富士急小穴桃里インタビュー(後編)北海道稚内市で開催されている第38回全農日本カーリング選手権大会(2月7日~14日)。2022年北京五輪の代表選考も兼ねた同大会での意気込みを、有力チームのひとつである富士急のスキップ・小穴桃里に聞いた――…

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小穴桃里インタビュー(後編)

北海道稚内市で開催されている第38回全農日本カーリング選手権大会(2月7日~14日)。2022年北京五輪の代表選考も兼ねた同大会での意気込みを、有力チームのひとつである富士急のスキップ・小穴桃里に聞いた――。



写真左から石垣真央、小穴桃里、小谷優奈、小谷有理沙

――チームのことも少し聞かせてください。選手それぞれ、勤務する富士急ハイランドではどういった部署で働いているのでしょうか。

「主に春や夏の時期には、4人ともエントランス付近の物販・入園エリアで勤務しています。去年は、私と(小谷)優奈は(来場者の)検温や消毒をしながらチケットを売っていました。(石垣)真央さんと(小谷)有理沙はエントランスに入ってすぐのお土産屋さんで働いてしました」

――チームメイト4人、それぞれどんなキャラクターなのか、教えていただけますか。まずは、小谷姉妹の妹・有理沙選手から。

「(姉の)優奈もそうなんですけど、ふたりともすごく真面目です。特に有理沙はすごくしっかりしていますね。私には弟がいて、有理沙と同じ20歳なんですけれど、彼に比べるとだいぶ大人です。真面目な分、集中しすぎているような瞬間があるので、そういう時はいつも『もっと気楽にプレーできるように、先輩として私がしっかりしなくては』と感じます」

――お姉さんの優奈選手はいかがでしょうか。

「真面目な部分は有理沙と共通しているのですが、優奈のほうが(気になることがあると)何でも言ってくれるイメージです。どちらかといえば、有理沙のほうが静かに周りを観察している感じですかね。カーリングでいえば、優奈がノリに乗ると爆発力があるので日本選手権は期待しています」

――仲のいい姉妹ですよね。

「基本的にはそうですね。でも、よく試合中に『今の、ウォー(スイープするな)つったじゃんか』とか、ふたりでじゃれ合いながら肩パンしたりしているのでチェックしてみてください(笑)。

 あと、あのふたりはチームの会計係でもあるんです。子どもの頃からレシートを提出してお小遣いをもらう、というすばらしいシステムの家庭で育ったらしく、そういう意味でもすごく頼りになります。上のふたり(石垣真央と小穴桃里)が丼勘定なので(苦笑)」

――石垣選手はいつもニコニコしていて、淡々とプレーしている印象があります。

「そのとおりで、真央さんはいつも『いいよ、いいよ。大丈夫』って、みんなに声をかけてくれていますね。時々『今のどこが大丈夫だったんだ!?』と思うこともなくはないんですけれど、常に前向きな言葉をかけてくれて、私がイライラしそうな時にはフォロー役になってくれたりして、だいぶ助けられています」

――それぞれ個性的な4人だと思うのですが、うまくバランスの取れたチームになっているような気がします。

「チームが結成されて10年。結果が出るまでには時間がかかりました。『経験が大事だから仕方ない』と、ひと言で片付けてしまうのは簡単なんですけれど、どうして勝てないのか、勝つためにはどんな経験が必要なのか、いろいろと考えながら、本当に一歩ずつですが、着々と進んできた実感はあります。

 今の4人、特に私と小谷姉妹は実績があってチームに加入したわけじゃないけれど、(チームとして)育成・強化をしてもらうなかで成長してきたように思います。そうやって、チームとしてだんだん大きくなっていく様子を肌で感じられるのは楽しいですね」

――小穴選手ご自身のキャラクター、カーラーとしての特徴などについてはどう分析されていますか?

「う~ん、私は少なくとも自分でカーリングの才能があるとか、選手として優秀だとか思ったことは一度もありません。でも、カーリングはずっと見ていられるし、見ていたいんです。"(カーリング)オタク"です(笑)。それだけは唯一、恵まれたなと思います」

――観戦する際は、レベルやカテゴリーなども関係ないのでしょうか。

「そうですね。平昌五輪もミックスダブルスのチケットしか取れなかったのですが、現地に行って観戦しましたし、配信がある試合、今季だとジュニアの大会などをずっと見ていました。カナダ遠征に行っても、空いている時間があれば、ホールにあるカフェやバーで(他のチームの試合を)観戦しています。今年は試合が少ないから寂しいですね」

――スキップとしてはいかがでしょうか。自らの課題としていることはありますか。

「世界選手権に出た2018年辺りから、たくさんのコーチや関係者から『Patient』(忍耐強い、我慢強い)というアドバイスをもらっています。私は『これを決めなきゃ勝てない』とか『これくらい決めて当たり前だ』とか考えがちなんですけれど、『いつも完璧でいることはできないから、自分の考えている理想の展開ではない時は、その場をしのぐということも大切だよ』というような感じですね」

