元寺尾・錣山親方の『鉄人』解説~2021年三月場所編元関脇・寺尾こと錣山(しころやま)親方が、本場所の見どころや話題の力士について分析する隔月連載。今回は、3月14日から両国国技館で開催されている大相撲三月場所で注目すべき力士について話を聞…

元寺尾・錣山親方の『鉄人』解説
~2021年三月場所編

元関脇・寺尾こと錣山(しころやま)親方が、本場所の見どころや話題の力士について分析する隔月連載。今回は、3月14日から両国国技館で開催されている大相撲三月場所で注目すべき力士について話を聞いた――。

 大相撲三月場所が3月14日から東京・両国国技館で行なわれています。

 本来、3月の春場所は大阪での開催となりますが、今年はコロナ禍にあって、移動による感染リスクを避けるため、東京での開催となりました。昨年も新型コロナウイルス感染拡大の影響により、無観客開催となったので、関西方面で大相撲観戦を楽しみにしていたファンの方々には申し訳ない気持ちでいっぱいです。

 それでも、昨年の七月場所以降と同じく、両国国技館での本場所開催は実現することができました。今場所も最後までとどこおりなく行なわれるように、私たち相撲協会員は感染防止を徹底し、できる限りの努力をしていく所存です。関西方面のファンの方々はもちろん、観戦に訪れることができない全国のファンの方々には、日々全力で戦う力士たちの姿を、テレビ画面を通して楽しんでいただければと思います。

 さて、今場所前は、ここのところ休場が続いている白鵬、鶴竜の両横綱が久しぶりにそろって出場する、という話題で盛り上がっていました。実際、先月行なわれた合同稽古に両横綱が参加。若手力士を相手に、いい汗をかいていたようでした。

 ところが、場所の直前になって、鶴竜が足を負傷して急きょ休場を発表。一方の白鵬は無事に初日を迎え、先場所の覇者で若手成長株の小結・大栄翔に勝って、2日目も宝富士(前頭筆頭)を巧みな相撲で仕留めたのですが、その一番を終えて古傷のヒザの状態が悪化し、3日目から休場となってしまいました。

 とても残念ですが、両横綱もすでに30代半ば。この年齢まで、横綱という責任ある立場で居続けるのはどれだけ大変なことか。関脇止まりの私にはわかりませんが......。

 そんななか、いよいよ現実味を帯びてきたのは、関脇・照ノ富士の大関復帰です。



大関復帰が現実味を増してきた照ノ富士

 周知のとおり、かつて大関として活躍していた照ノ富士は、ヒザのケガや内臓疾患などにより、休場を重ねて序二段まで番付を下げてしまいました。しかしそこから、一念発起して関取に復帰。昨年の七月場所には幕内の土俵に戻ってきて、幕尻での優勝という快挙を果たしました。

 以降、番付を上げながら好成績を重ね、昨年十一月場所で13勝、今年一月場所でも11勝を挙げ、今場所で9勝以上すれば、大関昇進基準(直近3場所の勝ち星が33勝以上)をクリアすることになります。初日から4連勝と好スタートを切った今の照ノ富士なら、その可能性はかなり高いでしょう。

 前半戦のポイントは、3日目の大栄翔戦でした。このところ苦手にしている相手に対して、どのような相撲を取るか注目していましたが、照ノ富士らしい豪快かつ緻密な相撲で勝利。この一番を見て、悲願達成がグッと近づいたと思いました。この調子を維持して、できれば10勝以上挙げて、大関復活を決めてほしいですね。

 昨年十一月場所で2度目の優勝を飾って、今年一月場所で「綱取り」にチャレンジした貴景勝も、今場所は元気なところを見せています。一月場所では無念の休場に追い込まれ、今場所は一転、カド番といった状況にありますが、彼本来の押しに徹して、相手を引く相撲が少なくなっていることが、勝ち星につながっていると思います。

 貴景勝については、体重を183kgから166kgへと17kgもの減量を敢行したことも話題となりました。本人が「トレーニング法を変えた」と言っているように、その体つきを見る限り、無理なダイエットをしたようには見えません。余分なものを削ぎ落して、改めて筋肉をつけ直したのではないでしょうか。

 そもそも、協会の健康診断で体重を測定したのは先月のことですから、それから1カ月が経過した今、体重はもう少し増えていると思います。いずれにせよ、貴景勝にとって、一連の体作りの改革がいい結果につながることを願っています。

 平幕の力士に目を転じると、先場所、新入幕で技能賞を受賞した翠富士(前頭10枚目)がいいですね。身長171cm、体重117kgの小兵ながら、十両を4場所で通過。新入幕を果たし、「ふた桁(10勝)を挙げて、三賞を狙いたい」といった抱負を語っていましたが、有言実行で三賞を受賞したのはお見事でした。

 彼のお家芸は「肩透かし」。相手力士が出てくるところで身をかわし、相手の肩口をはたいて引き落とす技なのですが、タイミングと一種の勘が必要な技でもあります。先場所ではその肩透かしを9勝のうち4回も決めて、"翠富士=肩透かし"というイメージが定着しました。

 そして、今場所はどんなものかと思って見ていましたが、あの小さな体で相手を押していって勝つなど、見た目以上に前に出る力があること示していました。そうした正攻法の相撲もできるからこそ、奇襲的な肩透かしがより効果を発揮するんですよね。

 ただ、翠富士はまだ幕内2場所目。幕内力士たちに、彼の取り口が完全に浸透していない強みがあります。特に今はコロナ禍にあって、出稽古も禁止ですし、地方巡業もありませんから、先輩力士たちに研究される場が少ないのも大きいです。

 同じ小兵力士の炎鵬も、相撲を覚えられたことで、今や十両に陥落してしまいました。翠富士も、本当の意味での実力が問われるのはこれからでしょう。とはいえ、小兵力士が活躍すると土俵が活気づきますから、炎鵬の巻き返しも期待していますし、翠富士には自らも成長を重ねて、そのうち訪れるであろう"壁"を打ち破ってほしいと思っています。



photo by Kai Keijiro

錣山(しころやま)親方
元関脇・寺尾。1963年2月2日生まれ。鹿児島県出身。現役時代は得意の突っ張りなどで活躍。相撲界屈指の甘いマスクと引き締まった筋肉質の体つきで、女性ファンからの人気も高かった。2002年9月場所限りで引退。引退後は年寄・錣山を襲名し、井筒部屋の部屋付き親方を経て、2004年1月に錣山部屋を創設した。現在は後進の育成に日々力を注いでいる。