ロンドン五輪銅メダルメンバー迫田さおりインタビュー 後編 前編:「今年は断然、古賀紗理那」>> 2019年に日本で開催されたバレーボールW杯で、当時19歳の石川真佑(東レ・アローズ)が鮮烈デビューを飾ったことは記憶に新しい。Vリーグ1年目の…

ロンドン五輪銅メダルメンバー
迫田さおりインタビュー 後編 前編:「今年は断然、古賀紗理那」>>

 2019年に日本で開催されたバレーボールW杯で、当時19歳の石川真佑(東レ・アローズ)が鮮烈デビューを飾ったことは記憶に新しい。Vリーグ1年目の選手とは思えない活躍で、対戦した海外チームの監督からも称賛の声があがるほどだった。

 新勢力の台頭はチームに活気をもたらし、それが進化につながる。今季のVリーグで存在感を示し、今後は代表での活躍も期待できそうな選手を、リーグの解説も務める迫田さおりさんに聞いた。


現役時代、オリンピックに2度出場するなど活躍した迫田さん

 photo by Watsunaga Koki

――前編では、日本代表でもすでに実績がある3人のアタッカーを挙げていただきましたが、他に注目のアタッカーはいますか?

「まずは、トヨタ車体クインシーズの藪田美穂子選手(25歳・178cm)ですね。今年はあまり結果がついてこなくて、苦しいシーズンだったと思いますが、私が解説をした試合でもひときわ目を引きました。彼女の最大の魅力は"懸命さ"。レフトは『ここぞ』という時にトスが上がってくるんですが、そういう時に『絶対に1点取るんだ』という気迫を感じます。そういう逃げないメンタルはアタッカーの重要な要素だと思います。

 表情もいいですね。プレーの最中は、チームメイトの表情も目に入るものです。仮に負けている時に『ああ、駄目かもしれない』という表情を誰かひとりでも見せてしまったら、チーム全体がマイナスの方向に引っ張られてしまう。でも藪田選手は、常に『絶対に大丈夫』という力強い目をしています。プレー以外でもチームを引っ張ってくれる存在ですね」

――今年5月に21歳になる石川真佑選手(東レ・アローズ)と同じ世代にも、楽しみな選手が多いように感じます。

「そうですね。埼玉上尾メディックスの吉野優理選手(20歳・173cm)も気になります。昨季、『うわっ、すごい選手がいる』と思っていたら、代表にも選ばれて『やっぱりな』と。藪田選手とはまた違うタイプで、黙々とプレーするタイプですが、『ここは決めないといけない』といった勝負どころがわかっている。技術だけじゃなくて、考えながらプレーできる選手という印象があります。

 あの冷静さは、20歳とは思えません。今季は少し苦しんでいますが、自分のプレーが思うようにできない時期を力に変えていける選手じゃないかと思います。相手チームからのマークも厳しくなっていますが、マークされるということは『怖い選手』という証拠。いい意味にとらえて、吹っ切ったプレーをしてもらいたいです」

――もうひとり、その世代で選手を挙げるとしたら?

「NECレッドロケッツのライトでプレーする、曽我啓菜選手(19歳・172cm)でしょうか。同じチームの柳田光綺選手(24歳・168cm)に似ていて、ブロックのタイミングなど、身長が低いことを補う技術があります。NECではレフトの古賀紗理那選手が絶対エースですが、ライトにいいパフォーマンスができる選手がいることは、NECの強みですね」

――曽我選手はまだ2年目ですが、メンタル面はいかがですか?

「落ち着きがあって、プラス思考なのかなという印象です。ミスをしたとしても、弱気からくるものではなく、意図や狙いを感じるミスが多く見られます。そういったミスは絶対に次につながりますからね。また、途中で曽我選手などに代わって入ってくる山内美咲選手(25歳・172cm)も、チームの流れを変えられるいい選手だと思っています。

 試合の途中から入るのは難しいんですが、しっかり自分の役割を果たしています。彼女はキャプテンですし、スタートから出たいという気持ちも当然あると思いますが、チームが勝つために、我を出さずにプレーしている。チームメイトに信頼されている様子を見ると、日々の練習からそういった意識が徹底できているんでしょうね」

――続いて、司令塔であるセッターの有望選手について伺います。まず、昨年度の代表にも選ばれた東レのセッター・関菜々巳(21歳・171cm)はいかがでしょうか。彼女が高校時代に、東レOGである迫田さんも声をかけたとのことですが。

「無理に誘ったわけではありませんよ(笑)。いろいろ見てもらって、『よかったら......』という程度です。関選手は、決して器用な選手ではないものの、本当に努力家。どうしたらアタッカーがいいパフォーマンスができるのかを常に考え、それを可能にするための技術の向上も怠りません。守備面でも、レシーブがすごくよくなりました」

――レシーブは、関選手の課題とされていた部分ですね。

「それは、私の現役時代に東レのセッターを務めていたミチさん(中道瞳、現・東レのコーチ)も『(関選手は)足が動かないんだよね』と言っていました。私から見たら上手だと思うんですけど(笑)。でも、やっぱりセッターは、トスだけではなくてレシーブ力も問われるポジションですから」


東レのセッターで、昨季の日本代表にも選ばれた関

 photo by Hino Chizuru

――特に日本の女子バレー界に言えることだと思いますが、中道さんや、長く代表の正セッターを務めた竹下佳江さんもレシーブ力は抜群でしたね。

「そうなんです。レシーブができないと、他の選手に後れをとることになる。そこをわかっていて、重点的に意識してきた成果が今季にさっそく出ています。その点からも、努力を継続できる選手なのがわかりますね」

――前編では、古賀選手が「長い期間、一緒にセッターと練習できたからコンビがすごく合う」と好調の理由を話していたとお聞きしました。代表のメンバーを考える際、中心となるアタッカーとのセットで同じチームのセッターも選ぶ、といった可能性もあるでしょうか。

「私は監督の経験がないので断言はできませんが......。例えば、ロンドン五輪の時のミチさん。159cmの竹下さんを選んだなら、もうひとりは長身のセッターにしてもいい。にもかかわらず、やはり159cmのミチさんを選んだのは、当時のチームの中心だった、(木村)沙織さんや(荒木)絵里香さんと東レでコンビが合っていたことも、選ばれた要因のひとつだと思います。

 もちろん、正確なトスやレシーブ、サーブ、人間性など、総合的にすばらしい選手ということは前提です。私も入団前の関選手に、『代表クラスの選手が多い東レでプレーしてもらいたい』と話したことがあります。たくさん経験を積んで代表クラスのセッターとして活躍してほしいと思っていたら、地道な努力が実を結んで、代表に召集された。これからの可能性が楽しみです」

――残る、リベロの注目選手はいますか?

「東レの選手が続いてしまうのですが......水杉玲奈選手(20歳・164cm)に期待しています。2020年度は代表登録もされましたね。今の代表のリベロである小幡真子選手(JTマーヴェラス/28歳・164cm)は、チームに活力をもたらすムードメーカー。対する水杉選手は真逆のタイプで、内なる闘志、強い負けん気を感じます。

 バレーではどうしてもアタッカーに目がいきがちですが、セッターとリベロもかなり重要なポジションです。銅メダルを獲得したロンドン五輪がいい例(セッター:竹下、リベロ:佐野優子)ですね。水杉選手も、しっかり考えてプレーしているので、少しずつそれを発信していってほしい。でも、いろんなタイプのリベロがいてもいいのではないでしょうか。自分のスタイルは崩さず、必要だと思うところは柔軟に変えながら実力を上げていって、代表に不可欠な選手になってほしいです」