――完璧主義者なのでしょうか。

「競技だけです。普段は自分がそこそこ過ごせていれば、あんまりこだわりがないです」

――選手として、将来の展望やイメージがありましたら聞かせてください。

「カーリングって選手生命が長いスポーツなので、(競技者としてではない)自分の人生を進めるタイミングが難しいと思っているんです。例えばカナダでは、カーリングに対して家族やチームの理解も得やすいし、チーム数も多いので、1年休んでまた復帰するというケースは珍しくないです。

 それに比べると日本の場合は、チーム数も少ないので、そういったことは簡単ではないかもしれません。チーム数が少ないってことは、そこに用意されている席も限られているので、1年、2年のブランクが大きな影響を及ぼしてしまう。ただそれでも、自分の人生を進めながら、求めてくれるチームや場所がある限りは、カーリングを続けていきたいとは思っています」

――いよいよ勝負のシーズンの集大成となる日本選手権が始まりますが、今季はどのように強化を図ってきたのでしょうか。

「先シーズン(2019-2020)は、カナダ遠征で初めて勝てたり、多くの試合でたくさんのことを試せたりした、という意味ですごくいい経験が積めました。その反面、ピーキングがうまくいったとは言えませんでした。ちょっとオーバーワーク気味でしたね。その結果、大事な日本選手権は持っている力を100%発揮できなかった、不完全燃焼の大会となってしまいました」

――そうしたこと受けての今季、コロナ禍にあって強化面においては苦労も多かったのではないでしょうか。

「昨年の春、緊急事態宣言が発令されたあたりは、もともとオフシーズンを作るプランだったんです。春からアイスに乗らず、6月くらいまではトレーニングをする予定でした。そして実際、今季から信太美紗都トレーナーがチームについてくれたので、春の間はひとりひとり個別のメニューを組んでもらって、オンラインで体幹を鍛えたり、それぞれでランをこなしたりしてきました。幸いにも、コロナ禍で強化が滞るということはなかったと思います」

――日本選手権の地区予選にあたる関東選手権が中止になってしまい、前年度最上位の富士急が日本選手権に派遣されることが決まりました。

「(関東選手権が中止になったことは)本当に残念ですが、状況が刻一刻と変わっていくなかで、安全に開催できる方法をギリギリまで探ってくださっていた大会事務局の皆様には感謝しかありません。『何かをやると決めること』も『やらないと決めること』も大変な決断であることは想像に容易いです。この場を借りてお礼を言わせてください。ありがとうございました」

――それも含めて、試合勘といった部分での不安はありませんでしたか。

「それは、正直ありました。練習試合はできましたし、JCA(日本カーリング協会)が強化合宿を組んでくれたのもありがたかったのですが、緊張感のある雰囲気の中で試合をする、というのは難しかったですね。そのために、まだジュニアの試合に出られる年齢の有理沙はジュニアの試合に、あとの3人はミックスダブルスの試合に挑戦して、緊張感のある試合をこなしてきました。

 私は去年に引き続き札幌国際大の青木豪選手と、真央さんは双子の弟である石垣龍耶選手を常呂から招聘してそれぞれペアを組み、関東ブロックの決勝で対戦しました。ミックスダブルスの日本選手権にも出場予定なので、そちらも見ていただければうれしいです。優奈は残念ながら準決勝で敗退してしまいましたが、3位決定戦まで残って多くの試合ができたので、チーム的にはいい準備になったと思います」

――また、日本選手権に向けて、フィフスに苫米地美智子選手という2014年ソチ五輪のオリンピアンを新戦力として迎えています。

「チームで話し合った結果、オリンピックも見越してオリンピック経験のある選手にお願いしたいという総意でお声がけさせていただきました。以前から苫米地さんは信太トレーナーと付き合いがあった縁でチームにもすぐに馴染んでくれ、頼もしい存在になってくれています」

――いい試合を見せてくれることを期待しています。

「日本選手権に送り出してくれた皆様に、富士急が行ってよかったなと思ってもらえるような試合をしたいです。悔しかった昨年のこともあり、今年は日本選手権に合わせてピーキングしてきましたが、やってきた以上のことは出せないので、まずはやってきたことを100%出して、成長した姿をお見せできればと思っています」

(おわり)


小穴桃里(こあな・とうり)
1995年5月25日山梨県甲府市出身。8歳の時にカーリングを始め、中学3年生の時に2010年に結成したチームフジヤマ(現富士急)のオリジナルメンバーとして抜擢される。以降、チームとともに成長を続け、2018年には日本選手権で初優勝。世界選手権にも初出場を果たす。翌2018-2019シーズンにはワールドツアーで2勝するなど、近年大きな躍進を見せている。趣味はロードバイクとピストバイク、カメラなど。好きな食べ物は、いももち。

「真央さんのお母さんの手作りがいちばん美味しいです」