新型コロナウィルス感染拡大の影響により、1ヶ月遅れてラグビートップリーグが2月20日に開幕する。来年から新リーグが始まるため、現行の形では最後の大会だ。 今年の大会フォーマットは、16チームがふたつのカンファレンスに分かれて1回戦総当たり…

 新型コロナウィルス感染拡大の影響により、1ヶ月遅れてラグビートップリーグが2月20日に開幕する。来年から新リーグが始まるため、現行の形では最後の大会だ。

 今年の大会フォーマットは、16チームがふたつのカンファレンスに分かれて1回戦総当たりのリーグ戦を行ない、カンファレンス内の順位を決定。その後、下部リーグの上位4チームを加えた20チームでプレーオフトーナメントを戦い、5月23日に優勝チームが決定する。



強豪サントリーの一員となった齋藤直人

 ラグビーファンが開幕を待ち望むなか、満を持してトップリーグデビューするのが、昨年3月に大学を卒業したルーキーたちだ。

 例年、夏に開幕していたことを考えると、半年遅れのデビューとなる。ただその分、チームに馴染む時間が十分にあり、より即戦力として貢献する可能性も高いだろう。今回は活躍を期待している3人を紹介したい。

 ひとり目は、昨年度の大学選手権で早稲田大を優勝に導いたサントリーサンゴリアスのSH(スクラムハーフ)齋藤直人だ。長いパスとランを得意とし、戦術眼も秀でた選手である。早稲田大では主将を務め、卒業後はスーパーラグビーのサンウルブズでも研鑽を積んだ。

 身長165cmと小柄ながら、高校時代から将来を嘱望された逸材。大学3年時には日本代表候補にも名を連ねた。周囲から寄せられる期待も高いが、齋藤は臆することなく「日本代表に選ばれたいですし、2023年のワールドカップは絶対に出たい。今はサントリーで9番をつけて試合に出ることしか考えていない」と言い切る。

 サントリーの豪華なBK陣を目にして、齋藤は「(まるで)ワールドカップですよ!」と声を弾ませた。SH流大(ながれ・ゆたか)とインサイドCTB(センター)中村亮土は日本代表、SO(スタンドオフ)は2度の世界最優秀選手に輝いたニュージーランド代表の司令塔ボーデン・バレット、アウトサイドCTBには元オーストラリア代表サム・ケレヴィ......。2019年ワールドカップで活躍した錚々たるメンバーが並ぶ。

 齋藤のライバルは、前主将の流だ。「サントリーでも日本代表でも9番の(流)大さんをターゲットに、明確な目標が一番近くにいるのでモチベーションを高く保てています」(齋藤)

 世界レベルの選手たちと対等にプレーし、流とのポジション争いにも勝つために、齋藤は体重を増やしたという。

「ランは強みになると思うし、フィットネス、パススピードにも自信があります。ほかにも武器になる部分を考えたら、タックルも強みになるので筋力を増やしていこう」と考え、体重を2kgほど増やして現在は74kgになった。

 また、バレットの言葉をきっかけにプレースキックの練習も再開した。大学時代にプレースキックを蹴っていた齋藤に対し、バレットは「イングランドやフランスではSHがキックを蹴る場合も多いし、上のレベルにいけばいくほど武器は多いほうがいいから、蹴ったほうがいい」とアドバイスしてくれたという。

 今季から主将に就任した中村から、齋藤はチームを引っ張るリーダーのひとりにも指名された。

「まずはチームが勝つために、その時にやらなければいけない自分の役割をまっとうしたい。個人的には9番を着て試合に出たいので、(チームからの)信頼を得られるようにがんばりたい」

 ふたり目は、明治大の3年時に大学選手権を制したリコーブラックラムズのHO(フッカー)武井日向だ。FWとしては身長171cmと上背がある選手ではないが、ボールキャリアーとして接点での力強いプレーが持ち味の選手である。

 武井がリコーを選んだのは、練習環境がいいこと、実家の栃木に近いこと、そして「雰囲気が家族のようだった」と語る。昨年2月末から3週間ほど、リコーが提携しているニュージーランドの強豪ハリケーンズに短期留学し、オールブラックスのHOデイン・コールズとも一緒に汗を流した。

