新型コロナウイルスの感染拡大で、試合やアイスショーが次々と中止、または無観客試合になってしまった2020−2021シーズン。そんな状況でもフィギュアスケートを楽しんでもらいたい。その一心で、様々な企画を届けてくれたのがフジテレビのフィギュ…

 新型コロナウイルスの感染拡大で、試合やアイスショーが次々と中止、または無観客試合になってしまった2020−2021シーズン。そんな状況でもフィギュアスケートを楽しんでもらいたい。その一心で、様々な企画を届けてくれたのがフジテレビのフィギュアスケート班だ。コロナ禍での取材や企画について、ディレクターの藤田真弘さんに話を伺った。



今シーズンは開催される世界選手権。羽生結弦選手の活躍にも期待

 2020年の世界選手権(カナダ・モントリオール)が中止になって以降、これまで選手への密着取材なども行なってきたフジテレビは、新たな試みをスタートさせた。

 選手たちの滑りを見る機会が少なくなったファンのためにと昨年9月から始まったのがFOD(フジテレビオンデマンド)プレミアムの『PLAY LIST of figure skating』。様々なテーマに沿って集められたスケーターたちの過去の演技は、今でも楽しむことができる。

「地上波以外でも過去に取材してきた映像やアーカイブはどこにも負けないと思っているので、それをたくさんの人に届けたいという思いから始まった企画です。フジテレビのフィギュアスケート班は、ベテランから若いアシスタントディレクターまでとてもいい関係で、この企画を考えたのは25歳くらいの若いディレクターです。ベテラン勢にはなかなか思いつかない新しい発想を取り入れて、みんなでブラッシュアップしていきました」

 また、コロナ禍だからこそ挑戦したこともある。

「これも若いスタッフの発案なのですが、全日本選手権では『#(ハッシュタグ)スケーターとつながろう』というTwitter連動企画を実施しました。選手が通る通路にモニターを設置し、SNSを通じて届いたファンからのコメントを見てもらうという新しい試みでしたが、3万を超えるコメントが届いて我々も手応えを感じました。これも、このような状況だからこそできたことかなと思っています。ファンのみなさんのコメントを読んだ選手たちの表情もグッとくるものがありましたし、やってよかったなと思います」

 こう話す藤田さんは、コロナ禍が明けても新しい試みは続けていきたいと語ってくれた。

 そして、10月には2020−2021シーズンの競技が開幕。全日本フィギュアスケート選手権大会への最初の予選となるブロック大会は無観客開催が決定していた。そこでフジテレビが決断したのは、大会のライブ配信だった。

「ブロック大会の次の東日本・西日本選手権大会まで無観客開催が続き、親御さんも生でお子さんの試合が見られない。もちろんファンのみなさんも直接試合が見られない中で、選手たちの頑張っている姿、全日本へ勝ち進んで行く道のりを全国の人に伝えられたらいいなと思い、始めました」

 ブロック大会、東日本・西日本フィギュアスケート選手権大会、全日本ジュニアフィギュアスケート大会の配信を経て、いよいよ日本のトップ選手が集結する全日本フィギュアスケート選手権を迎えた。まず、準備段階から例年とは違うことが多数あったというが、一番大きかったのは全日本選手権が初戦、さらに新プログラムお披露目の場でもある選手がいたことだ。

「フィギュアスケートの演技を放送する時、カット割りというものがあるのですが、リンクサイドの各所にカメラを何台も設置し、『演技内容によってどのカメラで見せたいか』『このポーズの時は表情を逃さない』など、秒単位まで細かい打ち合わせをして本番に挑んでいます。ですが、私たちも羽生結弦選手や紀平梨花選手などの新プログラムを見たのは現地での公式練習が初。カット割りを担当するディレクター、技術、カメラマン全員で公式練習を見てから、全集中で打ち合わせをしました。

 そのような状態で生中継がスタートするというのは、私たちもかなりのプレッシャーでした。初戦だった選手たちはもっとプレッシャーがあったと思います。そこですばらしい演技を披露した選手たちは、本当に気持ちが強いなと感じました」

 そしてやはり最も気を使ったのは、コロナ対策だったという。

「コロナ対策に関しては、しっかり対応することができました。下見から念入りに準備を重ね、とにかく選手ファーストを心がけ、選手には絶対に迷惑をかけないようにと打ち合わせをしてから会場に入りました。我々スタッフは全員PCR検査を受け、会場入りしてからも検温を徹底しました。

 控室も細かく分け、席ごとにアクリル板を設置してこまめに消毒。食事をする部屋は作業をする控室とは別に設け、「黙食」を徹底するなどさまざまな感染対策を行いました。コロナ禍での中継は私たちも初めてのことが多かったので、何事もなく大会が終わった時はホッとしました」

 そして、今シーズンを締めくくる世界フィギュアスケート選手権(スウェーデン・ストックホルム)の幕が3月24日に上がる。

「このような状況なので、現地へ派遣するスタッフは放送に必要な最小限の人数に絞っています。今までの世界選手権では考えられないくらいの少人数になる予定です。厳しい感染対策をとって細心の注意を払い現地入りします。

 今までのように、演技後のミックスゾーン(囲み取材)もありませんし、私たちは客席の3階か4階にあたりまでしか入れないようです。(演技後のフジテレビ独自の)フラッシュインタビューはリモートになります。日本から質問を送り、その回答がお台場に届く形です。その映像などはスウェーデンのテレビ局が手配をしてくれる予定になっています」

 いつもとは違う中継の形に心配も尽きないが、全日本選手権まで選手たち、ファンに寄り添った番組を作ってきた経験が生きるはずだ。

 そして、今後の中継についてこう話してくれた。

「フジテレビのフィギュアスケートは長い歴史がありますが、先輩たちから今まで築き上げてきた伝統を守りつつ、どうしたら普段スケートを見ない人たちにもフィギュアスケートを楽しんでもらえるのか、見てくれる人が増えるのかも考えながら取り組んでいきたいと思っています」

 さまざまな創意工夫や苦労を語ってくれた藤田ディレクター。これまでフィギュアスケートを楽しんできたファンも大切にしつつ、フィギュアスケートという競技をさらに浸透させたいという情熱を感じた。