ロンドン五輪銅メダルメンバー迫田さおりインタビュー 前編 2020-21シーズンの「V.LEAGUE DIVISION1 WOMEN」(V1女子)は、2月20日、21日に行なわれるファイナルステージをもって幕を閉じる。そのあとには、今年度の…

ロンドン五輪銅メダルメンバー
迫田さおりインタビュー 前編

 2020-21シーズンの「V.LEAGUE DIVISION1 WOMEN」(V1女子)は、2月20日、21日に行なわれるファイナルステージをもって幕を閉じる。そのあとには、今年度の日本代表メンバーが発表される予定で、その顔ぶれが気になるファンも多いだろう。

 特に、2020年6月に"守備の要"だったライトプレイヤーの新鍋理沙が引退したため、組み合わせも含めたアタッカー陣が大きな注目を集めるだろう。そこで、東レ・アローズや日本代表のアタッカーとして活躍し、オリンピックに2度(ロンドン五輪、リオ五輪)出場した、迫田さおりさんに話を聞いた。


元日本代表で、現在は解説を中心に活躍する迫田さん

 photo by Watsunaga Koki

――今季のVリーグを見た中での、注目のアタッカー陣について聞かせてください。

「私も現役時代にプレーしていた東レ・アローズからで申し訳ないんですが(笑)、今季はレギュラーラウンド無敗だった中で注目度が高かったのは、やはり黒後愛選手と石川真佑選手でしょう。黒後選手は今年度からキャプテンに就任。まだ22歳ですし、コロナ禍で練習環境がまったく変わる中でチームをまとめるのは、すごく難しかったと思います。それでも、自分のプレーだけではなく、チーム全体の状況にまで視野を広げながら過ごした経験は、特に精神面の部分で成長につながったはずです」

――黒後選手はこれまでレフトでプレーすることが多かったですが、今年はライトでしたね。

「技術が高く、私も『うらやましいな』と思うくらいパワーがある選手ですから、(攻撃の中心を担う)レフトでも十分活躍していましたが、以前に本人に聞いた時には『レフト......なんかしっくりこないんですよね』とも話していました。(下北沢成徳)高校時代はライトでしたからね。なので今年は、ライトプレイヤーとして、さらに上を目指してプレーしていると思います」

――2年目の石川真佑選手についてはいかがですか? 1年目から、東レでも日本代表でも活躍を続けています。

「石川選手は、新人時代の黒後選手になかったものをすでに持っている印象があります。技術面もそうですが、負けん気、常に上を見据えて練習や試合に臨む姿といった、メンタルの部分も含めて。ボールに関わっていないところでも、見ている人がその動きを思わず目で追ってしまうような存在感があります。得点を決めたのに、冴えない表情をする時もあるんです。プレーの内容に納得がいかないのか、次の1点を考えているのか理由はわかりませんが、興味がわく選手ですね」

――身長は173cmとバレーの選手としては小柄ですが、コートの中でも"華"がありますね。

「そうですね。身長の低さで苦労もたくさんしたと思いますが、それを補うことを考え続けてきたからこそ、攻守にわたる高い技術を身につけることができたんだと思います。『身長が低い選手でもできるんだ』という希望を、これからも見せていってくれるでしょうね」

――石川選手の2年目の成長をどこに感じますか?

「見た目でもハッキリわかるように、体が大きくなり、サーブやスパイクでのパワーが増しました。ただ、余計な筋肉がついている印象はなく、動きを見ても重さは感じません。スパイクを打つ時などに、パワーをしっかり伝えられる体の使い方を常に意識しているようにも見えます。

そういった感覚を掴むのは、とても難しいこと。言葉で説明がしにくいですし、頭でわかったとしてもなかなかプレーに反映できないものです。石川選手は普段から、本番の試合を見据えたトレーニングができているんでしょうね。もちろん、どの選手もその意識は持っていると思いますが、特にその意識を強く持っている選手なんだと思います」

