来のスターの呼び声高き弟アレクサンダーでなく、病気や故障で一時は700位以下に落ちた10歳年上の兄ミーシャ・ズベレフ(ドイツ)はナンバーワンのアンディ・マレー(イギリス)を驚かせ、最大の番狂わせのひとつをやってのけた。

 そして、ビーナスが14年ぶりに全豪決勝に戻ってきた。「彼女(ビーナス)は私のインスピレーション」と妹セレナは言ったが、これに賛同しないものは稀だろう。

アメリカの若手 

 アメリカのテニスファンにとって、興奮していい理由はたくさんあった。9人のアメリカ人男子が2回戦に進出。これは2008年以降でもっともよい成績であり、この中にはフランシス・ティアフォー、エルネスト・エスコビード、ノア・ルビンらがいた。

 女子ではココ・バンダウェイ(アメリカ)が前年度の全豪と全米覇者のアンジェリック・ケルバー(ドイツ)、前年度全仏覇者のガルビネ・ムグルッサ(スペイン)を倒す番狂わせを演じてキャリア最高の大会を送り、初のグランドスラム準決勝に進出した。ウイリアムズ後の世界も、未来は明るく見える。(C)AP(テニスマガジン)