現地時間3月13日、WBA世界ライトフライ級王者・京口紘人(ワタナベジム)が、テキサス州ダラスで行なわれたアクセル・アラゴン・ベガ(メキシコ)との防衛戦で"米国デビュー"を飾った。 試合は4回まで接近戦の激しい打ち合いが多く、ほぼ互角の展…

 現地時間3月13日、WBA世界ライトフライ級王者・京口紘人(ワタナベジム)が、テキサス州ダラスで行なわれたアクセル・アラゴン・ベガ(メキシコ)との防衛戦で"米国デビュー"を飾った。

 試合は4回まで接近戦の激しい打ち合いが多く、ほぼ互角の展開。5回、右パンチで京口の側頭部を叩いた挑戦者が右拳を骨折し、続行不可能となったため京口のTKO勝利となった。少々スッキリしない形ながら、京口が3度目の防衛を果たした一戦は、地元メディアの目にどう映ったのか。イギリス最大のプロモーターである「マッチルーム・スポーツ」と契約した27歳の日本人王者は、今後、どんなキャリアを歩んでいくのか。

 試合後、アメリカでもっとも権威あるボクシングの専門誌、『リングマガジン』のダグラス・フィッシャー編集長に話を聞いた。

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ライトフライ級で3度目の防衛を果たした京口(写真:時事通信社/マッチルーム提供)

 ベガとの京口の戦いぶりは、感心させられるまでには至らなかった、というのが正直なところです。京口はベストと思える戦い方をせず、面白い試合に"してしまった"と感じました。

 身長146cm の小柄なベガと至近距離で打ち合い、見ている者にとって楽しいファイトになったことは事実です。ただ、そのせいでオーバーハンドライト、ボディブローを打ち込むチャンスをベガに与えてしまった。ベガのパンチがあれほどよく当たったことに、私は少し驚かされました。

「驚かされた」というのは、私のベガに対する知識が足りなかったからかもしれません。あらためて戦績を見ると、ベガはミニマム級時代、WBO同級王者のウィルフレッド・メンデス(プエルトリコ)との2戦をはじめ、強豪とも戦っています。メンデスには2敗しており、WBO王座がかかった2戦目は負傷判定で敗れたものの、採点自体は接戦でした(ベガがダウンを奪ったが、メンデスが67-66, 68-65, 66-67の2-1判定で勝利)。

 そんな底力がある挑戦者との防衛戦は、京口にとってイージーにはなりませんでした。ただ、今回がアメリカデビュー戦だったことは考慮されるべきでしょう。未知の環境で、しかもDAZNによって世界中に生配信される大舞台でしたから、ベストの戦いをするのは簡単ではなかったはずです。

 思い返せば、井上尚弥(大橋ジム)でさえ、2017年9月の米国デビュー戦は完璧な出来ではありませんでした。井上は左ジャブとボディ打ちがよく、アントニオ・ニエベス(アメリカ)を相手に6回終了TKO勝ちを飾りましたが、全体的に動きが硬く、『向上の余地があるな』と思いました。

 日本で戦った試合と比べて、一段落ちるパフォーマンスだったと思います。そういった例を考慮すれば、大きなプレッシャーがかかるアメリカでの第1戦で、京口がベストの状態で戦えなかったことも、当然のことだったのかもしれません。

 私が京口の試合をリングサイドで見るのは今回が初めてでしたが、左アッパーがいいですね。ボディ打ちにも力がこもっていて、危険なパンチ。京口はそれらをミドルレンジから打つこともあった。カウンターを浴びるリスクもありますが、遠い距離から繰り出されるために威力のある武器になっています。

 彼のパンチの出し方を見ると、ローマン・ゴンサレス(ニカラグア)をはじめとする他のエリート王者たちの打ち方を研究していることが伝わってきます。ライトフライ級での京口は、ミニマム級で戦っていた時ほどパワフルではないのかもしれませんが、いい体つきをしています。今後、IBF同級王者フェリックス・アルバラード(ニカラグア)のような大柄な同級の選手と対戦した時に、どんな戦いをするのかが楽しみです。

 京口の目の前には、統一戦の可能性が広がっています。アルバラード、WBO同級王者エルウィン・ソト(メキシコ)は、どちらも「ゴールデンボーイ・プロモーションズ」の契約選手で、彼らの過去のタイトル戦はDAZNで生配信されています。京口と契約を結んだ「マッチルーム・スポーツ」のエディ・ハーン社長、DAZNにとっても、統一戦は"望むところ"なはず。近い将来、京口が統一戦のステージに立つ日が来るかもしれません。

 今後、京口が『リングマガジン』のパウンド・フォー・パウンドでトップ10に入るためには、ふたつの条件のうち、少なくともひとつをクリアすることが求められるでしょう。そのふたつとは、「ライトフライ級の4団体統一王者になること」と、「フライ級に階級を上げ、印象的な形で3階級制覇を果たすこと」。そのいずれかを成し遂げれば、多くの関係者やファンは、京口に対してより大きな敬意を払うに違いありません。

 このままアメリカで試合を重ね、試合が生配信され続ければ知名度も上がるはず。すでに高い評価を勝ち得た井上と同じように、京口が本場アメリカのリングでも注目される選手になっていくことは、十分可能だと私は考えています。