MotoGPプレシーズンテストの中上貴晶。王座獲得への意気込みを語った いよいよ2021年シーズンのMotoGPが幕を開ける。開幕戦の舞台は中東カタール、ロサイル・インターナショナル・サーキットだ。毎年恒例のナイトイベントで、3月28日の現…



MotoGPプレシーズンテストの中上貴晶。王座獲得への意気込みを語った

 いよいよ2021年シーズンのMotoGPが幕を開ける。開幕戦の舞台は中東カタール、ロサイル・インターナショナル・サーキットだ。毎年恒例のナイトイベントで、3月28日の現地時間夜に決勝レースがスタートする。

 20年に何度も表彰台をうかがう走りを見せて存在感を発揮した日本人選手の中上貴晶は、21年も昨年同様にLCR Honda IDEMITSUから参戦、今季は最新ファクトリー仕様のマシン体制で挑む。この開幕に先立ち、3月6、7日と10〜12日の2回に分けて同地で実施されたプレシーズンテストの内容や、開幕戦の手応えと来たるシーズンに向けた決意を中上に訊いた。

ーー開幕前のテストは、最終日の12日が強風の悪天候でほとんど走行できない状況になり、5日間のテストが実質上4日間になりました。予定していたテストメニューの消化や仕上がり具合はどんな状態ですか?

「21年モデルのマシンに乗る初めての機会で、しかも限られた時間でニューパーツのテストなどもたくさんあった中、最終日に悪天候でほとんど走れなくなってしまったのは、正直なところ、やや想定外でした。なので、開幕戦のレースウィークに備えてマシンのベースセットアップを隙なくまとめきるというところまではたどり着けませんでした。自分の印象としては、60パーセントくらいの仕上がり、といったところです」

ーー21年仕様の最新バイクで走った感触はどうでしたか?

「去年のデータを見ても、20年のファクトリーマシンと自分が乗っていた19年型では明らかにエンジンパフォーマンスが違っていました。実際に走ってみると、たとえばトップスピードは乗りはじめてすぐに違いを感じられるほどの差がありました。昨年までは、レースを組み立てるにしても、トップスピードが大きな課題でした。ドゥカティ勢の後ろについてしまうと、彼らの強みであるトップスピードで前を抑えられてしまうために、自分の長所を発揮して勝負を組み立てられなくなり、フラストレーションがたまることが何度もありました。

 もちろん自分のライディングで改善すべき点もあるのですが、HRC(ホンダレーシング)からは『トップスピードで苦労していた部分を、メーカーとして手助けしたい』という言葉をいただいたので、そこがカタールで改善できたのはいいことでした。それ以外にも車体面の調整などではもう少し時間がほしかったのですが、これから開幕戦までの数日間に、どういうバイクで臨むかHRCやチームのチーフメカニックとしっかりと相談をして詰めていきます」



4年目のシーズンを迎え、これまでにない重圧を感じているという

ーーテストでは、中上選手が昨年使用していた車体と21年の最新スペックの比較検討に集中していたそうですが。

「それぞれ長短があって、こっちのほうが絶対にいい、とはまだ言いきれないところがあるんですよ。ただ、開幕戦では2台の比較を続けるよりも、どちらかに絞り込んで集中したほうがいいので、そこをどうするか、レースウィークに向けてチーフメカニックと話をしているところです。

 自分としては、21年のバイクでいったほうがいいのかなと思っています。21年の車体はハンドリングや旋回性が良くなっている印象ですが、コーナーの立ち上がりではまだ詰めなければならない部分が残っています。ハンドリングだけなら21年型、立ち上がりやリアの動きは昨年型のほうが好みだったので、そこがまだ迷っているところですね。それでも21年型車体のポテンシャルを信じてレースに挑んだほうが良いのかな、というのが今の考えです」

ーー去年は、表彰台に手が届きそうなレースが何度もありました。今年はファクトリースペックで走るので、目標設定もおのずと高くなっているのではありませんか?

