2021シーズンF1注目ポイント@中編 開幕戦のバーレーンGPまで、あと約2週間。待ちに待ったF1シーズンが幕を開ける。新型コロナウイルスの感染拡大によってさまざまな変更を余儀なくされた1年を経て、今年はどんなシーズンになるのだろうか。注目…

2021シーズンF1注目ポイント@中編

 開幕戦のバーレーンGPまで、あと約2週間。待ちに待ったF1シーズンが幕を開ける。新型コロナウイルスの感染拡大によってさまざまな変更を余儀なくされた1年を経て、今年はどんなシーズンになるのだろうか。注目すべきポイントをピックアップする。

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打倒メルセデスAMGに燃えるレッドブル・ホンダ

(4)ホンダF1、ラストシーズンの勝算は?

 ホンダは2021年かぎりでF1から撤退することを決めており、これが当面最後のシーズンになる。

 そのためホンダは、2022年に向けて研究開発を進めていた新しい燃焼コンセプトを1年前倒しで投入することを決めた。浅木泰昭が開発責任者に就任してから開発してきた燃焼コンセプトにはまだ伸びしろがあったが、それをしゃぶり尽くすよりも、さらに大きな伸びしろのある新コンセプトを投入して、より大きな飛躍を果たそうというわけだ。

 当然、熟成不足に陥るのではないか、というリスクもある。

 しかし、ホンダは昨年前半の時点でF1撤退を検討しており、8月には正式決定していた。だからこそ、そのタイミングで旧コンセプトの開発を止め、新コンセプトへと開発リソースをフルに集中することができた。よって、熟成不足を心配する必要はあまりないだろう。

 実際に開発は順調に進み、ベンチテストでは想定どおりの性能を示しているという。それはつまり、昨年までの旧コンセプト以上のパワーが出ているということにほかならない。

 昨年型パワーユニットRA620Hは、最大出力ではメルセデスAMGとほとんど差はなかったという。予選・決勝シングルモード規定となり、極めて特殊に攻めた予選専用セッティングができなくなってからは、とくに予選での差はなくなった。

 しかし、ERS(エネルギー回生システム)の効率ではメルセデスAMGが群を抜いており、決勝で連続周回しているなかでのディプロイメント量(アシストが効かせられる時間)は、他メーカーに大きな差をつけていた。その代償として新設計のMGU-K(※)にトラブルが散発したが、その原因であった製造・組み立て上の品質管理の難しさを今季型では設計変更によって克服しつつあるという。

※MGU-K=Motor Generator Unit-Kineticの略。運動エネルギーを回生する装置。

 ホンダとしては、メルセデスAMGとの差を埋めるためにはこのERSの改良が必要不可欠と言える。そうしなければ、決勝での競争力を保つことができないからだ。この弱点には昨年の序盤ですでに気づいており、2021年に向けて改良を進めてきている。

 ただ問題は、メルセデスAMGが今季型パワーユニットに「これまでにレース用パワーユニットに使用してこなかったイノベーションを投入している」と言っていることだ。

 本家メルセデスAMGだけでなく、アストンマーティンのAMR21にもリアカウルに大きなバルジ(膨らみ)が存在していた。パワーユニット上部の吸気系、またはターボ周辺に何らかの大きなコンポーネントを搭載していることを匂わせている。

 2014年の規定導入から今年で8年目となり、すでに現行パワーユニットの開発は重箱の隅をつつくところまで来ていると思われていた。しかし、メルセデスAMGが革新的アイデアでさらなる大飛躍を遂げたとなれば、総合力で追いつくのはそう簡単ではないかもしれない。予定どおりなら23戦を3基で戦わなければならず、シーズンが開幕してしまえば大きな開発はままならないからだ。

 ホンダの最終シーズンには、またもメルセデスAMGという高すぎる壁が立ちはだかることになる。だが、ホンダもまだRA621Hの詳細は一切明らかにしておらず、レッドブルもRB16Bに隠し球を持っていると見られている。

 彼らがメルセデスAMG以上に大きな"タマ"を隠し持っていることを期待したい。

(5)コストキャップ&新規定導入で、今季の戦い方が大きく変わる?