「FWでもラン、パスのスキルが高かった。全員がプロ選手で刺激になりました。コールズはチームをまとめる部分がうまくて、その経験を(日本でも)還元できればいいかな。僕は(現在)プロ選手ではないですが、日本代表を目指すにはプロとしての自覚が必要だと思いました」(武井)

 現在、武井は練習場の横に建つ社員寮で生活し、普段はテレワークでコピー機の営業を行なっているという。グラウンドの側に身を置きながら、武井は「日本代表になることが目標ですが、まずチーム内の競争に勝たないと次は見えてこない」と、意識高く練習に臨む日々を送っている。

 トップリーグ選手とのフィジカルの差を埋めるために、体重も94kgから97kgに増やして筋力もアップした。「パフォーマンスもフィットネスも、大学時代より数値が上がっています。ハードワークや泥臭いプレーが自分の持ち味なので、急激に体重を増やさないようにしています」と、動けるFWを目指している。

 HOとしては、スクラムワークやラインアウトのスローイングといったセットプレーまわりを、ライバルでもある35歳の先輩・森雄基からアドバイスをもらっているという。「森さんとは毎日スクラムでやりあっています。自分のスキルをさらけ出してくれて、すごく丁寧に教えていただいています」(武井)。

 リコーはここ数年、ベスト4の壁を破れていない。武井は「フレッシュさを出してチームにいい影響を与えられればいいです。新人賞を取れるような安定したパフォーマンスを出し続けることが大事。練習でも一番を目指してやって、勝つ文化を作り上げていきたい」と意気込む。

 そして3人目は、クボタスピアーズのWTB(ウィング)/FB(フルバック)山崎洋之だ。明治大時代は紫紺のエースとして活躍し、大学3年時に武井とともに大学選手権で優勝。身体の芯が強く、ステップやスピードも秀でているフィニッシャーだ。

 今シーズン、クボタは一気に10人もの大卒新人を獲得した。クボタを率いて5年目となる世界的名将フラン・ルディケHC(ヘッドコーチ)がSO岸岡智樹(早稲田大卒)やFL(フランカー)岡山仙治(ひさのぶ/天理大卒)とともに、期待する選手として名指ししたのが山崎である。

 山崎は練習試合で9試合中8試合に出場(7試合で先発)し、強豪パナソニックワイルドナイツ戦でもトライを挙げた。起用され続けている理由として、山崎は「うるさいと言われるくらい大きな声を出すWTBが少ないので、コミュニケーションが取りやすいのを評価してもらっているのでは」と話す。

 トップリーグは外国出身選手も多く、最初は社会人と大学のフィジカルの差を感じたという。だが、研修期間にトレーニングを積んだことで、現在では問題なくプレーできていると語る。一時は92kgまで体重を増やしたが、昨秋に全体練習を始めてから82kgまで絞った。それでも筋力トレーニングの数値は上がっており、スピードも変わっていないという。

 クボタは今季、注目のチームのひとつだ。CTB立川理道主将やFLピーター・ラブスカフニといった日本代表だけでなく、元オーストラリア代表SOバーナード・フォーリー、元ニュージーランド代表CTBライアン・クロッティ、さらに南アフリカ代表として2019年のワールドカップ優勝に貢献したHOマルコム・マークスも加入。その豪勢なメンバーのなかで、山崎は日々揉まれている。

 山崎は「世界を経験している選手と一緒に練習や試合をして、アドバイスをもらえるのはすごく価値があります」と笑顔を見せた。キックを蹴るのか、ランをするのかといったプレーの判断ひとつひとつにも、外国人選手やコーチから丁寧に指導を受けているという。

 どんなプレーを見せたいかと尋ねると、山崎は「WTBに一番求められるのはトライです。ボールを持った時には期待してほしいですし、しっかりゲインすることを前面に出せたらいいなと思います」と腕を撫した。山崎が初年度からエースとして躍動すれば、日本代表への道も見えてくるだろう。

 開幕をずっと待ち焦がれていたルーキーたちが、ついにグラウンドに立つ。その才能をトップリーグでも見せつけ、次世代の日本代表に名乗りを挙げてほしい。