「ずっと希望してきた最新型マシンをようやく手に入れるところまでたどり着けた、という思いもあるのですが、それに見合った結果が求められる、ということでもあります。このマシンを与えてくれたホンダに対しても、結果で応えなければならないプレッシャーを感じています。実際に、先日のテスト期間中もピットボックスでコメントを収集するHRCのエンジニアの数が昨年までとは違っていました。電子制御や車体、エンジンなど、各分野の専門技術者の方々に対して、それぞれの分野についてのコメントを的確に評価していく環境です」

ーーそのあたりの変化に、HRCからの期待の大きさや、自分が評価するコメントの責任の重さを感じるのでは?

「今までとはまったく違いますね。カタールのテストが始まる前にHRCのエンジニアの方たちとミーティングの場を設けてもらったのですが、『このミーティングはタカをチャンピオンにするためのプログラムで、そこに自分たちは焦点を置いている』とハッキリと言われました。今まで言われたことのない言葉だったので、ものすごい重圧や期待の高さや、いろんなものを感じましたね。『タカをチャンピオンにしたい』と言ってくださったことはすごくうれしかった反面、それ以上の結果で応えなきゃなと思うとすさまじいプレッシャーもあります。気持ちはとても引き締まりますね」

ーーテストを終えた段階では、ドゥカティファクトリーの調子が良さそうで、ヤマハもきっちりとまとめてきている様子です。また、昨年王者のスズキも相変わらずバランスが良さそうです。開幕を前にしたライバル陣営の戦力分布は、ライダーの目からどう見えていますか?

「そこは正直、かなり難しいところがあって、テストの数字だけではなかなか判断しづらいところもあると思います。テストメニューの組み立て方やテスト中のタイヤの使い方などは、同じメーカーでもライダーによってさまざまなので、テストの数字だけではなんともいいにくい面があります。

 たとえば、テストでトップタイムだったジャック(・ミラー/Ducati Lenovo Team)と自分のタイム差は1秒近くありました。レースウィークなら、このタイム差はたしかに致命的です。ただし、テストではどのタイヤを何本、いつ、どう使うかということにも左右されるし、僕の場合は20年型と21年型の比較に集中していたので、タイムアタックをしていません。というふうに、いろんな要素が違うので、皆のタイムやロングランの内容などはもちろんチェックしているものの、正直なところ、あまり気にはしていなかったですね」

ーーテストの前には、今シーズンに向けて具体的な数字としての目標設定はしていないと言っていましたが、開幕戦はどんな戦い方をしていく腹づもりですか?

「今のところ、シーズンで何勝したいとか表彰台に何回上がりたいというような数字は、自分では設定していません。数日前にテストが終わったばかりということもあるし、車体についてはまだ迷っている部分もありますが、ポテンシャルがあることは確実にわかっているので、自分のなかでは、開幕2連戦で優勝をターゲットにしてトップ争いを視野に入れています。テストでは上位に顔を出せなかったものの、下準備としてのデータを収集できたので、データを活かしてチームやHRCの人たちと開幕までにしっかり話を詰めて備えます。

 あとはさっきも言ったとおり、ファクトリーマシンを手に入れた以上はそれに見合った結果を当然ながら求められるので、その期待に応えなきゃいけない、という気持ちが大きいですね。だから、今まで以上に自分に対してもっと厳しくなりました。昨年までは、ミスができた年でした。挑戦をして勉強していてもいい年だったのだと思いますが、今年からは、自分がこの3年で経験してきたことを、結果として数字として残していかなければならない。だから、もう失敗できないしミスもできない、と考え方が変わりましたね」

ーー開幕戦と第2戦はカタールで2週連続開催です。この2連戦でいい結果を残すことは、シーズン全体の流れに弾みをつける意味でも重要ですね。

「カタールはナイトレースなので、ここだけで判断するのは難しい面もありますが、2連戦だし、勢いをつけるという意味でも重要なので、取りこぼしのないようにできるかぎりたくさんのポイントを獲得するつもりです。ここで幸先の良いスタートを切って、チャンピオンシップを有利に戦っていきたいですね」

【profile】 
中上 貴晶 なかがみ・たかあき 
1992年、千葉県生まれ。4歳でポケバイに乗り始め、12歳からロードレースに参戦。2006年には全日本ロードレース選手権GP125クラスを全戦全勝でチャンピオン獲得。08年に世界選手権125ccクラスにフル参戦し、Moto2クラスなどを経て18年から最高峰クラスで戦っている。