オーストラリア・メルボルンで開催されている「全豪オープン」(1月16~29日/ハードコート)の大会11日目、女子シングルスの準決勝で、ビーナスとセレナのウイリアムズ姉妹が揃って勝利し、通算28回目のウイリアムズ姉妹対決が実現することにな…

 オーストラリア・メルボルンで開催されている「全豪オープン」(1月16~29日/ハードコート)の大会11日目、女子シングルスの準決勝で、ビーナスとセレナのウイリアムズ姉妹が揃って勝利し、通算28回目のウイリアムズ姉妹対決が実現することになった。

 姉妹対決は一昨年の全米オープン準々決勝以来だが、グランドスラムの決勝対決となると、2009年のウィンブルドンまで遡る。有力な優勝候補だったセレナの決勝進出は驚くことではない。予想外だったのはここでビーナスが復活したことだ。準決勝では世界ランク35位のココ・バンダウェイ(アメリカ)との同国世代対決に6-7(3) 6-2 6-3で逆転勝ちした。 

 ビーナスのグランドスラムの決勝進出はセレナとの姉妹対決だった2009年のウィンブルドン以来で、全豪オープンに限れば2003年以来14年ぶりとなる。36歳7ヵ月という今大会の女子シングルス出場者の中で最年長に達してからの快挙は、何を意味するのだろうか。

 その背景として今大会で話題になっているのはサーフェスのスピードだ。ハードコートは毎年大会前に塗り替えられるため、今年は速いとか遅いとかが選手や解説者によって語られる。印象は選手によっても多少違うのだが、今年のロッド・レーバー・アリーナに関しては多くの選手が「速い」と言っているのだ。

 ビーナスの久々の活躍以外にも、バンダウェイのグランドスラム初のベスト4進出、17歳でウィンブルドンの準決勝に進出したミルヤナ・ルチッチ バローニ(クロアチア)の18年ぶりのベスト4という快挙など、サービスを軸としたパワーゲームを展開する選手が思いがけない活躍をしたことは、この速いサーフェスと関係があると考えられている。

 しかし、速いということは、パワープレーヤーのみならず30代のベテランプレーヤーに有利ではないかと説くのはロジャー・フェデラー(スイス)だ。

 「昔のコートはもっと速かったんだ。2005年から急にコートが遅くなった。昔を知っている選手は、こういう速いコートになると、いろいろ考えずに体にしみついたプレーを本能的にすることができる」

 遅めのコンディションを選択するようになったのは全豪オープンだけではなく、ツアー全体のスタンダードだった。サービスだけでポイントが決まったり、ラリーも短いスピードゲームがファンにとってはつまらないという声が高まったからだ。

 しかし、数年前からまた少しずつ速くなっているという声も聞かれた。長いラリー、長い試合はファンを喜ばせる一方で、選手の体には負担を与える。しかも、サービスを打つ前の制限時間に関するルールが厳格になったことで、ラリーは長いのにポイント間の休息は短くなり、選手の負担はより増した。

 そんな中、フェデラーに代表されるような超人気選手の年齢が30代になり、彼らに代わる若手スターがなかなか現れないツアーにおいて、ベテラン選手がより長く戦えるような環境、つまりサーフェススピードをまた速めようという流れが生まれたとしても不思議ではない。その流れの“最新型”が、今大会の特にセンターコートのコンディションだったのではないだろうか。

 36歳7ヵ月のビーナスのグランドスラム決勝進出は、1994年のウィンブルドンで当時37歳8ヵ月だったマルチナ・ナブラチロワ(アメリカ)以来の年長記録となった。ビーナスは言う。

 「私たちの世代が、ほかの世代をやる気にさせると思うの。無理なく、持続できるようなスケジュールでやっていけば、グランドスラムで長年戦うことができるんだって証明しているのだから」

 そして夜にはフェデラーが決勝進出を決めた。スタン・ワウリンカ(スイス)を7-5 6-3 1-6 4-6 6-3で撃破。35歳5ヵ月のフェデラーがもし優勝すれば、その年齢を越えてからグランドスラムで3度優勝したケン・ローズウォール(オーストラリア)に次いでオープン化以降2人目の年長記録となる。ただ、人々が待っているのは記録ではなく、奇跡的な“光景”であることは間違いない。

(テニスマガジン/ライター◎山口奈緒美)