スーパーエース・西田有志 がむしゃらバレーボールLIFE (17) バレーボール日本男子代表の若きエース、西田有志(ジェイテクトSTINGS)。これまでのバレー人生と現在の活動について追う人気連載の第17回は、昨年12月に行なわれた天皇杯に…

スーパーエース・西田有志 
がむしゃらバレーボールLIFE (17)

 バレーボール日本男子代表の若きエース、西田有志(ジェイテクトSTINGS)。これまでのバレー人生と現在の活動について追う人気連載の第17回は、昨年12月に行なわれた天皇杯について聞いた。



エース西田(中央)を中心に、天皇杯で初優勝を果たして喜ぶジェイテクトの選手たち

 昨年の天皇杯は、新型コロナウイルスの影響で予選ラウンドが中止になり、ファイナルラウンドのみが行なわれた。そのファイナルラウンドも準決勝までは無観客試合。「V.LEAGUE DIVISION1」の全チームと、各カテゴリーからの推薦による16チームが出場予定だったが、感染者が出た2チームが辞退するなど異例づくめの大会になった。

 そんな中で、西田有志を擁する昨シーズン王者のジェイテクトSTINGSは、順調に12月20日の決勝まで勝ち進んだ。ジェイテクトが天皇杯の決勝に進むのは、V1昇格1年目で出場した平成25年度の大会以来。当時はジェイテクトが勢いに乗って優勝するかと思われたが、東レ・アローズが長らくV1で戦うチームの意地を見せて優勝した。

 2度目の決勝の相手は、昨季のリーグファイナルと同じパナソニックパンサーズ。パナソニックのオポジット・大竹壱青は日本代表でオポジットのポジションを争う選手でもあるが、西田は「代表でのポジション争いという点は、まったく意識していませんでした」と振り返る。

「代表に招集されたらそこで競争すればいい。今はジェイテクトとして勝利することだけを考えていますからね。でも、決勝の大竹さんはすごく調子がよかったので苦しめられました」

 その言葉どおり、大竹は56.3%という高いスパイク決定率で18得点。サービスエースも4本決め、第2セットを終えてセットカウント1-1のシーソーゲームになった。しかし西田は、大竹を上回るスパイク決定率57.7%で得点を重ねて流れを引き寄せる。最終的にサービスエース4本、ブロック3本を含む37得点を挙げ、第3、第4セットを連取してチームを大会初優勝に導いた。



両チームトップの37得点を挙げた西田

 試合を終えたあとには、大竹と言葉を交わす場面も。「試合の話はしてないですよ。『お疲れさまです』くらいは言いましたけど、あとは雑談です」とのことだが、2人の笑顔が好試合を象徴していた。

 決勝は、人数制限(会場のキャパの50%)はあったものの有観客で行なわれたこともあり、西田はコートインタビューで「観客のみなさんと一緒に優勝できてうれしい」とコメントした。昨シーズンのファイナル決勝は無観客試合で、「ファンの方たちが見ている中でバレーボールができるのは、まったく当たり前ではない」と西田も自覚する中、優勝の喜びを分かち合えたことに感慨もひとしおだったようだ。

 今シーズンのジェイテクトは、コロナ禍で外国人選手の合流が遅れたこと、昨シーズン終盤にスタメンで活躍したセッターの中根聡太が引退したこともあり、10月の開幕からしばらくチームがフィットしていない印象があった。11月には西田が練習中に足を故障して欠場し、この連載の取材でも「もどかしい思いがありました」と話していたが、天皇杯決勝に向けて「自分もチームもピークを合わせることができた」と手ごたえを口にした。

「チームとしてクオリティーを上げられるところはたくさんあるので、まだ満足はできません。でも、そういった課題がだんだんと形として見えてきたことは、個人としてもチームとしてもいいことだと思います」

 セッターが変わったことについて、ジェイテクトの高橋慎治監督は「西田も最初は合わせるのが難しそうでしたが、天皇杯決勝には合わせてくれたと思います」と好評価。西田は、そこに至るまでのコミュニケーションの大切さを次のように話した。

「すべてAパス(セッターが動かずにトスアップできるサーブレシーブ)が上がって、いいリズムで打つことができたら簡単に勝てますが、それができないのがバレーボール。僕は、『100%でいいトスがほしい』わけではなく、『50%くらいをキープしてくれたら、あとはスパイカーが合わせる』と思っているので、その点をしっかり話し合うことができました。

 細かく『こうしてほしい』と要求するよりも、『ここらへんに、このくらいのスピードでトスを上げてくれればいい』というほうがセッターもやりやすいはず。僕も、どんなトスがきても決められる確率が高まっていくんじゃないかと思います。いろんな特徴があるセッターに合わせる"観察力"もスパイカーには求められると考えていますし、それをすり合わせるコミュニケーションは自分から取るようにしています」

 セッターとの関係だけでなく、チーム全体のまとまりも強まっている。それは、パナソニックの"支柱"で、世界選手権を連覇したポーランドの主将であるミハウ・クビアクに対するプレーからも感じられた。

 クビアクは身長192cmと海外のバレー選手としては小柄だが、卓越したテクニックを生かして攻守で活躍し、日本のバレーボールファンも一目置く存在。西田が高校生でVリーグデビューを果たした時には、余裕をもって"あしらわれた"感もあったが、今回の決勝ではクビアクの攻撃をブロックで止めたり、ワンタッチを取ったりする場面が多く見られた。

 西田はクビアクについて「世界のトッププレーヤーで、いろんな引き出しを持っていることはここ数年の対戦で十分にわかっています。自分がマッチアップしても全部を抑えられるわけじゃない」と力を認めつつ、「後ろのチームメイトに任せるために、攻撃の選択肢を確実にひとつ潰そうとした」と、チームで止めることを意識していたことを明かした。

 結果、クビアクをスパイク決定率42.3%、13得点と波に乗せなかった。西田は「ネット際のいろいろな駆け引きは楽しかったですけど、課題も明確に見えたので、そこは技術を向上させてカバーしないといけない」と気を引き締めたが、確実にチームの勝利を手繰り寄せた。

 もうひとつ、ジェイテクトの選手たちはこの決勝で「勝つ」という言葉をあまり口にしなかったという。それは、士気を上げなくていいということではなく、それぞれが"仕事"に集中するための意識づけだった。

「今季のリーグ戦でも、2セットを先取して『このまま勝とう』と思った時に逆転負けすることがあったように、(勝ち急ぐことは)不安材料にしかならない。だから、『自分たちがきっちり仕事をする』ことに集中しました。そう考えることがプレーの安定感、自信につながってチームがまとまり、勝利につながる。再開されるリーグでも継続してやっていけたらと思います」

 天皇杯のために中断していたリーグ戦は1月8日に再開される予定だったが、緊急事態宣言の再発令に合わせ、全カテゴリーで延期に。結果としてジェイテクトは、年明け最初の試合を再びパナソニックと戦うことになった(1月16日、17日)。

 ホームで迎え撃つパナソニックは、昨季のリーグファイナル、天皇杯の決勝のリベンジを果たすためにより状態を高めてくるだろう。西田やジェイテクトがそれにどう立ち向かうのか。その先、リーグの連覇に向けてどんな試合をしていくのかが楽しみだ。

(第18回につづく)