Juju・野田英樹 親子インタビュー 後編前編から読む>>元F1ドライバーの野田英樹氏を父に持つ、中学生のレーシングドライバーJuju(野田樹潤、15歳)は今シーズン、アメリカに戦いの舞台を移しF4 USに参戦する。昨年参戦したデンマークF…

Juju・野田英樹 親子インタビュー 後編

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元F1ドライバーの野田英樹氏を父に持つ、中学生のレーシングドライバーJuju(野田樹潤、15歳)は今シーズン、アメリカに戦いの舞台を移しF4 USに参戦する。昨年参戦したデンマークF4選手権は、デビュー戦でいきなりポール・トゥ・ウインを飾るなど大活躍。世界のトップカテゴリーで勝利する日を夢見て、父と娘の二人三脚で走り続ける野田親子に今季の意気込みをたっぷり語ってもらった!



2021年はアメリカに渡り、F4 USに参戦するJuju(NODA RACING CONSULTANTS=写真提供)

ーーデンマークF4では、ぶつかってきたライバルチームのピットに怒鳴り込みにいくこともあったようですね?

Juju デンマークに行く前の私だったら、とてもできなかったと思います。

野田英樹(以下、野田) 頑張っているなと一番思ったのは、国際自動車連盟(FIA)が主催した女性ドライバー発掘・育成プロジェクト『ガールズ・オン・トラック・ライジングスターズ』に参加した時です。ピットの中には本人しか入れないので、我々は遠くから見ているしかなかったのですが、Jujuがどうしても納得できないことがあって、エンジニアやスタッフ、FIAの担当者を相手に最後の最後までやりあっていました。もうクルマから飛び出してくるぐらいの勢いでしたね(笑)。

Juju ハハハ(笑)。

野田 本人はやり合った相手が誰だかは知らないと思いますが、昔のルノーF1のマネージャーだったり、私がラルースでF1を走っていた時代に活躍していた連中でした。他の女の子は何か言われたら、「はい」と素直に聞いていたのですが、Jujuはケンカ腰でやりあっていました。そんな姿は初めて見ました。

Juju 英語はあまり得意ではないですが、それでも言葉にすれば相手に感情は伝わります。今までは英語が不得意なことを言い訳にしてあまり喋らないことにしていたのですが、やっぱり言うべき時には言わないと。その時、一瞬の勇気を出せば、その後がいい方向に進んでいき、結果的に自分のためになります。そういう経験が1回あったので、それからは積極的に自分の意見を主張するようになりました。

野田 メンタル面だけでなく、海外の1年間で技術面でも大きく成長しました。今まではF4やF3でいいタイムを出していますが、課題はいくつかありました。セッティング能力やマシンの状況を表現する能力、短時間でマシンの最大限のポテンシャルを引き出すという点、冷えたタイヤに熱が入るまでの使い方など......。そういうところもヨーロッパの経験でかなり進歩したと感じています。

ーー父親としてだけでなく、ドライバーの先輩として見ても、Juju選手はすごく成長したということですね。逆に足りないところはありますか?

野田 速さや集中力の部分でいうと、もうアドバイスすることはほとんどありません。ただ、これから先、何年も親子でやっていけるわけではありません。数年後には、親離れをして独り立ちしていくことになる。そうすると、いろんな人と関わりながら仕事を進めることになります。例えば、マシンのセッティングをする時にひとつの言葉が人によって全く違う受け取られ方をすることもありますから、コミュニケーション能力や表現力などはまだまだ成長してほしいし、そこに関しては私が伝えられることはまだあると感じています。

ーーこれまでJuju選手がお父さんから教えられた中で、一番、心に残っている言葉や考え方は何ですか?

Juju 昔からずっと言っている「負けても負けても諦めない」という言葉です。勝たなければダメというよりは、負けてもまた次に勝てばいいという意味です。レースに限らず、スポーツはずっと勝ち続けることはほとんど不可能です。勝つこともあるし、負けることもある。1回負けただけで心が折れかけて、次に立ち向かえないというのではなく、たとえ負けてどん底に落ちたとしても、そこからまた自分の力で起き上がって次に進んでいくという考え方です。

 そういう姿勢がすごく大事だと、お父さんは言葉だけでなく、行動で見せてくれました。「負けても負けても諦めない」という言葉は今までも私の大きな支えになってきましたし、これからも役に立つだろうと思っています。



1994年、ラルースからF1に参戦した野田英樹

ーーJuju選手は5歳でお父さんのようなプロのドライバーになると決意したそうですが、その時から現在までにレースをやめたいと思ったことは一度もなかったですか?

Juju あります(笑)。本気でやめたいと思ったことはないですが、やめようかなと思ったことなら何度もあります。例えば小学生の時には友達と遊びたいとか、練習ばっかりで学校の行事に出られなかったりした時ですね。「同年代の友達は遊んでいるのに......。やめたいな......」と思ったりするのですが、レースを手放してまでそっちがほしいかって言われると、「そうでもない」という結論になります。

 レースでも全部が絶好調というわけにはいきません。うまくいかない時には、やめたらもっと気持ちが楽になるのかなという考えが頭をよぎることもあります。でも、やめて一瞬、得られるものよりも最後はレースを取りたいなと、いつも思いますね。

ーー今後、さらに上のクラスへステップアップしていくためにはフィジカルを鍛えることがすごく大事になってくると思います。日々のトレーニングはどのようにしているのですか?

