1月30日、愛知国体成年女子フリーを滑る川畑知愛  今年3月、スウェーデンでフィギュアスケート世界選手権の開催が濃厚になってきた。そこで、来年2月に予定される北京五輪出場枠数も争われるという。  日本女子フィギュアは前回…



1月30日、愛知国体成年女子フリーを滑る川畑知愛

 今年3月、スウェーデンでフィギュアスケート世界選手権の開催が濃厚になってきた。そこで、来年2月に予定される北京五輪出場枠数も争われるという。

 日本女子フィギュアは前回の2018年平昌五輪、2つの枠で参戦している。今回は、3つを勝ち取りたいところか。ロシア、アメリカと並ぶ"フィギュア大国"の日本にとって、不可能ではない。

 もっとも、3人だとしても"狭き門"だ。

 全日本選手権を連覇し、トリプルアクセルだけでなく4回転も成功させた紀平梨花はひとり抜きん出ているか。他は群雄割拠。"2番手グループ"は坂本花織、宮原知子のふたりが実力・実績で上位も、樋口新葉、三原舞依はひっくり返す力を持つ。また、ジュニア世代も昨年の全日本で4位に入った松生理乃、トリプルアクセルを武器とする吉田陽菜、4回転にも挑戦するという河辺愛菜の新鋭3人も未知の爆発力を秘める。

 そして伏兵たちも、虎視眈々と五輪を目指しているーー。

 1月29、30日、名古屋。愛知国体・フィギュアスケート成年女子は坂本が優勝したが、紀平、宮原以外、全日本に近いメンバーがそろい、火花を散らしている。

 そこで地力の強さを見せたのは、2位に入った川畑和愛(19歳)だ。

 2019ー20シーズン、川畑はジュニアながら全日本で3位に入っている。長身の体躯(たいく)から手足をのびやかに動かし、雄大なスケーティングでイタリアのカロリーナ・コストナーを思わせる。ただ、2020ー21シーズンの全日本は11位と低迷。コロナ禍でのシニア転向、大学進学、そして"全日本表彰台の称号"などが足かせとなったか。

「今シーズンは思うように滑れなくて、全日本3位という結果はもう過去のことっていうか。あんまり考えないようにしています。しっかり滑らないと、というプレッシャーになってしまって」

 川畑はそう言って、自己分析をした。国体では自然体で、総合202.36点を叩き出している。

「点数は190点台もあまり出せていないので、200点台はうれしかったですね。今シーズンは最初に長く滑れない時間があって、なかなか満足できる演技はできませんでしたが。(シーズン)最後に、練習してきたプログラムをノーミスでできたので、その調子をキープしつつ、さらに頑張りたいと思っています」

 シニア2年目、五輪イヤーで本領発揮となるか。練習では、すでにトリプルアクセルにも取り組んでいるという。来シーズンは、ふたつとも新しいプログラムで挑むことになりそうだ。

 壁を突き破るため、各選手が試行錯誤を重ねている。



フリー演技の横井ゆは菜。総合3位に入った

 国体で3位に入った横井ゆは菜(20歳)も、自身を深く見つめていた。

「今シーズンは自分のスケートの調子次第で、こんなにも自分のメンタルが左右されるんだ、ということを思い知らされました。ジャンプが少し良くなると、それだけで前向きになるし......。調子が良かろうが、悪かろうが、落ち着いて滑れるようにならないといけないと思っています。そのために、しっかりと練習を積んで」

 横井は早口で言う。練習の質と量に、行動規範があるのだろう。その分、視点は現実的だ。

「たまに、トリプルアクセルも練習はしています。でも、厳しいな、というのはわかっていて。『来季は入れます!』とは簡単に言えないですね。なので、トリプルアクセルなしで一番点数の高い構成を目指しています。例えば、基礎点の高い後半に(難易度の高い)ルッツを入れた3回転3回転(のコンビネーション)とか。現状は目指すところの第一段階で」

 横井はスケーターとして独自の色を持つ。おどけて周りを楽しませるキャラクターだが、発言は至って思索的。その点、端々に強情さもにじみ出るが、それは矜持にも結び付く。例えば昨年の全日本、ショートプログラム(SP)では16位と出遅れたものの、フリーは鬼気迫るような演技で6位と巻き返した。腹をくくった時、力を振り絞れるのだ。

「オリンピックよりも、日本のトップに追いつくために頑張っていきたい」

 横井は言う。彼女ならではの言い回しで、アプローチだ。

 引退を撤回して挑んでいる新田谷凜(23歳)も、ダークホースと言えるだろう。昨年の全日本ではSPで5位と健闘し、国体でもフリーで5位と輝きを見せた。ただ、SP、フリーをふたつそろえるのを苦労している。

「トリプルアクセルの練習を本格的にしたいと思っています」

 新田谷はそう公言した。トリプルアクセルという難解なカードを引くことで自らを奮い立たせ、演技全体を旋回させられるか。

「全日本のフリーで最終グループに入って、欲が出てきました。構成を上げてやりたい気持ちというか。練習は試合、試合は練習と、日ごろから意識を高めて取り組んでいきたいです」

 トリプルアクセルを捨てるか、拾うか。五輪イヤー、それはひとつの岐路になる。4回転挑戦に打って出る選手も少なからずいるだろう。はたして、運命はどう転ぶのか。そこには、光と影の物語があるはずだ。