引退した野球選手が少年野球チームを立ち上げたり、現役選手が少年野球のトーナメントを主催したり、という話はあるが、現役選手が少年野球チームの運営に関わることは稀だ。なぜ今、筒香嘉智はスーパーバイザーに就任したのか。それは、発言権が増した今こそ…

引退した野球選手が少年野球チームを立ち上げたり、現役選手が少年野球のトーナメントを主催したり、という話はあるが、現役選手が少年野球チームの運営に関わることは稀だ。なぜ今、筒香嘉智はスーパーバイザーに就任したのか。それは、発言権が増した今こそ「野球界に還元する」行動を起こしたかったからだ。

■出身ボーイズリーグの小学生部門で“思い”を還元

 今冬最大の寒波が日本列島に押し寄せた15日、大阪府河内長野市にある堺ビッグボーイズ(堺BB)のグラウンドには、子供たちの元気な声が響き渡った。この日は堺BB小学生部門「Team Agresivo(チーム・アグレシーボ)」の体験会が開催され、遠くは岡山県から野球経験のあるなしに関わらず、午前・午後の部で合計60人の5~10歳の子供たちが集まった。同時に、堺BBのOBでもあるDeNA筒香嘉智外野手がスーパーバイザーに就任。子供たちと一緒に笑顔で白球を追った。

 引退した野球選手が少年野球チームを立ち上げたり、現役選手が少年野球のトーナメントを主催したり、という話はあるが、現役選手が少年野球チームの運営に関わることは稀だ。しかも、筒香は昨季セ・リーグ打撃2冠に輝き、今年3月のWBCでは侍ジャパンの主軸を担う“旬”な男。25歳という年齢を考えても、自分のパフォーマンスを向上させることだけに意識が向いてもおかしくない。なぜ今、筒香はスーパーバイザーに就任したのか。それは、発言権が増した今こそ「野球界に還元する」行動を起こしたかったからだ。

 プロ3年目のオフからアメリカ合衆国でトレーニングを始め、2015年オフにはドミニカ共和国でウインターリーグに参加。その印象が強く、海外にやや傾倒しているように思われがちだが、根本にある思いは「自分を成長させてくれた野球、そして野球界への感謝」だ。海外での滞在期間中に、現地で子供たちの育成や指導場面に接する機会があり、指導方法や子供たちの表情の違いに衝撃を受けた時も、頭に浮かんだことは「日本で同じことができないわけがない」という思いだった。その率直な思いに耳を傾け、実現の場を提供してくれたのが、堺BBの瀬野代表だったというわけだ。

■「挨拶とか、返事とか、人の有り難みが分かるとか、そういうことは絶対に大事」

 筒香は常に「野球を楽しく」というキーワードを口にする。「楽しい」という言葉を聞くと、和気あいあいとした雰囲気で競争を嫌ったり、放任主義的なイメージを抱くかもしれない。だが、筒香が言う「楽しく」は、言い換えれば「恐怖心を持たずに」「失敗を恐れずに」「自分に限界を作らずに」という意味になるだろう。決して、みんなでワイワイという無法地帯的な意味を持つわけではない。「楽しく」野球をするためには、最低限のルールや規律を守ることは必要。「挨拶(をする)とか、返事(をする)とか、人の有り難みが分かるとか、そういうことは絶対に大事だし、やらなければいけないことだと思います」と、日本的アプローチの大切さも説く。

 海外で見て感じた良さと日本が持つ良さをコラボレーションする場、チーム・アグレシーボの設立に、現役選手ながら携わったのも、堺BBで過ごした中学生時代から身についた「常に前進する姿勢、チャレンジを恐れない心」があったからだ。

「人は前例がないことを嫌う。でも、そう言ってたら、何も変わらないですし。日本には日本の良さもあるけれど(変えて行くべきところは)誰かが変えていかないとよくならない。(僕は批判を受けても)恐れはまったくないです。ただ野球をやっていればいいわけではない。僕自身、野球を通じて成長させてもらっているので、野球界に何か還元できればと。これからも強い勇気を持ってやっていきたいと思います」

 選手としてのさらなる飛躍も楽しみだが、野球界にこれからどんなアクションを仕掛けていくかも楽しみだ。