2021年元日に行なわれたニューイヤー駅伝、ゴールした吉田祐也は疲れた表情を見せ、肩を落とした。 吉田が所属するGMOインターネットグループは昨年の同レースで5位と躍進。選手が力をつけ、戦力が充実した今大会は優勝が目標だった。3区で渡邊利…
2021年元日に行なわれたニューイヤー駅伝、ゴールした吉田祐也は疲れた表情を見せ、肩を落とした。
吉田が所属するGMOインターネットグループは昨年の同レースで5位と躍進。選手が力をつけ、戦力が充実した今大会は優勝が目標だった。3区で渡邊利典がトップに立ち、目標達成への期待が膨らんだ。
だがその後はズルズルと後退し、7区のアンカー・吉田が襷(たすき)を受けた時は10位。トップの富士通とは3分43秒もの差が開いていた。
「襷をもらった時は、前を追いかけるのも無理だし、8位入賞を狙うしか勝負できないなって思っていました」
初めてのニューイヤー駅伝でGMOのアンカーを務めた吉田祐也
9キロ地点からヤクルトの高宮祐樹、そして昨年の箱根駅伝でチームメイトとして襷を受けたSGホールディングスの鈴木塁人の3人で8位集団を形成した。
吉田は後方にはつかず、あえて前に出て、引っ張った。前で走ると後ろの選手より体力を使う。しかもこの日は冷たい北風が体を押し戻すほど吹いていた。勝負に徹するなら、前には出ず、高宮や鈴木をうまく利用する策もあったはずだ。
「たしかに、風が強いのでむやみに前に出ないほうがよかったかなというのは反省しています。でも、人を使ってというのは、僕個人としてはあまり望ましくないですし、そういうレースをすると今後につながらないと思うんです。勝ち切ることは大事ですけど、今回のようにきつい展開になっても勝負していく姿勢を見せたほうがいいかなと。結果は、競り合いに負けたし、区間順位(25位)も悪かったので仕方ないですけど、そういうレースをしたことに後悔はないです」
吉田はキッパリとそう言った。
レースはラスト、群馬県庁に向けて直線になると吉田がラストスパートをかけた。
「ためていました。その前に2回ほどラストスパートをかけたんですけど、風があったこともあってうまくいかなくて。それで前に出たり、中に入ったり......そういうところで体力を使ったのもよくなかったですね」
ラストスパートで吉田が前に出ると、高宮は「待っていました」とばかりにスパートを返してきて、逆に吉田を一気に抜いた。吉田は離されまいと懸命についていこうとするが、追いつけなかった。
「前半3区まではすごくいい流れができていたんですが、ちょっと落ち込みすぎです。個人としてもチームとしてもよくなかった」
吉田はあえてエクスキューズをしなかったが、初めてのニューイヤー駅伝はほろ苦いものになった。
チームは目標を達成できなかったが、個人的には「充実したシーズンだった」と笑顔を見せた。目標にしていた昨年12月の福岡国際マラソンで優勝し、「次世代のエース」として存在感を見せつけた。
GMOの花田勝彦監督も「一番成長した選手。駅伝でうちのラストを任せられるのは吉田しかいない」と絶大の信頼を寄せる。
吉田のルーキーとは思えない強さは驚きでしかないが、同世代の活躍も光った。
富士通のアンカー・浦野雄平(国学院大)は区間賞で花を添え、ほかにも阿部弘輝(明治大→住友電工)や西川雄一朗(東海大→住友電工)、關颯人(東海大→SGH)、阪口竜平(東海大→SGH)、鈴木塁人(青学大→SGH)、伊藤達彦(東京国際大→Honda)、青木涼真(法政大→Honda)、土方英和(国学院大→Honda)、山下一貴(駒澤大→三菱重工)、中村大聖(駒大→ヤクルト)らが出走した。
また、今回はケガのため出場できなかったが、昨年12月の日本選手権1万mで日本記録を更新し、東京五輪男子1万mの代表に内定した相澤晃(東洋大→旭化成)もいる。
昨年春に卒業した1997年生まれ(または98年早生まれ)の選手は陸上界を席巻し、まさに「プラチナ世代」といえる。これからの陸上界を背負っていくスター候補生たちだが、なぜこれほどまでに強く、結果を出しているのだろうか。
そのことについて吉田に尋ねると、少し考えてこう言った。
「みんな箱根駅伝だけにとらわれていないからだと思います。世界を目指そうと大学の時から意識していた選手が多かった。箱根で注目されたけど、『まだまだ自分は......』という選手が多く、みんな常に上を目指して努力していましたからね」
それまで「箱根から世界へ」と言われても、なかなかピンとくるものがなかった。箱根駅伝で注目されても、その後、実業団に入って目立たなくなるケースが多い。世界のタイムは現実的ではなく、陸上を続けているだけで満足感に浸っている印象もあった。
だが近年は、MGCといった日本が注目するレースが開催され、日本記録更新者には1億円の報奨金が出るなど、選手は夢を持てるようになった。トラックでもタイムが出るようになり、学生の目の色も変わってきた。
学生の時から将来に向けて準備しているせいか、実業団に入ってもスムーズに溶け込み、全体練習と自主練習をうまくミックスさせながら、成長を続けている。
そんな同世代を吉田は「けっこう意識している」という。
「相澤や伊藤はもちろん、アンカーで区間賞を獲った浦野とか気になりますね。今後も僕らの世代は共栄共存で強くなっていければと思っています」
同世代の走りに刺激を受けるなか、吉田は2021年シーズンの目標について語ってくれた。
「まず世界選手権(通称オレゴン22/2021年から2022年開催に変更)ですね。まだ開催されるかどうかわからないですが、選考会となる大会が決まれば、そこで勝って、マラソンで世界選手権出場を決めるのが最大の目標になります。
トラックシーズンは1万mが27分40秒、5000mは13分30秒切りを目標にしています。これができればマラソンの前半でゆとりが出てくると思うので、しっかりとタイムを狙っていきたいと思います」
2020年はコロナ禍のなか個人練習でレベルアップし、自らの目標を達成した。ニューイヤー駅伝では思うような結果を出せなかったが、120%の戦いは見せた。「プラチナ世代」のひとりとして、2021年もその強さを見せつけてくれそうだ。