レッドブル・ホンダのトップタイム、そして何より角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ/つのだ・ゆうき/20歳)の2番手タイムで沸いた2021年のバーレーン開幕前テスト。だが、実際には例年にない未知数だらけのテストとなった。そんななかでレッドブル…

 レッドブル・ホンダのトップタイム、そして何より角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ/つのだ・ゆうき/20歳)の2番手タイムで沸いた2021年のバーレーン開幕前テスト。だが、実際には例年にない未知数だらけのテストとなった。そんななかでレッドブル・ホンダ、そして角田の実力はいかほどだったのか?



開幕前テストで2番手タイムを叩き出した角田裕毅

 今年はマシンの基本構造が昨年型からの流用とあって、テストはわずか3日間。どのチームも例年のようなシステムチェック、空力確認用のデータ収集、セットアップ作業、予選シミュレーション、レースシミュレーションといったプログラムをフルにこなすことはできず、取捨選択を強いられることとなった。

 新加入のドライバーを迎えたチームにとっては、ドライバーのマシン習熟とチームとのオリエンテーションも重要な課題になる。それをひとりあたり、わずか1日半のテストでこなさなければならず、とくに角田のようなルーキーにとっては非常に厳しい条件となった。

 それだけに、アルファタウリとホンダは角田のために2年前の2019年型マシンとパワーユニットを用意し(規定により完全に当時の仕様でなければならない)、事前にイモラとミサノで4日間にわたって走り込み、旧型車でも可能な習熟作業をしっかりとこなしてからバーレーン入りした。このあたりからも、チームとホンダが彼に寄せる期待値の高さがわかる。

 テスト初日、角田は強風と砂嵐のなかで安定した走行を見せたものの、燃料タンクのトラブルで4時間のうち1時間半を失い37周のみ。2日目はアタックラップでDRS(※)が機能しなかったり、角田の身長に合わせて延伸したブレーキペダルに不具合が出たり、ラップの最後に電気エネルギーが足りなくなってディプロイメントが切れたりと、フラストレーションが溜まる2日間を過ごした。

※DRS=Drag Reduction Systemの略。追い抜きをしやすくなるドラッグ削減システム/ダウンフォース抑制システム。

 それでも、最終日には最もコンディションのいい午後の走行を担当し、2週間後に行なわれるバーレーンGP決勝と同じ57周を2度のピットストップを交えながら連続走行でフルレースシミュレーションを完遂。そしてセッション最後の1時間には最も柔らかくグリップの高いC4タイヤの新品で3回、最後にC5タイヤを履いて2回のタイムアタックを行ない、1分29秒053の2番手タイムを記録してみせた。

「今日はとてもいい1日になりましたね。トラブルもなかったし、自分自身のドライビングに集中できたので、かなり前進できました。初日と2日目は不運が続きましたけど、最終日にこうしてまとめ上げることができてよかったです」

 メインストレートで本来のエリアより170メートルほど早くDRSをオープンにした影響も多少あるが、それでもアタックのたびにタイムを縮めてみせたのは、初めて経験するマシンとタイヤの限界値をしっかりと学習していったことを意味している。

「最も楽しかったのは、やはりC5タイヤを履いてアタックした時ですね。ものすごいグリップだったし、ああいうグリップレベルは今までに経験したことがありませんでした。

(今後の課題は)マシンのダウンフォースレベルを信じて高速コーナーに飛び込んでいくことに慣れるという点ですね。まだ完璧とは言えませんけど、進歩してきています。イモラやミサノでのテストでは格段にグリップの低いタイヤでの走行でしたし、今回はすごく楽しかったです」

 マックス・フェルスタッペンのトップタイムとは、わずか0.093秒差。とはいえ、フェルスタッペンは一段階ハードなC4タイヤであり、2回目のアタックはトラフィックに引っかかってタイムを伸ばせていない。また、フェルスタッペンは他車よりも20〜30mほど手前でブレーキを踏んでおり、重めの燃料を積んでいたことも推測できる。そう考えれば、レッドブルとアルファタウリの実際のタイム差はもっと大きなものになるだろう。

 もちろん、メルセデスAMGもこのままでは終わらないはずだ。

 テストではリアのナーバスさに苦しんでいたが、空力が完全に想定外の挙動を示した昨年のレッドブルとは違い、コーナーエイペックスからリアが抜けるなどの動きは追い風の影響だと考えられる。セットアップでの対処が可能ならば、開幕戦までにデータ分析によって改善してくるだろうし、空力パーツの修正が必要だとしても、メルセデスAMGならばアップデートまでにそう時間はかからないだろう。

