出雲駅伝と全日本大学駅伝の出場経験はなし。今大会の出場校で最もキャリアに乏しいチームが、箱根路に"突風"を巻き起こした。4回目の出場で総合2位に入った創価大だ。箱根駅伝で総合2位の創価大。9区・石津佳晃(左)にタスキを渡す8区・永井大育(…

 出雲駅伝と全日本大学駅伝の出場経験はなし。今大会の出場校で最もキャリアに乏しいチームが、箱根路に"突風"を巻き起こした。4回目の出場で総合2位に入った創価大だ。



箱根駅伝で総合2位の創価大。9区・石津佳晃(左)にタスキを渡す8区・永井大育(右)

 前回は、2年ぶり3回目の出場で初のシード権獲得となる9位だった。1区の米満怜(現・コニカミノルタ)が区間歴代2位タイの記録を出す快走でチーム初の区間賞を奪うと、10区の嶋津雄大(当時2年)も区間記録を13年ぶりに更新する1時間8分40秒で区間賞を獲得。11位で走り出した嶋津は、最終的に7位争いをしていた早稲田大と駒澤大の背中が見える位置まで猛追した。

 就任1年目だった榎木和貴駅伝監督は大きな手ごたえを掴み、今季は「箱根で3位」という目標を掲げた。しかし、新型コロナウィルスの影響で、初出場となる予定だった出雲駅伝が中止になったこともあり、チームは実力を披露する場所がなかった。

 箱根駅伝エントリー上位10人の10000m平均タイムは13位(29分05秒37)。今回は2年連続シード権を目指すことになるかと思われたが、榎木監督は"トップ3"というターゲットを変えず、勝負に出た。

「メディアからすれば創価大はノーマークだったと思います。しかし私が監督に就任してから、チームは着実に変わってきました。夏合宿と秋の試合でも前年以上の成長が見られましたし、チームの目標に向かって選手たちがひたむきに努力してくれたと思います。このチームだったら目標を達成できると感じていましたし、私が自信をなくすと、選手にも影響します。私は『絶対にいける』という声掛けをしてきました」

 目標達成のために「往路は絶対に3位以内で走らないといけない」と考えた榎木監督は、攻撃的なオーダーを組んだ。

 11月21日の八王子ロングディスタンス10000mで、創価大日本人最高となる28分19秒26をマークした福田悠一(4年)を1区に、同レースを27分50秒43で走破したフィリップ・ムルワ(2年)を2区に配置してスタートダッシュを目論んでいた。3区の葛西潤(2年)と4区の嶋津雄大(3年)が踏ん張ることができれば、11月21日の「激坂最速王決定戦」の登りの部(13.5㎞)で、各校の"山候補"たちを抑えて優勝した三上雄太(3年)が担う5区で「3位以内」に入れるという計算だった。

 本番では、日本人エースの1区・福田がトップの法政大と15秒差の3位で好発進すると、2区のムルワで2位に浮上。3区の葛西は東海大にかわされるも、東京国際大を抜き去って2位をキープし、4区の嶋津は日本人トップの区間2位の走りでトップを奪った。

 一方、3強(駒澤大、青学大、東海大)はミスが目立った。駒澤大は序盤で出遅れ、青学大は3区の起用予定だった主将・神林勇太(4年)が戦線離脱。東海大は4区が区間19位のブレーキになった。有力校が苦戦したこともあり、創価大は4区終了時で後続に1分42秒の大差をつけた。

 さらに、学生駅伝初出場の三上が5区を快走。区間2位で山を駆け上がり、サプライズと言える往路初優勝を飾った。3強のクライマーたちは三上に近づくことができず、リードは2分14秒まで広がっていた。

「予定どおりに1区の福田と2区のムルワが流れを作ってくれました。3区と4区は"しのぐ区間"だと思っていたんですけど、この2区間で逆に押し上げてくれたのが大きかったですね。5区の三上にいい形でつなぐことができました。とにかく自分たちの走りに徹することができたのが、往路優勝の要因かなと思います」(榎木監督)

 翌日、創価大は朝8時ジャストに芦ノ湖をスタート。3強のうちで最も上位の3位だった駒澤大とは2分21秒差があった。6区と8区で駒澤大に詰め寄られるも、7区の原富慶季(4年)と9区の石津佳晃(4年)で引き離す。特に石津のパフォーマンスは、今回の創価大を象徴するものだった。

 今回9区を走った選手の中で、石津の10000m自己ベストは15番目(29分34秒46)だったが、7人の28分台ランナーを抑えて区間賞を獲得した。区間記録にあと13秒まで迫る区間歴代4位の好タイムで突っ走り、2位の駒澤大とのリードを3分19秒とした。

 しかし、最終10区で首位から陥落する。榎木監督は「2分あれば逃げ切れる」と読んでいたが、小野寺勇樹(3年)は区間20位と苦しみ、残り約2kmで駒澤大に大逆転を許した。それでも、4区途中から140km以上も首位を独走してきた創価大の"快走劇"は、見る者の心を揺さぶっただろう。

 前評判は高くなかったが、12月に実施した30秒時差スタートでの15km単独走では、前年チームの3番目のタイムを11人がクリア。前回1区で区間賞に輝いた米満怜のタイムも8人が上回った。

「"米満が8人もいるチーム"なので、みんな自信を持ってくれたと思います。私は『タイムで走るんじゃなくて人が走るんだ』ということを選手たちに言い聞かせてきました。相手が10000m27分台の選手だから勝てないのではなく、その場にいる選手が走るわけだから、自分の走りに徹すれば27分台の選手にも勝てるチャンスはあります。1~9区までの選手は、そういう走りをしてくれたと思います」(榎木監督)

 シューズの進化もあり、10000mの記録はかつてないほどに上がっている。その中で創価大は「自分で走る」ことを大切にしてきた。

「人の後ろについてタイムを出すのではなく、自分たちの力でレースを作ってタイムを出せるように指導してきました。失敗もありましたけど、どの試合でもチャレンジすることを忘れなかったことに成長があったのかなと思います」

"速さ"よりも"強さ"を求めてきた創価大の大躍進は、今後の箱根駅伝を変えるきっかけになるかもしれない。