ダッシャーは日本のeスポーツの実力を底上げする存在 ホークスで活躍した韓国人選手。こう書けば、多くの方は圧巻の打棒で2014年、15年のリーグ連覇に多大な貢献をしたイ・デホを思い出す方が多いのではないだろうか。 今回インタビューをしたDas…



ダッシャーは日本のeスポーツの実力を底上げする存在

 ホークスで活躍した韓国人選手。こう書けば、多くの方は圧巻の打棒で2014年、15年のリーグ連覇に多大な貢献をしたイ・デホを思い出す方が多いのではないだろうか。

 今回インタビューをしたDasheR(ダッシャー)もホークスをけん引する韓国出身選手だが、その競技は野球ではなくゲームによる対戦競技「eスポーツ」。所属するのは2019年10月に始動した福岡ソフトバンクホークス ゲーミング、通称「SHG」だ。

 近年大きな注目を集めているeスポーツは、日本ではまだまだ発展途上。対して、そのトップシーンを席巻しているのが韓国であり、国外リーグへ「助っ人」として参戦しているプレーヤーも少なくない。

 国内でも指折りの球団規模と独自のスタイルを誇るホークスが運営するSHGは、『リーグ・オブ・レジェンド(LoL)』のプロリーグに参戦している。『LoL』は個性豊かなチャンピオン(プレーヤーが操作するキャラクターのこと)を選んで戦う5対5のPC向けゲームだ。チームメイトとの連係と戦略により、相手の拠点に設置された「ネクサス」を破壊すると勝利となる。リリースから10年以上経っている、世界でも屈指のeスポーツタイトルである。世界各国に12のプロリーグが存在し、その頂点を決める世界大会の視聴者は1億人を超える。

 SHGのLoL部門で主力として活躍し、多数のチームに在籍経験を持つダッシャーの目に、SHGの活動や日本のeスポーツ界はどう映っているのだろうか。

――ダッシャー選手は2019年1月から日本のチームで活動されています。家族や友達からどんな反応がありましたか。

 日本は韓国と近いですが、初めて日本に来た時は外国ということで心配でした。家族からも心配されましたが、現時点では自分自身、日本にうまく適応できていると思います。

――日本語や日本文化には慣れましたか。

 ご飯がおいしいです。日本の友達といろいろな所に行って日本文化を学ぶことができましたし、韓国と違うところはありますが似ている点もあるので、すぐに慣れることができました。日本語でも簡単な会話や自分の意見を述べることはできるようになりましたが、まだまだ初心者レベルだと思っています。

――ホークスは強豪球団ですが、そのチーム名を冠するSHGでプレーすることにプレッシャーはありましたか。

 まずは自分やチームメイトのために責任感を持ってプレーすることを心掛けています。ホークスが有名な球団というのは知っていますが、SHG独特のプレッシャーはまだ気になったことがありません。

――ダッシャー選手は韓国と日本、両方の競技シーンを体感されています。違いや似ている点はどんな部分でしょうか。

 私がプレーするLoLで言うと、日本のチームは試合の後半に強みを発揮するチャンピオンを好む印象です。ただ、それでもバランスよくダメージが与えられる構成を重視している点は韓国に似ていると感じます。

――LoLに限らず、eスポーツでは数多くのタイトルで韓国出身の選手がトップシーンを席巻しています。その要因はどこにあると思いますか。

 韓国ではネットカフェでゲームをプレーする文化が浸透していて、年代を問わず非常に人気があります。子どもの頃からそうした環境にあることが、韓国全体のゲーマーのスキルを底上げし、才能を伸ばすのに役立っているのではないかと考えています。

――韓国では日本に比べてもお金が稼げるというイメージがあり、実際にLoLのプレーヤーだったFaker選手はかつて年俸3億円を手にしていたと言われています。韓国でプロゲーマーとはどのような存在なのでしょうか。

 韓国は日本よりプロゲーマーの知名度が高く、お金も稼げると思います。ただお金を稼げることだけが人気の理由ではありません。日本でプロ野球選手を夢見る子どもたちはお金が稼げるからあこがれているのではなく、野球が好きだから、その選手が好きだからプロを目指しているのだと思います。韓国でプロゲーマーを夢見る子どもたちはゲームが好き、プロゲーマーの人たちが好きだからプロを目指しています。だから韓国のプロゲーマーは日本でいうプロ野球選手と似た存在ではないかと思います。

――そうした環境の差があるなかで、日本の選手が世界のトップシーンへ入っていける可能性はあると思いますか。

 トップへたどり着くためには多くの労力と優れたコーチングが必要です。両方がそろったから絶対に強くなれるわけではありませんが、それらを兼ね備えれば可能性は十分にあると思います。

――韓国、あるいは世界のチームと比べたときに日本のLoLチームが優れている点や足りていない部分はありますか。

 世界最強のチームは、前半で得た優位性を後半も失わない試合運びがうまいです。一方、日本のチームは前半の有利を後半まで維持できないことが多く、後半に備える戦略を十分に生かしきれていない場面があると思います。

 日本チームのいい所は、相手の背後へ忍び込んでの奇襲をうまく使用していること。また相手と対面した状態での駆け引きが上手な選手が多いので、こうした日本独特の色を生かしていけば、面白くて競争力のあるリーグになると思います。

――ちなみに、ホークスで活躍した"先輩"とも言えるイ・デホ選手のことはご存知ですか。

 私のいとこが大の野球ファンで、幼い頃一緒にたくさん試合を観たり、キャッチボールをしていました。そのなかで釜山をホームとするロッテ・ジャイアンツをとても気に入っていましたし、当時ロッテに在籍していたイ・デホ選手のことも、とても尊敬していました。彼はすばらしい選手ですし、私はプロの野球選手ではありませんが、同じチームに所属できたことを誇りに思います。

――2021シーズン(※)のロースター(登録選手)がチームより発表されました。1月23日から始まる新シーズンに向けての抱負をお願いします。

※ LoLの日本公式プロリーグ『League of Legends Japan League(LJL)』は、「Spring Split」と「Summer Split」の2スプリット制で実施され、各スプリットの優勝チームはLoLの世界大会へ参加することができる。2021シーズンのSpring Split は、全8チームにより1月23日から3月6日まで開催される。

 コーチであるSweet、Squirtleの2人には、チームワークの面において大いに助けてもらっています。コーチングだけでなく、日々の生活からプロ意識について学ぶこともたくさんあります。他のチームメンバー、Zenit、Corporal、apaMEN、Tussleも前向きな選手たちで、プレー面でもメンタル面でも多くのことを吸収できています。新シーズンは、リーグ優勝を目指します!

【プロフィール】
DasheR(ダッシャー)
5月20日生まれ、韓国釜山出身。2012年に『League of Legends』に出会い、17年には韓国の2部リーグチーム「I Gaming Star」に加入。S7にはゲーム内の最高ランク「チャレンジャー」中、27位に到達。19年に日本チームの「Unsold Stuff Gaming」に所属し、その年のSpring Split(春季リーグ)にてALIENWARE BEST MID PLAY AWARDを受賞。20年に福岡ソフトバンクホークス ゲーミングに加入した。