3月24日にスウェーデン・ストックホルムで開幕するフィギュアスケートの世界選手権。昨季はコロナ禍で中止になり、2年ぶりの開催となる大舞台を前に、女子シングルに出場する坂本花織選手に胸の内を聞いた。3月上旬、世界選手権の意気込みを語る坂本花織…

3月24日にスウェーデン・ストックホルムで開幕するフィギュアスケートの世界選手権。昨季はコロナ禍で中止になり、2年ぶりの開催となる大舞台を前に、女子シングルに出場する坂本花織選手に胸の内を聞いた。



3月上旬、世界選手権の意気込みを語る坂本花織

 2020年12月の全日本選手権を目前に控え、坂本花織の話しぶりからは充実感が伝わってきた。

「全日本では(優勝した11月の)NHK杯以上に、ショートプログラム、フリーでパーフェクトな演技ができるように、と思っています。スピンでは取りこぼしがあったので、そこは大事に。グレアム(充子)コーチに毎日、スピンを厳しく見てもらって、回転数も数えるようにして。ステップも細かく区切って、ジャンプ以外、重点的に練習してきました」

 その宣言どおり、全日本のスピンはすべてレベル4だった。トータル222.17点を叩き出し、全体的にすばらしいスケーティングを見せた。トリプルアクセルだけでなく、4回転も成功した女王・紀平梨花に敗れ、18年以来の優勝は果たせなかったものの、拮抗した勝負の2位だった。19年、6位に低迷した雪辱を見事に果たしたのだ。

「(コロナ禍で)外出自粛の間、陸での練習も含めてトレーニングを頑張ってきた成果が出たのかなって思っています」

 はつらつと語る坂本は今シーズン、安定したスケーティングを見せている。コロナ禍で彼女自身がスケートとじっくり対峙できたのはあるだろう。あるいは、同志ともいえる三原舞依の復帰も安心感につながっているのかもしれない。いずれにせよ、その素質は"満開"を迎えつつあるーー。

 ストックホルムで開幕する世界選手権2021。はたして、坂本の勝算は?

 世界選手権は、群雄割拠の大会になるだろう。

 ロシアのアンナ・シェルバコワ、アレクサンドラ・トゥルソワは4回転ジャンプを武器とし、エリザベータ・トゥクタミシェワはトリプルアクセルを引き提げ、円熟の域に入り、アメリカのブレイディ・テネルの総合力は特筆に値する。そして、全日本で優勝を争った紀平は世界ランキング1位で優勝候補筆頭と言えるだろう。また、多くの場数を踏んできた宮原知子も、スケーティングの精密さ、美しさは周知のとおりだ。

「ロシア(の選手たちの試合を)見ましたけど、うまいですよ。(坂本)花織は、全部(ジャッジの)プラス5を狙うくらいの気持ちで。それをしないと、4回転には勝てないですから」

 坂本を指導する中野園子コーチは、あえて厳しく言った。

 ただ、少なくとも坂本は誰にも引けを取っていない。例えば、スピード感は世界的にも卓抜。リンクを疾走する姿は、ダイナミズムを生む。

「(滑る)勢いがあったほうが、後々(の演技を)やりやすかったりするので」

 坂本はこともなげに言う。

「勢いに乗っていくと、スピードを落とさず、そのまま演技できるので。減速がなく、常に加速を続けてって感じを心掛けていますね。ブレーキを踏まずに滑れると、体力的にも楽だったりするんです。それがジュニア時代から身についているのかなって」

 それは天性の才能だが、練習の賜物でもあるのだろう。

 2年目となるフリーの『マトリックス』は、ひとつの集大成と言えるかもしれない。プログラムの構成を着実に高め、ディテールまで彼女のものになっている。今や飼いならした野獣のような勇猛さと練磨が漂う。全日本では、衣装も動きやすい生地に変更し、背中も見せるデザインにし、躍動感が増した。

 進化を続ける坂本は、世界選手権に向けても虎視眈々だった。

「今のところ、(トリプルアクセルや4回転などは入れず)できるジャンプでマックスの構成で頑張ろうかと思っています」

 坂本の口調に迷いはなかった。

「ショート(の構成)はそのままですけど、フリーは(基礎点が1.1倍になる)後半のコンビネーションに3・3(3回転の連続ジャンプ)を入れる予定で。今は練習でもともと入っていた構成で3・3(3回転フリップ+3回転トーループ)を跳んでいるんですけど、それを残したまま、後半も(3回転フリップ+2回転トーループを)3・3にして、3・3を2回入れる形で練習しています。体力的にはだいぶきついですけど、いい練習はできていると思います」

 坂本はそう言って、人懐っこく頬をゆるめた。『マトリックス』を滑り終わった時、栄光に近づけているか。居並ぶジャッジに向け、足を蹴り上げ、強い目線を投げかける終盤の演技は見ものだ。

「(ジャッジに向けて)『点数出して!』って思いながら滑っています」

 彼女はそう言って快活に笑う。大胆不敵さと生来的な明るさは、強みと言えるだろう。

 世界選手権、必ず勝算はある。

「表彰台を狙って、頑張っていきたいと思います!」

 坂本は茶目っ気のある声で言った。