井上尚弥が比嘉大吾を指名した理由「ファンがどんなスパーを見たいか」 新型コロナウイルスと戦う医療従事者や患者を支援するボクシングのチャリティーイベント「LEGEND」が11日、東京・代々木第一体育館で行われた。スパーリング形式で行われる3分…

井上尚弥が比嘉大吾を指名した理由「ファンがどんなスパーを見たいか」

 新型コロナウイルスと戦う医療従事者や患者を支援するボクシングのチャリティーイベント「LEGEND」が11日、東京・代々木第一体育館で行われた。スパーリング形式で行われる3分×3回のエキシビションマッチ。WBAスーパー&IBF世界バンタム級王者・井上尚弥(大橋)は元WBC世界フライ級王者・比嘉大吾(Ambition)と激突した中、コロナ禍で開催されたイベントの意義を見出していた。

 開始のゴングからリングを支配していた。井上は素早いジャブに加え、アッパー、フックを織り交ぜて比嘉を翻弄。左ボディーを当てると、歓声自粛で静かな会場に鈍い音が響いた。エキシビションとは思えない緊迫感。攻撃だけでなく、ディフェンスではノーガードで待ち、相手のパンチを見切ってかわす場面も。2回にはサウスポーにスイッチ。さらにはロープを背負い、打ってこいとジェスチャーをしてあえて防御に徹するシーンも見せた。

 距離を詰めて打撃戦も展開。どんなボクシングでもできる完璧ぶりをファンに届けた。「エキシビションで足を使っても意味がない。打ち合いも、ディフェンスもいろんな形を見せたいと思っていた。自分の動きにも満足したので、いい出来だったと思います。ガチというか、真剣度は100%です」。この日はPCR検査を受けた観客2548人が来場。声援自粛の中でも心を震わせる戦いを演じた。

 昨秋にラスベガスデビュー。日本のリングに立つのは、2019年11月のノニト・ドネア(フィリピン)戦以来だった。「こういう場をつくって会場に足を運んでくださる方がいる。そういう方に向けて発信するためのスパーリング。責任感もあるし、満足して帰ってもらいたい。その方々に向けたスパーリングでした」。戦前からSNSなどで本気度を漂わせながら臨んだリング。社会に影響力のあるアスリートとして、胸に抱えた思いがあった。

「こういう状況下で行われたイベントですし、成功したことに凄くホッとしている。自分らが出て何を発信したいかというと、ボクシングを見てもらって、また頑張る気持ちになってほしいということ。そのために出た。それを感じてもらえるような内容はできたと思うので満足しています。医療従事者の方々のおかげでこのイベントもできている。微力ではありますけど、どんなことができるのか。これからも考えていかないといけない」

試合後に比嘉から質問、「なぜ打ち合ってくれた?」の答えとは

 観客2548人にスタッフ、報道陣なども含めると、9~11日に行われた3日間の総検査数は述べ4160人だった。この中で新型コロナウイルスに特徴的なRNAが検出された数はゼロ。最大限安全に配慮して開催され、井上は「安心して見られるというのは重要。これをきっかけにこういうイベントがどんどん行われていってほしい」と、今回の新たな試みが広がることを願った。

 対戦相手に比嘉を指名したのもファンのためだった。当初は「なかなか決まらなかった」と受けてくれる相手探しに苦慮。そんな中、同じバンタム級で世界王座を狙う比嘉を指名した。これも「ファンがどんなスパーを見たいか」という視点を大事にしたから。2歳下の元王者も、わずか2週間前にも関わらず快諾した。

 井上はまさしく胸を貸すように多彩な技を見せつけた。あえて比嘉の距離に合わせて戦うシーンも。本来なら打たせずに打つのがモンスターの真骨頂。試合後、息を切らす比嘉に問われた。「なんで打ち合ってくれたんですか?」。答えは明白だった。

「盛り上げるためだよ」

 世界のファンも魅了される、積み上げられたボクシング技術。いずれ世界戦でも拳を交える可能性がある相手に対し、存分に披露した。試合後の会見では、対峙した上で感じ取ったこと、本当の試合ならどうなるか、といったような質問が多く飛んだ。

 しかし、この日の井上にとっては、さほど大きなテーマではなかったようだ。「一番は自分がどうとかよりも、今日は見てくださる方がどう感じるか。そこだけだと思う」。会見をこう締めくくり、会場を後にした。背中からは熱を帯びたプロ意識が溢れ出ていた。(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)