オーストラリア・メルボルンで開催されている「全豪オープン」(1月16~29日/ハードコート)は大会12日目、男子シングルスの準決勝が行われ、第9シードのラファエル・ナダル(スペイン)が第15シードのグリゴール・ディミトロフ(ブルガリア)…

 オーストラリア・メルボルンで開催されている「全豪オープン」(1月16~29日/ハードコート)は大会12日目、男子シングルスの準決勝が行われ、第9シードのラファエル・ナダル(スペイン)が第15シードのグリゴール・ディミトロフ(ブルガリア)を6-3 5-7 7-6(5) 6-7(4) 6-4で破り、グランドスラムで11大会ぶりとなる決勝進出を決めた。   午前1時になろうとしているのに、1万5000の観客で家路を目指す者はほとんどいなかった。4時間56分におよんだ激戦には、あまりにも多くのストーリーが詰まっていたからだろう。

 ナダルにとってグランドスラムの準決勝は2014年の全仏オープンで優勝して以来。世界ランキング1位は2014年のウィンブルドンが終わったあとにノバク・ジョコビッチ(セルビア)に奪われてから、一時は二桁に低迷した。昨年は過去9回優勝している全仏オープンを途中欠場というかたちで去り、グランドスラムは一昨年の全仏ベスト8を最後に一度も4回戦を突破できなかった。

 ディミトロフは2014年のウィンブルドンで初めてグランドスラムのベスト4に入ったが、それ以降は4回戦が最高。1回戦負けが2度もあり、フルセットでの敗戦を何度も経験した。まだ400位台後半だった17歳のときに当時23位のトマーシュ・ベルディヒ(チェコ)に勝ち、当時1位のナダルからセットを奪い、その潜在能力が大いに騒がれたものだが、ランキングは2年半前の8位止まりだ。

 もう終わったはずの30歳の元王者と、才能を開花しきれていない26歳。決勝でロジャー・フェデラー(スイス)が待っていることも、ストーリーを深めていた。テニス界を支配したかつての二強がナダルとフェデラーであり、ディミトロフの才能は〈ベイビー・フェデラー〉の異名をとるほどだった。

 第1セットはアンフォーストエラーをわずか2本しか記録せず、第4ゲームでブレークしたナダルがそのまま6-3で先取。第2セットはブレーク合戦の中、第10ゲームで4つのブレークポイントを握りながら生かせなかったディミトロフが、6-5の第12ゲームでブレークに成功して7-5でものにした。第3、第4セットはいずれもタイブレークになり、ナダル、ディミトロフと1セットずつ分け合った末、最終セットへ突入した。

 ディミトロフは、片手打ちのバックハンドに攻撃的なフォアハンド、サービスを軸にした洗練されたオールラウンダーだ。今年は前哨戦のブリスベンの決勝で錦織圭(日清食品)を破って優勝し、ここまで10連勝。順当なら4回戦で対戦するはずだったジョコビッチが2回戦で姿を消していた運はあったが、単に連勝の勢いやドロー運だけではないことを、この日のパフォーマンスが証明していた。

 しかし、ナダルは全盛期と変わらぬディフェンス力で、ディミトロフが主導権を握るラリーも頻繁に自分のものにした。これが、利き腕の手首を痛めて昨年のシーズンを1ヵ月早く切り上げた30歳のプレーだっただろうか。ベースラインの後方からでも矢のようなウィナーを放ち、すべてのショットが深い。とにかくミスをしない。ディミトロフはウィナー級のショットを1本どころか2本も3本も余計に打たなければポイントを得られなかった。

 最終セットは互いにブレークポイントをしのぎ合う序盤を経て、第8ゲーム、ナダルに絶体絶命のピンチが訪れた。ディミトロフが15-40でブレークポイントを握ったが、そこから4ポイントを連取したナダルのプレーは完璧だった。ファーストサービスを入れ、ラリーに持ち込み、ネットにも出れば、後ろから強烈なダウン・ザ・ラインも放った。そして次のゲームでついにナダルがブレーク。ディミトロフには不運なコードボールもあった。

 「それがゲームというもの。天気をコントロールできないのと同じことだ」と言ったディミトロフは、次の第10ゲーム、ナダルのサービング・フォー・ザ・マッチでは自力で2つのマッチポイントをしのいで2度のデュースに持ち込むが、最後はバックハンドがわずかにベースラインをアウト。ナダルが武器のトップスピンで効果的に攻め続けたのが、フェデラーと同じ片手打ちのバックハンドだった。

 この試合で確かに見たものは、元王者の完全復活と、新たな脅威の膨張だ。

 「ラファのようなファイターとあれだけ戦えたことを誇りに思いたい。自分の進んでいる道が正しいことも証明できた」

 今シーズンの上位争いにディミトロフが加わったことは確かだ。そしてナダルは「オフにはすごくハードな練習をした。ここまで来られるとは考えていなかったけど、まだ何試合か勝てる自信はあった。それさえできれば、あとは何が起こるかわからないからね」と、控えめでも確かな自信を一戦ごとに高めてきた日々を語った。

 この日のナダルのプレーを見てテニスファンなら誰しも胸にこみ上げるものがあっただろう。2日後には、史上最強で最高のライバル関係といわれた二人の頂上決戦がグランドスラムの決勝の舞台で6年ぶりに蘇る。

(テニスマガジン/ライター◎山口奈緒美)