入団当初から他を圧倒する才覚を見せたが、プロ生活4年を経て押しも押されもせぬ存在となった大谷翔平について、日米球界で活躍した斎藤隆氏は「日本じゃない、もう世界のレベル」と大絶賛する。22歳“二刀流”の未来について「楽しみしかない」という斎藤…
入団当初から他を圧倒する才覚を見せたが、プロ生活4年を経て押しも押されもせぬ存在となった大谷翔平について、日米球界で活躍した斎藤隆氏は「日本じゃない、もう世界のレベル」と大絶賛する。22歳“二刀流”の未来について「楽しみしかない」という斎藤氏に昨年末、デビューした2013年から2016年まで大谷が速球を投げる姿を集めた映像を見ながら、その変遷について分析してもらった。
■メジャーで実績誇る斎藤氏が映像を見て分析、2015年は「すごい、もうそれだけ」
リアル二刀流、日本最速165キロ、球宴の本塁打競争優勝など、2016年のプロ野球界の話題を独り占めにした日本ハム大谷翔平投手。プロ4年目を終えたばかり。まだまだ成長過程にある22歳だが、投手としても打者としても類い稀なる資質を光らせる姿に、早くもメジャー球団が熱視線を浴びせている。
入団当初から他を圧倒する才覚を見せたが、プロ生活4年を経て押しも押されもせぬ存在となった大谷について、日米球界で活躍した斎藤隆氏は「日本じゃない、もう世界のレベル」と大絶賛する。22歳“二刀流”の未来について「楽しみしかない」という斎藤氏に昨年末、デビューした2013年から2016年まで大谷が速球を投げる姿を集めた映像を見ながら、その変遷について分析してもらった。
まずは、鳴り物入りで入団した2013年の映像だ。マウンド上の大谷はまだ身体の線が細いが、投げる球はコンスタントに150キロ台後半を記録。映像を見つめる斎藤氏は「投げる力は持っているけど、それを止める力を持っていないね」と切り出した。
「厳密には、投げる筋肉、パワーを出力する筋肉は持っているけど、それを止める筋力がないですね。止める筋力っていうのは、普通は肩の筋肉か背筋になるけど、そこがまだ弱いのかな。投げた後に顔が大きくぶれるのは、そのため。次の年あたりに落ち着くんじゃないかと思います」
その言葉どおり、映像が2014年に切り替わると、顔や頭のぶれが少なくなった。
「大分落ち着いたけど、序盤はエネルギーを出力している方向が安定していないから、制球がばらつくことが多い。ばらつきはあるけど、シーズンが進むにつれて、力の発揮の仕方やタイミングを覚えてきましたね」
そして迎えた2015年。大谷は15勝5敗、防御率2.24という素晴らしい成績を残した。
「15年はすごい! まずボールに対する指の掛かりがすごい。体重移動がしっかりできて、ボールがクッと指先に掛かりだしました。それまでは、まだ滑っているというか、ボールを押し出している感じがあるけど、この年はしっかり指に掛かっています。
両足を踏ん張った力が地面から伝わって、体幹、関節、靱帯、そういった必要なパーツを通って指に伝わる。そのパーツの動きが完全に一致していますね。自分の持っている筋力や能力をすべてコーディネートできるようになっている。打者は速球を投げることは分かっていても、反応できなかったんじゃないかと思います。15年はすごい。もうそれだけ(笑)」
■筋力アップで臨んだ2016年は「自分の身体やパワーを持て余している感じ」
大絶賛の2015年大谷だが、オフのトレーニングで進化した身体で臨んだ2016年は少し勝手が違ったようだ。
「16年は力をグッと溜めることを意識したのかな。特に前半は自分の身体やパワーを持て余している感じはします。15年の方が全体の身体の使い方がうまく見えますね。まだ新しい体格になった自分自身をうまくコーディネートできていない気がします。
投げる時にフォームに力が入ると、バッターには分かるんですよ。160キロの球を投げるのはすごいことだけど、バッターには投球フォームっていう情報がある。フォームにどこか力みがあると、打者はタイミングを取れるんですよね。プロの打者は、ピッチャーが見せるわずかな違いや変化に気付き、対応できる天才ばかり。ピッチャーは、いかにそういった情報を与えないようにするかが大切になってきます。
おそらく16年の大谷君は、自分が思っている結果にならない球が多かったんじゃないかな。打者を仕留めきれなかったことが。このオフも筋力トレーニングをやっているみたいだから、その身体でのフォームが整うまで2、3年は掛かるかもしれません。もっとコントロールできる、もっとピッチングができる、そういうイメージを持ってマウンドに上がるんだけど、なかなか思い通りになっていない感じがしますね」
斎藤氏の目には試行錯誤を繰り返しているように見えた2016年でも、日本人最速165キロを計時したり、防御率1.86という成績で打者を圧倒した感は強い。2017年、さらに筋力アップした身体で、2015年のように全身をコーディネートした投球ができるようになったら、一体どうなるのだろう。
「160キロで投げても、静かに流れるような投球で、すごく見えなくなると思います。タイプは違うけど、シャーザーやカーショーみたいな感じ。彼らがすごいのは、打者が動かないこと。多分、2017年は打者が手も足も出ない仕草をするシーンが増えるんじゃないかな」
■斎藤氏にとって高かった160キロの壁「大谷翔平とチャプマンしか知り得ない世界に行っている」
日本ではすでに突出した存在となった大谷が持つ才能は、誰もが疑う余地はない。比較対象を世界に広げてみても、投手・大谷の才能はトップレベルにありそうだ。
「スピードに関して言えば、大谷翔平とチャプマンしか知り得ない世界に行ってますからね。運動能力を見ても、この2人は群を抜いている。あの背の高さで、あの手足の長さで、あの理想的なフォームで投げるのは素晴らしい。長身のピッチャーって、どこかクセのあるフォームになりがちなんですよ。でも、彼は教科書通りですよね。
彼は160キロ台の世界から170キロへ行こうとしている。僕も160キロ投げていれば、もう少し何か言えるんだけど、159キロで止まっちゃったから(笑)。160キロの壁は越えられなかったなぁ。
大学2年で初めてピッチャーを始めた時、スピードガンで計ってもらったら134、5キロくらいだった。それでも速いって言われたんだけど、140キロを超えるのに1年掛かりました。139キロまではツツッと上がるのに、140キロの壁はすごい。今度プロに入って迎えた150キロの壁はとてつもなく高かったんです。そう考えても、165キロの世界は大谷君とチャップマンしか知り得ないでしょうね」
まだ22歳。これから先、一回りも二回りも選手として成長を遂げていくであろう大谷の未来を考えると「そこには楽しみしかない」と断言する。近い将来にメジャー移籍の意向も示しているが、その時は投手・大谷になるのか、打者・大谷になるのか、あるいは二刀流のままなのか、興味は尽きない。
「僕は彼を長く見ていたいから、本当はどちらかにしてほしいんだけど、去年のアリゾナキャンプ中にパドレス関係者は『両方でいける』って言ってましたよ。どちらも素晴らしいから、どちらかを消す必要はないって。それを2016シーズンで実証する形になったし、アメリカでは同じく二刀流だった“ベーブ・ルース”の名前まで引き出した。この流れは止められそうにないでしょう。
彼のような投手、打者、どちらでも秀でている能力を見ていられる今の野球ファンは、いや僕も含めて、いい時代にいますよ。それくらいの選手です」
2017年、大谷翔平がどんな進化を遂げるのか、楽しみだ。