2021シーズンF1注目ポイント@前編 開幕戦のバーレーンGPまで、あと約2週間。待ちに待ったF1シーズンが幕を開ける。新型コロナウイルスの感染拡大によってさまざまな変更を余儀なくされた1年を経て、今年はどんなシーズンになるのだろうか。注目…

2021シーズンF1注目ポイント@前編

 開幕戦のバーレーンGPまで、あと約2週間。待ちに待ったF1シーズンが幕を開ける。新型コロナウイルスの感染拡大によってさまざまな変更を余儀なくされた1年を経て、今年はどんなシーズンになるのだろうか。注目すべきポイントをピックアップする。



アルファタウリ・ホンダからF1デビューする角田裕毅

(1)レッドブル・ホンダはメルセデスAMGの独走を止められるか?

 開発が厳しく制限された2021シーズンは、昨年型マシンからモノコックやギアボックスなどのメカニカル面がそのまま継承される。マシンの約60%は昨年と同じコンポーネントを使用することになる。

 そのためマシンの性能差、チーム間の勢力図が大きく変わることはなさそうだ。ということは、コンストラクターズチャンピオン争いは、やはりメルセデスAMGとレッドブル・ホンダの戦いになるだろう。

 では、今年もメルセデスAMGの独走で決まりかと言えば、そんなことはない。マシンの残り40%である空力面の開発は自由であり、リア周りの規制が強化された2021年規定に合わせてどれだけ優れた解答を見つけ出せたかが、勝負のカギになることは間違いない。

 だからこそ、これまでに各チームが発表してきた2021年型マシンは、ことごとくリア周りを隠していた。とくに規制ポイントであるフロアの形状や造作物は、どのチームもダミーで発表している。

 レッドブルに至っては、明らかにしたのは2枚のレンダリング画像のみで、新車RB16Bの実車写真は一切明らかにしていない。対するメルセデスAMGもフロアは完全にダミーの板で、開発制限箇所を特例で変更できる"トークン"をどこに使ったのか明らかにしていない。

 リアカウル後方のシェイプなど、2021年新規定に対するアプローチは両者ともに似ている。あとは、それぞれの"隠し球"がいったいどんなものか、それによって勝負が決まりそうだ。

 メルセデスAMGは昨年、シーズン序盤で早々に2020年型の開発を打ち切り、2021年型の開発に専念してきた。それを今年、一気に蔵出ししてくることになる。

 レッドブルは昨年、CFD(数値流体解析)や風洞の数値に問題があったため、想定外のナーバスな挙動に苦しんだ。だが、2020年型の開発を続けたことでシーズン後半戦にはその問題を解決し、RB16B用のパーツを次々と小出しにしてきた。そこに、あとどれだけの伸びしろがあるかが勝負になる。

 両者のマシンがまったく同じパフォーマンスレベルだったとすれば、あとはドライバーふたりの勝負になるだろう。

 その点に関して、レッドブルはセルジオ・ペレスの加入で従来よりも強力なラインナップになったと言える。だが、ペレスが本来の速さを引き出せるようになるには、マシン特性とセットアップの完全理解が必要だ。チームやマシンへの適応には、少なからず時間を要するだろう。

 その点を差し引けば、コンストラクターズチャンピオン争いはメルセデスAMGが優位に立っていると言えるのではないだろうか。

(2)フェルスタッペン悲願のチャンピオン獲得なるか?

 コンストラクラーズタイトルだけでなく、ドライバーズタイトルの行方もマシンの出来・不出来によって大きく左右されるだけに、現段階での予想は難しい。

 しかし、3強の一角であるフェラーリが昨年大きくつまずき、今年もその主要コンポーネントを引きつがなければならないため、復調を期待することは難しいだろう。さらには、新車発表がテスト直前の3月10日までずれ込む状況だけに、名門復活への道のりが険しいのはなおさらだ。

