昨年10月13日に引退会見を行い、巨人一筋20年のプロ野球人生に幕を下ろした鈴木尚広氏。引退した事実を「じわじわと感じている」という中、積極的に野球教室やイベントに参加しながら「第2の人生」のスタートを切った。これまではプロ通算228盗塁を…

昨年10月13日に引退会見を行い、巨人一筋20年のプロ野球人生に幕を下ろした鈴木尚広氏。引退した事実を「じわじわと感じている」という中、積極的に野球教室やイベントに参加しながら「第2の人生」のスタートを切った。これまではプロ通算228盗塁を記録しながら伝えていった野球の魅力を、これからは自らの体験を語ることで伝えていきたいという。鈴木氏が思い描く「第2の人生」、そして自身の後継者として期待する若手選手へのアドバイスを語ってもらった。

■また「ゼロ」から積み重ね― 元G鈴木が語る人生の第2幕

 昨年10月13日に引退会見を行い、巨人一筋20年のプロ野球人生に幕を下ろした鈴木尚広氏。引退した事実を「じわじわと感じている」という中、積極的に野球教室やイベントに参加しながら「第2の人生」のスタートを切った。これまではプロ通算228盗塁を記録しながら伝えていった野球の魅力を、これからは自らの体験を語ることで伝えていきたいという。鈴木氏が思い描く「第2の人生」、そして自身の後継者として期待する若手選手へのアドバイスを語ってもらった。

――現役を引退し、野球のことを考えることが減ったのではないでしょうか。

「まだ考えてますよ。引退した今でも、常に野球のことを考えている。今度は、どうやって野球の面白さ、走塁の面白さを、人に伝えていったらいいのかなって。僕は若い頃に怪我を重ねて、30代になって怪我をしなくなった人間。これからは、そういったことも教えながら、走塁の魅力を伝えていきたいと思います」

――野球選手は30歳を超えてから怪我をすると苦労しますね。

「何で30代で怪我をするかといったら、20代で身体作りの積み重ねをしていないからですよ。年齢が上がってから肉体改造だっていっても、そこまでに積み上げたものがなければ身体が悲鳴を上げてしまう。急に変わるのは無理。急に得られることは、急に失われます。人それぞれに生き方はあると思うけど、僕は人生って結局は積み重ね、積み上げていくしかないなと」

――228盗塁も、日々試行錯誤を続けながら積み重ねた結果でした。

「僕はそこ(走塁)だけに時間を費やしてきたんで、今度はその経験を伝えていきたい。野球を見る時、ピッチャーとバッターの対戦という視点だけではなく、代走や代打が持つ魅力や可能性を知ると、見方が変わってくると思うんです。野球を楽しむ方法はたくさんある。僕らが新しい見方を発信することで、興味を持ってもらえたらいいですね」

■新シーズンの巨人で期待するのは…シゲちゃんこと重信慎之介

――例えば、2017年の巨人ではどの選手の走塁を見ると面白いでしょうか。一番足が速い選手は……。

「僕です(笑)。いやシゲちゃん(重信慎之介)ですね。彼がもっと踏み出せるようになったら、レギュラーでも取ってくれたら、動きのある攻撃が生まれてくると思います。

 足の速い選手はいっぱいいるんですよ。いい才能を持っていても、動かないと何も始まらない。もっと自分の魅力を知ってほしいです。打つことも大事だけど、プラス足の速さがあれば、すごい武器じゃないですか。みんな打撃と同じくらい走塁に対して意識を高く持ってくれれば、そこに動きが生まれる。

 今回の日本シリーズを見ても、両チームとも動きがあるんです。機動力が全て、というわけではないですけど、うまくバランスを取りながら、チームとして取り入れていくことは大切だと思います」

――昨季、広島がセ・リーグを独走した理由の一つに「機動力」が挙げられています。

「走塁に対して意識を高く持てば、足の速い選手は1つ先の塁に行くのは当たり前になる。常に2つ先に行けるかって考えられるようになると、新しい可能性が生まれますよね。広島には意識の高い選手が多かったんだと思います」

――脚力や走塁のセンスがあることは、選手として大きな魅力になります。

「自分の魅力、能力に気付いていない選手が多い。埋もれていて、本当にもったいない。若手選手は自分で気付くことが少ないから、周りが提案をして、意識付けする必要がありますね。監督やコーチから言われ続けたら、やらざるを得ないじゃないですか(笑)。最初は嫌々でもいい。とりあえず動き始めてみないと。動くから、そこに失敗があり、成功があり、学びがあり、経験があり、次につながっていく。0から何も生まれない。だから、動いてほしいんです。

 もちろん、走塁を身につけるには、失敗できる期間があった方がいい。だから、キャンプやオープン戦では、積極的に走る練習をしてほしいですね。開幕後にいきなり盗塁を決めてこいって言われても、なかなか難しい。地に足が付かない状態から、物事を冷静に見れるようになり、いい感覚で走れるようになるには、段階を踏まなければならない。どこで試すのかって言ったら、キャンプやオープン戦だと思うんです」

――早い段階で自分の持つ魅力に気付くためにも、子供たちに走塁の大切さを教えることも大事かもしれません。

「大事ですね。そうすれば、意識を高く持った状態でプロ入りできますから。野球教室や講習会で僕が求められるのは、やっぱり走塁を専門としてきたから。走塁の持つ魅力は広く伝えたいですね」

■“走塁のスペシャリスト”が考える「いい走者」の共通点とは…

――鈴木さんが考える「いい走者」の共通点は何でしょう。

「足が速いのは必須条件です。でも、足が速いだけではダメ。いいランナーは判断力に長けています」

――判断力、ですか。

「例えば、打球方向は走塁に大きく関わってくる。一言で“打球”って言っても、パワー系なのか、単打が多いのか、三振が多いのか、打者によって変わるし、ピッチャーが投げる球種によっても変わる。キャッチャーの構える場所でも、次に投げる球種は限られます。そういった情報を基に、どう判断するか。

 僕はいつも『この打者はバットをどういう風に構えているな』とか『このコースに行ったら、こう打つな』とか、そういった情報を自分なりに集めていました。情報が頭に入っていると、いいスタートが切りやすくなる。よく『打球で判断しろ』って言いますが、実は打った球に反応するのでは遅い。自分で仕入れた情報を基に、相手の守備位置を合わせて考えると、ある程度、打球が飛ぶ方向は絞られてくるんですよね。いいスタートが切れる確率が高まるわけです。

 自分で情報を持っていると、不安要素がなくなるし、落ち着いたプレーができるようになる。周りが見えるようになるんです。そうすると、一塁走者として目が投手の方を向いていても、後ろの動きが見えることがある。外野の守備位置をしっかり把握していれば、打球が飛んだ瞬間にどんな動きをするか分かるようになる。これは絶対に練習で培われていきます」

――走塁の魅力を世に広めていく役割。これからが楽しみですね。

「またイチから、いやゼロから作り上げていくわけですよね。そういった意味では、いろんな感情が入り交じってますけど、今までとは違った自分が成長することになる。野球選手としての成長は“第一幕”として終えたので、今度はその経験を人に伝えたり、野球界に還元しながら、自分の成長を感じていきたいです。最初からうまくいくなんて思ってません。これもまた積み重ねで」

――盗塁と同じですね。

「盗塁を積み上げた20年のように、これからも積み上げていければいいと思います。自分が動き出せば、その先には何か生まれるわけですから。野球界に関わらず、広くスポーツ界にも何かを還元できればいいなと思います」