フィギュアスケート冬季国体・少年女子で優勝した松生理乃  リンクに入った時、松生理乃(愛知、16歳)の顔はやや強張っていていた。  入れ替わりでリンクを下りた吉田陽菜(京都、15歳)が冒頭のトリプルアクセル成功など、会心…



フィギュアスケート冬季国体・少年女子で優勝した松生理乃

 リンクに入った時、松生理乃(愛知、16歳)の顔はやや強張っていていた。

 入れ替わりでリンクを下りた吉田陽菜(京都、15歳)が冒頭のトリプルアクセル成功など、会心の演技を見せた直後だった。優勝するには完璧に近い演技を求められ、ミスの余地が少ない。それは、緊張に直結した。案の定、1本目の3回転フリップはエッジがぼやけ、2本目のダブルアクセルはより明らかに乱れた。焦りは増し、総崩れになる可能性もあった。

 今シーズンの全日本ジュニア女王である松生は、ひとつの岐路に立っていたーー。

 1月28日、名古屋。愛知冬季国体では、次世代を担う女子ジュニア年代の選手たちが百花繚乱だった。ショートプログラム(SP)が終わり、フリースケーティングを前に松生、吉田、河辺愛菜(京都、16歳)の3人が僅差で並んだ。

「今シーズンは表現力を課題にやってきて、そこは少しよくなってきたと思います。(ローリー・ニコル氏の振り付けで)去年よりも上半身を使って、動きながら滑ることができるようになってきました」

 そう語った河辺は、昨シーズンに勝ち取ったジュニア女王の称号に恥じない演技をフリーで見せる。ひとつに束ねた髪を跳ねさせ、全身を波打たせるように動かし、指先から音を紡ぎ出した。3回転ルッツ+3回転トーループという難易度の高い連続ジャンプも成功。体躯(たいく)を活かした大らかな動きは、ケガもあって思うように練習ができない状態とは思えない。氷の上に立った時の勝負強さだ。



フリーでトリプルアクセルを決め、総合2位になった吉田陽菜

 しかしまだ中学生の吉田は、その渾身の演技を凌駕した。冒頭、軽やかに大技トリプルアクセルで着氷。3回転ルッツ+3回転トーループも、わずかだが河辺を超える出来栄え点(GOE)を叩き出した。

「トリプルアクセルは自信があったので降りることができたし、よいアクセルだったので嬉しいです」

 吉田は口もとに喜悦をにじませて言う。

「今はアクセルだけを考えなくても降りられるようになってきています。(アクセルが)どうなっても、他のジャンプを降りられるという気持ちで、(アクセルの)負担はなくて。降り方を改善して、ジャンプの高さが出て、余裕が出てきました。体幹が弱かったので、そこを一番練習ではやって。紀平(梨花)選手のアクセルは成功率が高いので参考にさせてもらっていますが、大事なのは自分のイメージを持つことだと思っています」

 溌剌とした少女には、世代を飲み込む力があるかもしれない。

 首位に躍り出た吉田の前に、松生は冒頭に記したように序盤で明らかに劣勢に立っていた。

「前の選手(吉田)がよい演技をしたので緊張があったのか。(待っているときに)声援がすごく聞こえてきて、(実際に)点数も高かったですから。それで1本目のジャンプは思ったように上がらず、ダブルアクセル(も得意)なのに失敗してしまって」

 松生は心中を明かすが、その後にハイライトはあった。気を取り直したように一つひとつの技を丹念に行ない、スピンはレベル4を獲得し、確実にポイントを積む。アップにまとめた髪は上品で衣装と相まって、桜の花びらが舞うように可憐だったが、むしろ場数を踏んできた力強さが凛と映えた。



3位に入った河辺愛菜

 基礎点が高くなる終盤のジャンプ、3回転ルッツ+2回転トーループ、3回転フリップ+3回転トーループ+2回転トーループ、3回転サルコウ+3回転トーループとことごとく成功したのだ。

「最初乱れた後、『落ち着いて、落ち着いて、いつもどおりやればいいから』って自分に言い聞かせて。リズムを取り戻せてよかったです。昨シーズンまでは序盤に失敗すると、そのまま崩れていたので。立て直すことができたのは成長で、自信につながると思います」

 松生は朗らかな声で言った。インターハイからの連戦だったが、実はSP後にも2時間、みっちりとジャンプを練習したという。試合を重ねるたび強くなる印象だが、合間のトレーニングの濃厚だ。

「昨日もしっかり練習でノーミスができていたんで、(後半のジャンプは)できると思ってできました。今シーズンはどの試合も大きなミスがなく、メンタル面は強くなってきたかなって。来シーズンは、ジャンプ、スピンも強化できるように」

 そう語った松生は、124.87点でフリーもトップ。SPからの首位を守り、総合188.42点で堂々の頂点に立った。

 次の時代を担う女子フィギュアはライバルの勃興で、それぞれが実力と野心を高め合っている。

「(シニアの)上位選手と比べると差があるので、来シーズンは近づけるように頑張りたいです。足の状態もありますが、4回転はできるように練習を増やしたいな、と。まだ一度、回転が足りずにサルコウを降りただけですが」

 3位の河辺はそう言って、反撃を誓っていた。

「来シーズンはたとえミスしても190点、ノーミスで200点をひとつの目標に。4回転(トーループ)を試合でできるように習得したいです。まだ、感覚もつかんでいませんが」

 2位に入った吉田は虎視眈々と言った。

「自分の中では、今シーズンの成績はびっくりで。(昨年11月)全日本ジュニアで優勝できたのが一番記憶に残っています。昨シーズンは悔しい思いをしたので」

 松生は言うが、無念さを持続し、トレーニングで進化できるのは異能だ。

 誰が次代の日本女子フィギュアを牽引するのかーー。その切磋琢磨が競技の力となる。