 となれば、やはりメルセデスAMGとレッドブルのドライバーたちの戦いになり、当然ルイス・ハミルトンとマックス・フェルスタッペンの戦いになる可能性が高い。

 F1史上初となる8度目の戴冠を目指すハミルトンは、いまだモチベーションに衰えがない。36歳になってもドライバーとして成長を続けている。

 対バルテリ・ボッタスの戦いぶりを見ても、一発の速さでは決定的な差をつけていないのに対し、決勝でのタイヤマネジメント、オーバーテイクや周回遅れの処理の巧さ、そして勝てない時でも確実に表彰台に立つなど、抜群の安定感を誇る。昨年はボッタスが遅かったというより、ハミルトンがレーシングドライバーとしてさらに強さを増した結果と言える。

 一方のフェルスタッペンは、明らかにメルセデスAMGより劣るマシンで2位を奪い取るなど、昨年幾度も速さを見せた。内容面ではキャリアベストのシーズンだったとも語っている。レッドブルの車体と、ホンダのパワーユニットの両面がきちんと進歩すれば、ハミルトンとタイトルを争う力はすでにある。

 また、新加入のペレスがフェルスタッペンと近い位置でレースができれば、メルセデスAMGと2対2の戦いが展開できる。戦略面での不利もなくなるわけだ。

 ただし、フェルスタッペンとレッドブルは昨年、ミスやトラブルで何度もレースを失っていた。このような取りこぼしが続くようなら、いくら速さで上回ったとしても、タイトルはハミルトンとメルセデスAMGのものになってしまうだろう。

(3)角田裕毅はF1デビューシーズンどれだけ活躍できる?

 FIA F3とFIA F2をそれぞれ1年で卒業し、ついにF1デビューを果たす20歳の角田裕毅(つのだ・ゆうき)には、世界中から大きな注目が集まっている。

 F2で見せたアグレッシブかつ巧みなレース運びが、角田の大きな武器だ。バトルでの攻め方は天性のセンスだが、バトルに持っていく駆け引きの頭脳戦もうまい。

 F2昇格当初はタイヤマネジメントに苦労していたが、エンジニアとともに徹底的に分析して仮説を実践・検証し、シーズン後半戦にはしっかりと自分のものにしてみせた。その成長の早さもさることながら、必要な学びを得るためにあえてリスクを背負ってコース上で実践していく勇敢さもある。

 F1初年度となる2021年も、角田は同じアプローチを採るつもりだと公言している。

 F1マシンはF2の何倍も複雑で、セットアップも多岐にわたる。ステアリングホイール上には、走行中に調整してマシン挙動を変えるためのパラメーターが数え切れないほど並んでいる。それらを管理するエンジニアの数も現場だけで何十人、そしてファクトリーにも大勢のスタッフが関わり、彼らの力を集結させて初めて最高のパフォーマンスを発揮できるマシンだ。

 だからルーキーの角田には、学ばなければならないことが山のようにある。すでに過去のマシンで幾度もプライベートテストを行なっているのも、そのためだ。

 しかし、2021年型マシンをドライブする機会は開幕までに1日半しかなく、それまでにすべての準備を整えることは不可能だ。当然、すでに3年のF1経験を持つピエール・ガスリーに開幕当初から勝てるとも思っていない。

 だからこそ、シーズン前半はミスを恐れることなくフリー走行や予選・決勝でプッシュし、マシンやタイヤや自身の限界を事前に知ろうとしている。コースを飛び出すことや、クラッシュすることもあるだろう。結果もなかなか残らないかもしれない。

 それでも、そういった"学び"を積み重ねることで、よりも早く成長してきたのが角田だ。シーズン後半戦にはその学びをしっかりと結果に結びつけることをターゲットとし、シーズン前半戦はトライアンドエラーにあてるつもりだ。

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 F2でトップ争いを繰り広げてきただけに、世間では角田に優勝や表彰台を期待する声も多く聞かれる。

 しかし、アルファタウリ・ホンダは昨年ランキング7位のチームだ。中団グループは僅差であるとはいえ、アルファタウリのマシンがいきなりその中団のトップに浮上することは難しいだろう。

 仮に中団トップのマシンになったとしても、その前にはメルセデスAMGとレッドブルの4台がいる。表彰台はそう簡単に手が届くものではないし、F1もそんなに甘い世界ではない。

 まずは目に見える結果を期待するのではなく、ルーキーである角田の奮闘を見守り、その成長ぶりを楽しんでもらいたい。そして、シーズン後半戦に大きく羽ばたく彼の姿に期待したい。

(つづく)