オーストラリア・メルボルンで開催された「全豪オープン」(1月16~29日/ハードコート)は最終日、男子シングルス決勝が行われ、第17シードのロジャー・フェデラー(スイス)が第9シードのラファエル・ナダル(スペイン)を6-4 3-6 6-…

 オーストラリア・メルボルンで開催された「全豪オープン」(1月16~29日/ハードコート)は最終日、男子シングルス決勝が行われ、第17シードのロジャー・フェデラー(スイス)が第9シードのラファエル・ナダル(スペイン)を6-4 3-6 6-1 3-6 6-3の激戦の末に破り、2012年のウィンブルドン以来、通算18回目のグランドスラム優勝を果たした。自身の持つグランドスラム史上男子シングルスの最多優勝記録を塗り替える勝利。35歳5ヵ月での優勝は1972年にケン・ローズウォール(オーストラリア)が37歳2ヵ月で全豪オープンを制して以来最年長となる。

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 1万5000席が埋まったスタンドはともかく、記者席からこんなにも人が減らない試合は、決勝戦といえどもそうはない。そのクライマックス、ラストシーンをなんとしても自分の目で直に見届けたい、その欲望はテニスに携わる者としては当然のものだった。

 35歳になった元王者フェデラーが、18回目のグランドスラム優勝を達成し、自身の持つ史上最多優勝記録を4年半ぶりに更新するかもしれない歴史的な一戦。対峙するナダルにもフェデラーに次ぐ15個目のメジャータイトルがかかっていた。それにしても、第9シードと第17シードというシード順位がこれほど無意味な試合もない。現在1位のアンディ・マレー(イギリス)と2位のノバク・ジョコビッチ(セルビア)がグイグイ台頭してくる2010年頃まで5年近くも〈二強時代〉を築いた伝説のライバルである。

 通算対戦成績はナダルが23勝11敗で大きくリードし、グランドスラムの決勝でも6勝2敗。フェデラーに対する攻め方は熟知している。武器である強烈なトップスピンで、片手バックハンドの泣き所である高い位置を攻めるのだ。フェデラーもそれは覚悟していたはずだったが、同時に一つ決心していたことがあったという。

 「自由にプレーしようと言い聞かせた。コーチたちともそう話してコートに入ったんだ。頭を自由にして、自由にショットを打とうとね。自分を信じて、対戦相手よりボールに集中してプレーした」

 フェデラーがセットを先取し、ナダル、フェデラー、ナダルと交互に取り合い、ファイナルセットにもつれた。フェデラーが第3セットを2ブレークで奪ったとき、このまま終わるとは思えなかったのは、ナダルの不屈の精神力を知っていたからだろう。実際に第4セットはナダルが第4ゲームでブレークに成功。フェデラーはすぐ次のゲームで2度のデュースに持ち込むが、キープを許す。フェデラーにブレークの気配がありながらあと一本が奪えないもどかしさに、ここからロジャー・ファンは何度も頭を掻きむしったに違いない。

 フェデラーからはときどき思いがけないミスが出るが、ナダルにはそれがない。フェデラーがポイントを取るためにはスーパーショットを決めなくてはならなかった。ミスが出るのも仕方がない。フェデラーがナダルの倍以上の73本のウィナーを決め、やはり倍以上のアンフォーストエラーをおかしたというデータがそれを物語っている。

 最終セット、最初のゲームでいきなりブレークを許す。第2ゲームは15-40のチャンスで、決めにいったバックハンドのダウン・ザ・ラインがネットにかかる痛恨のミス。30-40ではナダルがファーストサービスから3本目でフォアハンドのウィナーをきっちりと決めた。第4ゲームでもデュースのあとのブレークポイントを生かせず、第6ゲームで2度目のデュースのあとこのゲーム2度目のブレークポイントをついにブレークにつなげた。

 これで3-3に追いつくとラブゲームでキープ。第8ゲームは0-40でトリプルブレークポイントの絶対的チャンスを迎えるが、デュースに戻された。ここでのポイントはこの日最多の26打のラリー。追い込んだ側が次の瞬間には追い込まれているという攻防の末、フェデラーがフォアハンドのダウン・ザ・ラインを鮮やかに決め、アドバンテージを握った。サービス一本でデュースに戻されるが、そこからの2ポイント連取に大きな勇気を与えたショットだった。

 サービング・フォー・ザ・マッチでドラマはまだ続く。15-40でブレークバックのピンチを迎え、エースとフォアハンドのウィナーでデュースに戻すが、最初のマッチポイントでダブルフォールト。フェデラーがチャレンジに成功するが、結局デュースになり、エースで2度目のマッチポイントを握ると、最後はフォアハンドのクロスのウィナーを決めた。これに対するナダルの最後のチャレンジは失敗し、割れるようなセンターコートの熱狂とフェデラーの雄叫びが混じり合った。

 「試合の終盤で自分のベストのテニスができた。自分でもびっくりした」とフェデラーは言ったが、それは試合前の決心とそれを貫いた結果だっただろう。

 セレモニーでは互いに相手の劇的なカムバックを称え合い、ナダルは晴れ晴れとした笑顔さえ見せていた。

 「もちろん勝ちたかった。でもすごく辛いというわけじゃない。個人的にはとても満足している。オフにハードな練習をしてきたから、それを試合につなげることができて自信になった」

 マレーとジョコビッチの新2強時代が本格化した昨シーズン、フェデラーは膝の故障のためシーズンの半分を休業し、ナダルも上海マスターズでの初戦敗退を最後に、手首のケガに泣いたシーズンを切り上げた。堅固だった〈ビッグ4〉は崩れ、旧二強の復活は年齢的にも困難と見られていた昨今。ともにマレーとジョコビッチのどちらとも対戦することなく決勝に進出したが、それでこの決勝の価値が下がるはずもない。テニス界がこの二人の戦いをどれだけ欲していたかに気づかされた大会、2017年の勢力地図が描き変えられたかもしれない全豪オープンだった。

(テニスマガジン/ライター◎山口奈緒美)