今シーズンは新型コロナウイルスの感染拡大で中止になる大会もあり、変則開催の影響からか世界の勢力図も変化するシーズンになっている。惜しくも金メダルには届かなかったが、強さ取り戻しつつある高梨沙羅 3季連続でW杯総合を獲得しているマーレン・ル…

 今シーズンは新型コロナウイルスの感染拡大で中止になる大会もあり、変則開催の影響からか世界の勢力図も変化するシーズンになっている。



惜しくも金メダルには届かなかったが、強さ取り戻しつつある高梨沙羅

 3季連続でW杯総合を獲得しているマーレン・ルンビ(ノルウェー)など、結果を出していた選手が不調のため、マリタ・クラマー(オーストリア)やニカ・クリズナー(スロベニア)など、20歳前後の新鋭が一気に頭角を現してきた。

 その中で昨年12月の開幕戦で3位になった高梨は、1カ月以上試合がない期間も日本には帰らずヨーロッパにとどまり、1月24日から再開された大会では4位と7位。31日の第4戦では2位と復調の兆しを見せた。

 その試合の高梨は、飛び出す瞬間は右腕を大きく動かしてはいたが、上半身は助走姿勢の角度を維持して、しっかりとインパクトを与えて前に飛び出す踏み切りになっていた。さらに第6戦ではクリズナーを0.4点抑えて優勝し、第7戦も勝利。復活の狼煙を上げた。

 かつての鋭い動きのテイクオフを取り戻し、ジャンプ台にしっかりインパクトを与えるパワフルさも身につけ、空中でもスキーをコントロール。今シーズンは、これまでの課題だった着地でのテレマーク姿勢もしっかり入るようになり、飛型点も各審判が18.0~18.5点(20点満点)を出すまで評価されるようになった。

 体重差で負けていた外国勢の助走速度にも、かつてのように時速1km以上も劣ることなく、ほぼ同じ速度が出せるようになった。

 平昌五輪後に取り組んできた「強い踏み切り」「助走姿勢改善によるスピードアップ」「テレマーク姿勢の改善」。これが、北京五輪プレシーズンのタイミングでそろい始めてきたのだ。

 2014年、17歳でソチ五輪に初出場を果たした高梨は、メダルも期待されたが4位。2018年平昌五輪は、W杯総合3位の成績で臨んだが、高梨の成長速度以上に女子選手全体がレベルアップしていた。特にジャンプ技術の向上に加え、恵まれた身体を生かした助走スピードの速さとパワフルな踏み切りでトップに躍り出たルンビや、カタリナ・アルトハウス(ドイツ)が強さを発揮した。

 結局、高梨の2回目の五輪の結果は銅メダル。ソチから一歩前進したものの、本気で金メダルを狙いにきていたからこそ、涙が溢れた。勝つことの難しさを改めて感じた高梨は、ジャンプの改良に取り組んだ。まず着手したのは、ルンビやアルトハウスのような、「力強い踏み切り」をすることだった。

 だが、力強い踏み切りを意識すると、上半身が先に動いて空中姿勢を作るまで時間がかかり、空気抵抗を受けて前進する速度は減速する。当時、高梨自身も「上体が跳ね上がるように立ってしまうから、流れの中でスムーズに立てるようにしたい」とそのことを認識していた。

 その後、選手全員の競技レベルが上がったことで、これまでよりスタートゲートが下がって助走速度が抑えられる試合が多くると、高梨は伸び悩んだ。2018−19シーズンは、W杯で1勝したものの3月の世界選手権は6位、W杯総合は参戦以来最低の4位だった。

 2019−20シーズンも、W杯序盤の3戦が終わって総合6位。この頃から助走の改良にも取り組み始めたが、なかなかしっくりくる助走姿勢を組めないでいた。年末には「地元(北海道・上川町)に帰って練習をし、スタートの切りだし方がうまくハマるようになってきた」と、第4戦札幌大会では違和感が解消され始めて調子は上がってきていたが、それでも結果はついてこなかった。

 高梨自身、その原因を分析できていた。「踏み切りの動きにまだ迷いがあり、思い切って飛び出せていない」。つまり、空中でスキーをうまくコントロールできず飛距離を伸ばし切れていなかったのだ。シーズン終盤に1勝はしたが、表彰台は16戦中3回と、前季より成績は下降した。

 そうした苦境を乗り越えて迎えた今シーズン、高梨は世界選手権のノーマルヒルで銅メダル、ラージヒルで銀メダルを獲得した。今後、目標である金メダル獲得に向けては、今季好調の3つの要因に加えて、「空中の技術をもっと磨く必要がある」ことが明確になったと言えるだろう。

 ラージヒルの銀メダルを獲得してうれしそうな表情を見せていた高梨は、試合後にこう説明した。

「目指していたのは金メダルですが、自分のやるべきことに集中したいと思っていました。空中の部分はまだ反省点が多いので悔しいけれど、やらなければいけないと思っていたポイントはおさえられました。自分のジャンプが形になりつつある中で、今できる限りのことができたと思うので、すがすがしい気持ちになれたのだと思います」

 その口調は、以前の自信がなくなりかけていた頃のような迷いはなく、力強さが増していた。