Juju 今までは成長している段階だったので、筋肉をつけるようなトレーニングはあまりしてきませんでしたが、今年から本格的に筋力トレーニングを始めました。男性と女性の間には絶対的な筋肉量の差があるので、男子の倍は頑張らなければならないと思っています。お父さんからは、レスリング女子でオリンピック3連覇を達成した吉田沙保里選手みたいな身体にならないと上のクラスでは活躍できないと言われています。

ーーこれから世界のトップカテゴリーまでの道筋をどのように考えていますか?

野田 年齢的に言うと、18〜20歳ぐらいに世界のトップカテゴリーにステップアップすることを想定し、プランを考えています。まずはフォーミュラであってもスポーツカーであってもいいので、いろいろなサーキットをたくさん走って、さまざまな人と接して、経験を積み重ね、成長していけばいいというのが基本的なスタンスです。その中できちんと結果を残していれば、上に登っていけると思います。

 今年はアメリカで走りますが、2022年にどこの国に行くのかはまだわかりません。昨年、ヨーロッパで頑張っていたら、今年はアメリカで走らないかというオファーをもらいました。頑張り続けることで、どこか違うところからオファーがもらえるはずです。求められるところで走り、結果を出すことが未来につながっていくと思いますので、あまり細かく縛られる必要はないと考えています。

Juju これまでずっと「F1で走りたい」と言ってきましたが、将来的には電気自動車のフォーミュラEがトップカテゴリーになっているかもしれません。世界のトップカテゴリーに出場し、そこで勝つことが小さい頃からの夢です。そこに向かって全力で頑張っていきたいです。

ーー今シーズンはJuju選手にどんな結果を求めますか?

野田 もちろんいい結果を出すに越したことはないのですが、アメリカのレースは非常にレベルが高く、参加台数も多いです。経験豊富なドライバーもたくさんいます。あとデンマークではイベントが開催されるサーキットが3カ所しかなかったですが、アメリカは6カ所もあります。

 本番前にレースが行なわれるサーキットでのテストは限られていますので、今年はさほど高望みはしていません。ひとつでも多くのレースをして、いろんなことを吸収してほしい。毎戦毎戦、少しずつでもいいので成長していって、最終的にトップ争いができるところまでいければいいかなと思っています。

ーーアメリカでのチャンピオン獲得は数年スパンで考えているのでしょうか?

野田 Jujuと一緒に何年も戦ってきて、マシンを操る能力や速さに関しては上のクラスでも通用するのはわかっています。でもこの先、上のカテゴリーにステップアップして男性ドライバー相手に戦う時には、もっと体力をつける必要があります。

 今までも速い女性ドライバーはたくさんいましたが、女子レスリングの吉田沙保里選手のレベルまで体づくりに取り組んできた女性ドライバーは、自分の知る限り見たことがありません。オリンピックで金メダルを取るぐらいの精神力を持って、本人が体づくりを努力すれば、上のクラスでも結果を出せると思っています。

 だから今年は、トレーニングを含めて自分のやるべきことをしっかりとやることが目標です。結果だけにこだわっていません。アメリカで戦うことはもちろんですが、すべてのサーキット、マシン、チームが本人にとって初めてです。他の選手に比べて、だいぶハンデはあるわけですね。最初からそれをプレッシャーに感じて、「結果を出さなきゃ」と思いながらレースをしても楽しくありませんから。今年1年が勝負ではなく、もう少し長い目で見ているというのが本音です。

Juju 開幕戦で勝ちたいとか、今シーズンは何勝したいとか、そういう目標はないです。今年は、レースを楽しめる環境を自分で作っていきたい。レースを楽しむためには、やっぱり負けていたら楽しくありません。だから勝つということも環境作りの中には入っています。勝つためにはトレーニングはもちろん、上手にコミュニケーションを取るために英語も頑張らなくてはなりません。楽しめる環境を作ることができれば、必ず結果がついてくるはず。自分なりに精一杯、頑張りたいです!



オンラインでアメリカからインタビューに応じる野田親子

【profile】
野田樹潤 Juju 
2006年2月2日生まれ。3歳の頃に父からプレゼントされたカートに乗り始め、4歳でレースデビュー。9歳からF4マシンをドライブし、2020年はデンマークF4選手権に参戦。デビューウィンを飾った。今季は「ジェイ・ハワード・ドライバー・デベロップメント」からアメリカのF4選手権に挑む。趣味は料理。「レースを離れると、アニメも見ますし、普通の中学生っぽいことが好きです(笑)」 

野田英樹 のだ・ひでき 
1969年3月7日生まれ。82年にカートデビューし、87年にフォーミュラカーレースにステップアップ。89年に渡欧し、イギリスF3や国際F3000で活躍。94年にラルースからF1デビューを果たす。その後、アメリカのインディ・ライツやインディカー選手権、国内最高峰のスーパーフォーミュラやスーパーGT、ルマン24時間レースにも出場。2010年限りで現役を引退し、13年から「NODAレーシングアカデミー」を開校し、世界で活躍するレーサーを育てることに力を注いでいる。