 2021シーズンは、各チームの戦い方が従来と大きく異なるものになりそうだ。

 まず、コストキャップが導入されて、各チームの年間予算は1億4500万ドル(約158億円)に制限される。ドライバーの契約金やマーケティング費用などは含まれないとはいえ、これまで年間300億円とも500億円とも言われる予算を投じてきたトップチームにとっては、かなり厳しい制約となるだろう。

 この年間予算は、2021年1月1日から12月31日までの費用となる。つまり、2021シーズンを戦うコストだけでなく、2022年型マシンを設計・製造するためのコストも含まれるのだ。

 2021年のマシンが昨年型から約60%を踏襲しているのに対し、2022年はまったく新しいレギュレーションが導入されて完全に生まれ変わる。そのため、多くのチームは2021年型マシンの開発を早い段階で打ち切り、早々に2022年型マシンの開発に専念することを余儀なくされるだろう。

 本来は2020年が新規定への"移行の年"となるはずだった。だが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で新規定導入が1年延期となり、移行シーズンがコストキャップ導入初年度と重なることになった。

 2021年型マシンの出来によって今シーズンに望みがないと判断したチームは、早々に開発を打ち切って年間予算を2022年型マシン開発に振り分けるだろう。新規定で"どんでん返し"が期待できるうえに、そこで築いたアドバンテージが長く続く2022年型マシンに予算を注いだほうがメリットが大きいからだ。

(6)角田裕毅以外のルーキーはどんなドライバー?

 今年は角田裕毅(つのだ・ゆうき/20歳)を含めて、3名のルーキーがF1デビューを果たす。だが、角田以外のふたりはハースという今季下位候補チームからのデビューだけに、期待値はそれほど高くない。

 ひとりは、昨年のFIA F2のチャンピオンであるミック・シューマッハ(21歳)。あの7度の世界王者に輝いたミハエル・シューマッハの長男だ。

 FIA F2のタイトルを獲得したのは参戦2年目。一発の速さが光るタイプではなく、安定感のある走りでポイントを重ねてチャンピオンに輝いた。

 ユーロF3でも参戦2年目でタイトルを獲得している。だが、本人曰く「必ずしも2年目をターゲットに据えているわけではない。時間をかけて徐々に学んでいくタイプというわけでもなく、FIA F2ではトラブルなどの不運がなければ初年度からもっとランキング上位につけていたはずだ」という。

 シューマッハは角田のように周囲をあっと言わせるようなバトルをするわけでもなく、予選で圧倒的な速さを見せるわけでもないため、世間の評価はそれほど高くない。しかしそれは、FIA F2タイトル獲得という至上命題を果たすため、あえて採ったスタイルだろう。

 一方、荒れることの多いF2のレースで確実に混乱を避けて、ポイントを手にする危機回避能力と安定感は優れていた。追い抜きなど必要な時には攻めた走りも可能であり、切り替えがうまいドライバーだ。

 父の名が大きすぎるがゆえに過小評価されているが、速いドライバーでなければF2で上位争いはできない。また、安定したレース運びができなければ、チャンピオンタイトルは獲れない。

 F1でも初年度は「学習の年」として背伸びすることなく、自分に求められることを冷静に判断しながら成長していくだろう。派手さはないだろうが、着実にステップアップしていき、来たるべきときに花を咲かせるタイプだ。

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 一方もうひとりのルーキー、ニキータ・マゼピン(22歳)はデビュー前から世間を騒がせている。

 F2では幾度か危険なドライビングを見せたことで、「F1に適格ではない」との批判を受けた。昨年もスチュワードに「危険である」と裁定されたドライビングは3回(ベルギー=1回、バーレーン=2回)。そういうレッテルを貼られているがゆえに、危険なドライビングばかりしている印象がある。

 昨年はシリーズランキング5位。ただ、実力が試されるレース1で2勝を挙げるなど、速さはある。FIA F2初参戦の2019年はARTグランプリでマシンセットアップ方針が合わずに速さを発揮できなかったが、2年目はハイテック・グランプリともにセットアップやレース戦略を組み立てていった。

 限界まで相手を追い詰めようとするレースやバトルに対するスタンスは、あらためる必要があるかもしれない。だが、ドライバーとしては理知的で用意周到なタイプだけに、ターゲットを間違えなければ結果に結びつく可能性も十分にある。環境が整えられれば、マゼピンはシューマッハとともに落ち着いて成長していくのではないだろうか。

(つづく)