――その2人以外では、NECレッドロケッツの古賀紗理那選手も、今季は総得点ランキング3位(362点:日本人選手ではトップ)と調子がいいように感じますが。

「すっごくいいです。近年のプレーを見た限りでは、アタッカーとしての序列は古賀選手よりも黒後選手が上になったのかな、と感じることもありました。ただ、今年は断然、古賀選手。『なんでこんなによくなったんだろう?』と思って直接聞いてみた時には、『(コロナ禍で)日本代表での活動が短くなったので、長い期間、一緒にセッターと練習できたからコンビがすごく合うんです』と言っていました。

 でも私は、技術とは別の面が影響していると思います。早くから活躍したことでメディアに取り上げられることも多かった中で、2019年のW杯など苦しんだ時間が長かった。どうしても結果がついてこずに心が一度折れてしまうと、立ち直るのはすごく難しいんですが、今季にしっかりパフォーマンスができたのは心の強さがあってこそ。今後もきっと『これぞ古賀紗理那』というプレーを見せてくれると思います」


今季、総得点ランキング3位と活躍したNECの古賀

 photo by Sakamoto Kiyoshi

――「これぞ」というプレーとは?

「私は外から見ているので、目の動き、助走の細かい動作、手首の使い方などは細かくわかりませんが、ゆったりとした助走からのスパイクのインパクトが速い。いきなりゼロから100の力が出る感じで、ブロックもタイミングが計りづらいと思います。打球も、速いだけじゃなくて重さもある。

 今季は強打だけでなく、ちょっと緩めて打つのも効果的ですね。すごく視野が広くなって、攻撃が多彩になっているように感じます。守備面も安定感が増しているように見えます」

――組み立てを考えるとはどういったことでしょうか?

「例えば負けていても、『25点まではまだある。こういうふうに戦っていけば大丈夫』というビジョンを、しっかり持っているように見えます。そのパターンがひとつだけじゃなくて、『我慢』『一気にいく』といったあらゆる場面に対応できる。それをタイム中などに、チームメイトにも伝えられているのもいいですね。内容もすごく具体的ですし。

 コートから離れたらすごくおちゃめな部分も多いんですが、コミュニケーションもとても大事にしていますね。プレーや言葉でチームをけん引できていますし、代表でも中心の選手になっていくのかな、と思います。もちろん古賀選手はさらに上を目指していると思います。これからの活躍が非常に楽しみです」

――日本代表に話を移しますが、昨年6月に引退した、アタッカーで"守備の要"でもあった新鍋理沙さんは、迫田さんから見てどんな存在でしたか?

「新鍋さんは『拾って、つなぐ』という日本のバレーを体現する選手でした。私が(Vリーグで)対戦する時も、本当に嫌だったんですよ。スパイクもタイミングをずらして打てるなど攻撃もいいんですが、やはり守備力が高いからチームが安定していた。相手の攻撃をしっかり上げる選手がコートにいると、他の選手たちが自分のプレーに集中できて、チームにもまとまりが生まれるんです」

――新鍋さんが抜けたところに、同じように守備に長けた選手をライトに入れるのか、もしくは黒後選手、古賀選手などをライトで起用することも考えられると思いますが。

「私は、新鍋さんと同じような選手にこだわらなくていいと思います。たとえば守備がうまい選手でも、新鍋さんのように攻撃にも長けているとは限りません。その時はレフトとかミドルが攻撃力をカバーすればいいし、逆にライトに攻撃型の選手を入れるなら、レフトにレシーブがうまい選手を起用して補えばいいと思います。

 今季の活躍ぶりからすると、アタッカー陣はここまで挙げた3人が中心になるでしょうね。相手チームの特徴に合わせることも必要ですが、守備面とのバランスも考えたら、黒後選手に代えて実績十分の石井優希選手(久光スプリングス)を入れるのもいい。高さとパワーを上げたいときは、石川選手のところに黒後選手を起用するパターンもあると思います。その時のチームのバランスを見て、それぞれの選手が自分なりの輝きを放てたらいいですね。誰が入っても、新鍋さんがいた時とはまた別の強いチームができると思いますよ」

(後編:迫田さんが注目する「石川真佑世代」の新戦力>>)