 また、マシンの限界付近で走行しないロングランでは非常に速いペースを刻んでおり、彼らがトップレベルにあることは間違いない。やはり今年もレッドブルとメルセデスAMGの2強によるトップ争いになるのは変わらないだろう。

 つまり、角田がテストで2番手タイムを記録したからといって、アルファタウリがいきなりトップ争いに加わることはない、ということだ。むしろ問題は、大混戦の中団グループのなかでどう戦うかだろう。

 3日間という短いセッション時間に対応するため、今年は57周連続走行のフルレースシミュレーションを行なうチームは少なかった。予選アタックに躍起になるでもなく、それぞれが独自のプログラムを淡々とこなしているのが印象的だった。

 フルレースシミュレーションを行なった(=燃料搭載量が同じ)なかでは、角田のペースはフェラーリよりもやや遅く、アルファロメオと同等レベルだった。それがアルファタウリにとって現実的なポジションになるだろう。

 それでも安定したペースを刻んだのは、ルーキーとしては十分に高く評価されるべきこと。1度スピンを喫して予定より早めのタイヤ交換は強いられたものの、そこからしっかりと最後まで走り切ったのも見事だった。タイヤマネジメントについても、やや保たせすぎた感のある第2スティントに対して、第3スティントではしっかりとタイヤを使い切る走りへと修正ができていた。

 ロングランペースを見るかぎり、中団グループではマクラーレンがやや優勢で、アストンマーティンやアルピーヌも良好なペースを見せている。つまり、勢力図は昨年から大きく変わることなく、角田とアルファタウリは今季も大激戦のなかでの入賞争いを演じることになるだろう。

 いきなりチームメイトのピエール・ガスリーを上回るのはそう簡単なことではないし、この激戦区でQ3に進むことも容易ではない。角田が挑もうとしているのは、そういう挑戦だ。

 そしてホンダも、新型コロナウイルスの感染拡大により一時は開発凍結した新骨格のパワーユニットを、F1参戦最終年となる2021年に間に合わせてきた。

 パワーアップを図るべく、燃焼室形状やバルブ挟み角を変更し、それを可能にするためにクランクシャフト自体を下げ、さらには燃焼室同士を近づけることでICE全体をコンパクト化した。

 秋前からの開発再開で通常より短い時間しかないなか、HRD Sakuraの設計を具現化するため、試作部門の試行錯誤や昨年導入した熊本製作所の熊製メッキなど、ホンダ全体を挙げての努力が注がれている。レッドブル側も勝つためにマシン設計をやり直し、新骨格パワーユニット投入を了承した。

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「時間のないなかで新骨格エンジンの搭載が決まって、なんとかテストまで漕ぎ着けたのが現状です。HRD Sakuraの技術者たちは本当に短い時間のなかで開発作業をやってくれました。(これでチャンピオンになって)今年1年で『世界一の技術者になった』という自信を彼らに与えて、それを糧に苦難を切り拓いていく技術者に育ってほしい。彼らの新分野での活躍に期待したいと思っています」(浅木泰昭F1開発責任者)

 3日間のテストをノートラブルで終えて、今は開幕戦に向けてデータを分析し、さらに磨きをかけているところだという。テストの現場運営を統括した田辺豊治テクニカルディレクターはこう振り返る。

「新骨格のパワーユニット投入でやることは山積していましたが、長い時間を止めるような大きなトラブルはパワーユニット側には出ず、順調にテスト項目をこなすことができました。今はデータを整理し、HRD SakuraとHRD MKと連携してデータの解析から最適化を進めています。

 トラブルや懸案に対してはどのように対応していくのか、レース現場での各自の役割やチームコミュニケーションのオペレーションなど、そのあたりの見直しを開幕戦に向けて進めています。我々が狙っていたパフォーマンスの方向性も実走上で確認でき、両チームから『パフォーマンスがいいね。ホンダありがとう』と言ってもらえました」

 レッドブルとアルファタウリの実力がいかほどか、そしてメルセデスAMGはどこまで挽回してくるか。今年はテスト距離が少ないだけに、未知数の部分は多々ある。だからこそ、テストではライバルとの比較ではなく、自分たちのなすべき課題をしっかりと見据えて取り組むことが最も重要となる。

 そういう意味で、レッドブルとアルファタウリ、そして角田裕毅がそれぞれの好スタートを切ったことは間違いなさそうだ。