元ラガーマン・大島健吾の行動原理はシンプルだ。「そうしてみたいからやってみる」。陸上競技100mを始めたのも明快で、「義足だったら、どれだけ速く走れるのか知りたかったから」だという。そして、好奇心で突き進んだ3年目の全日本パラ陸上選手権。大…

元ラガーマン・大島健吾の行動原理はシンプルだ。「そうしてみたいからやってみる」。陸上競技100mを始めたのも明快で、「義足だったら、どれだけ速く走れるのか知りたかったから」だという。そして、好奇心で突き進んだ3年目の全日本パラ陸上選手権。大島は実力者たちを抑えて初優勝し、パラ陸上界のスター候補に名乗りを挙げた。

ラグビーに夢中だった高校時代

でも、どうしたら乗れるんだろうって考えて、他の子より遅かったけど、結局、竹馬に乗れるようになったんですよ。小さいころから、できないことをできるようにすることが好きみたいなんです(笑)。

昨年12月にはユニバーサルリレーのメンバーとして合宿に初参加した

ラグビー部に入ることにも迷いはなかったです。大学入学後、母に「ちょっと心配してた」と言われて、義足でラグビーって普通じゃないんだなって気づいたくらい。プレー中は、右にステップを切れなかったというのはあるけど、相手にはバレてなかったんじゃないかな(笑)。

高2のとき、顧問の先生が、「こういうの、行かんか?」といって、パラアスリートの発掘イベントに連れてってくれたんです。このとき、初めてパラスポーツという世界もあるんだな、僕も競技用の義足を履けるんだなと知りました。

でも、イベントにいらした義肢装具士の沖野敦郎さんが「競技用の義足、作れるよ」って。実際にお試し用で走ってみたら、ぴったりじゃなかったら重たかったんですけど、「自分に合った義足をつくったら、どれくらい速く走れるんだろう」と、知りたくなりました。

大学からスプリンターへの道へ
相棒の義足を使いこなし、急成長を遂げている大島健吾

弟を誘って一緒に走ったんです。そしたら生活用義足だと、ちょっと頑張らないとついて行けなかったのに、競技用だと余裕で差をつけられた。レースで走ったらすぐに1位になれるだろうと思いましたね(苦笑)。

陸上を始めて1年目は、全然陸上が分からなかったけど、2年目からは、足が後ろに流れたり、肩が前後しちゃう自分のクセを理解できるようになったんですよ。そこを修正できるようになってからは記録がどんどん伸びて、陸上が楽しくなりました。

たとえば僕が「こういう走りにしたいです」と話すと、松田先生は「どうして」とか「だったら、こうしたほうがいいんじゃない」と、話を聞いて相談に乗ってくれる感じです。すべて「こうしろ」という指導じゃないから、考える力がつきました。日本には、僕のように足が長い選手はいないから、走り方も義足についても自分で考える力がとても大事なんです。

現在、大学生の大島は、学童クラブでアルバイトをしながら競技に励んでいるという

体づくりに関しては、いまはラグビーの影響でボディビルダーみたいな極端な体になってるので、インナーマッスルなどを鍛えて、バランスをよくするようにしてますね。

栄養に関してですが、最近は自炊しています。うちは、きょうだいでごはんをつくっているので、「油ダメ」とかいえないじゃないですか(笑)。食べているのはほとんど低温調理器で調理した鶏肉。鶏肉を揚げないでどうおいしく食べるか、追求した結果です(笑)。わさび醤油やコチュジャンをつけて食べています。

こうすることで外に倒れやすいクセを改善し、安定性も出ました。肩とひざの位置がまっすぐになり、体の揺れを抑えられるようにも。義足自体もやや上につけたので、より大きい力で踏み込めるようになりました。

パラリンピック出場の先に見る偉大なる夢

自分では11秒70で走れる実力があると思っていたから、そのタイムなら2位か3位でもよかったんです。でも、90台で優勝しちゃったから素直に喜べませんでした。

昨年9月の日本選手権で100m(T64)を制した

(走り幅跳びの)マルクス・レーム(ドイツ)に憧れてるんです。オリンピックを抜く記録を出せるって、義足と人間の融合じゃないですか。僕も100mでそれをやりたいんですよ。もっと鍛えて義足を使いこなせたら、人間プラス義足の力で、健常の100mより速く走れる可能性がある。現状は義足を使いこなすのだけで大変だけど、僕が先駆けになりたいです。

僕は、音楽を聴きながら、散歩するみたいに気分のままに走るのが好きなんです。去年から学童のバイトも始めたんですけど、子どもたちと鬼ごっこするのとかがすごく楽しいんです。

text by Yoshimi Suzuki

photo by X-1