北海道稚内市のみどりスポーツパークで行なわれた第38回全農日本カーリング選手権大会。女子は、北海道銀行フォルティウスが決勝でロコ・ソラーレに勝利し、6年ぶり2度目の優勝を飾った。「ようやくという形ですが、北京オリンピックまでの道をつなげる…

 北海道稚内市のみどりスポーツパークで行なわれた第38回全農日本カーリング選手権大会。女子は、北海道銀行フォルティウスが決勝でロコ・ソラーレに勝利し、6年ぶり2度目の優勝を飾った。

「ようやくという形ですが、北京オリンピックまでの道をつなげることができてホッとしています」

 北海道銀行のスキップ・吉村紗也香は大会後の取材で安堵の笑みを見せた。

 ディフェンディングチャンピオンのロコ・ソラーレが連覇を達成すれば、2022年北京五輪への戦いに挑む日本代表に内定する大一番だったが、北海道銀行がそれを阻止。五輪代表候補の争いは、直近2大会の優勝チームであるロコ・ソラーレと北海道銀行による、五輪代表トライアルに持ち込まれることになった。



6年ぶり2度目の優勝を飾った北海道銀行。左から吉村紗也香、船山弓枝、近江谷杏菜、小野寺佳歩、伊藤彩未

 北海道銀行にとっては、長い6年だった。

 最初の優勝は、ちょうど吉村が加入したシーズンとなる2015年大会。小笠原歩(現在は日本カーリング協会理事)がスキップを務め、吉村は主にサードでプレーしていた。北海道銀行は前年のソチ五輪にも出場し、このまま同チームの時代が続くのかと思われた。

 しかし翌2016年は、藤澤五月が加入したロコ・ソラーレ(当時LS北見)が初優勝。直後の世界選手権でも銀メダルを獲得し、一気に世界トップクラスのチームへと駆け上がっていった。

 さらに、2017年にはチームの若返りに成功した中部電力が女王となり、2018年には着実に成長を重ねてきた富士急が優勝。その間、ロコ・ソラーレは平昌五輪で銅メダルまで獲得している。

 そうした新勢力の台頭によって、北海道銀行は勝てない時期が続いた。大舞台で存在感を示せずにいると、いつの間にか「古豪」と呼ばれるようになっていた。

 それでも、選手とチームは常に勝利を求めて模索していた。"足掻いていた"と言ってもいいかもしれない。

 2018-2019シーズンを迎えて、チームの柱であった小笠原歩が選手として第一線を退くことを発表。以降はスキップを吉村に固定し、彼女を中心とした戦いにシフトした。また、チームに帯同する松井浩二トレーナーの提案で、同時期からスプリントに特化した仁井有介フィジカルコーチの指導を受けて陸上トレーニングの量を増やしていった。

「ほぼ全員が、これまでカーリングの動きしかしてこなかったんです。それを突き詰めても、ひょっとしたらもう伸びないかもしれない。そんな思いもあって、違う競技のトレーニングを取り入れることで、筋肉はもちろん、神経や関節なども含めて、自分の身体をコントロールする意識を持ってほしかった」(松井トレーナー)

 陸上トレーニングにはそんな狙いもあったが、リスクもゼロではなかった。ハードな練習によって、カーリング選手の生命線である膝や腰、股関節などを痛める可能性もあった。ゆえに、その予防も考慮して、バレエダンサーの赤川詩織コーチに師事し、バレエストレッチにも並行して取り組んだ。

「(バレエストレッチによって)可動域が広がるから、これまでのフォームが崩れて、もしかすると一旦、ショットが不安定になるかもしれないよ」

 松井トレーナーは、選手たちにそう伝えていた。そもそも、それら他競技のトレーニングがカーリングの向上に役立つかどうかは未知数でもあったからだ。

 その分、選手たちにも迷いはあった。しかし、松井トレーナーの提案を受け入れて、選手たちはそれらのことに真摯に取り組んだ。

 ちょうどその頃、セカンドの近江谷杏菜がこんなことを口にしていた。

「今のままでは難しいかもしれない。変化を恐れずに進まなくては......。できることは何でもトライしたい」

 これまで積み重ねてきたものを失うリスクよりも、現状を打破すること、さらには勝利や強化への欲求のほうが、選手たちの中では大きかったのだろう。

 新たなチャレンジの効果はワールドツアーで出始める。2018-2019シーズンのカナダ・欧州遠征では、「チーム吉村」として精力的にツアーに参戦。初優勝を含めて、出場した11大会すべてでクオリファイ(プレーオフ進出)を決めた。

 さらに翌2019-2020シーズンには、戦術的な支援を求めてカナダの現役トッププレーヤー、コナー・ネゴヴァンともコンペティションコーチとして契約。ワールドツアーのランキングは右肩上がりとなって、上位チームだけが参加できるグランドスラムにも出場し、そのひとつである『マスターズ』では、日本カーリング史上初のグランドスラムファイナリストとなった。

 ただその一方で、日本選手権では2019年、2020年と2大会連続で3位に終わった。そこで、松井トレーナーは「海外で勝てるようになっても、国内で結果が出ないのはメンタルが問題なのではないか」と考え、チームと相談して、今季から北海道日本ハムファイターズや横浜DeNaベイスターズで指導経験のある白井一幸氏をメンタルコーチとして迎えた。

 打てる手はすべて打って臨んだ今大会。特にメンタル的な成長という点においては、ロコ・ソラーレとの決勝で顕著に見て取れた。

 例えば、4エンドにはタッチストーンで好ショットが無効になるハプニングがあり、6エンドでは相手スキップ・藤澤のラストストーンが意図したものではない形でガードストーンに当たって、相手の得点につながるアンラッキーがあった。

 頂点にはまだ届かないのか――不安や諦めの気持ちが頭をかすめてもおかしくないトラブルやハードラックだったが、氷上の選手たちは「いいことも悪いことも、その結果を受け入れよう」という白井コーチの言葉を思い出し、我慢強く目の前のショットやスイープに集中した。

 その結果、北海道銀行はカーリングの面白さが詰まったクロスゲームを制した。

 2点を獲得して逆転した最終10エンドでも、すべてが完璧なショットだったわけではない。だが、「今できること」に対して最善を尽くした。それが、結果につながった。

 それこそ、勝てなかった6年間は「今できること」をずっと繰り返してきた期間でもある。まさしく、母体となる北海道銀行の理解をはじめ、コーチやトレーナー陣の尽力、そして折れなかった選手たちの努力の賜物であり、「チーム・フォルティウス」全員で勝ち取った栄冠だった。

 北海道銀行とロコ・ソラーレは再び、日本代表の座をかけて5月下旬か6月上旬に稚内で開催予定の五輪代表トライアルで再び対戦する(※)。
※3月にスイスで開催予定だった世界選手権が中止。その代替大会の日程次第で日程変更の可能性もある。同トライアルで勝ったチームが日本代表に内定となるが、北京五輪の出場権は世界選手権代替大会の結果などによって決まる。

 北海道銀行の吉村は、「まだまだ課題が見えた部分がある。今日の試合のようなパフォーマンスをできるように、また基礎から見直したい」と意気込んだ。

 対するロコ・ソラーレの藤澤は、「北海道銀行さんが今日のようにショットが決まった時もしっかり戦えるような準備をしたい。もう少しタフになって帰ってきたい」とリベンジを誓った。

 世界を知る両チームの切磋琢磨はまだまだ続く。日本代表の座にどちらが就くにしても、トライアルではハイレベルな攻防が繰り広げられることは間違いない。