記念すべき100回目の「花園」こと全国高校ラグビー大会が無事に閉幕した。  例年より12校多い過去最多63校が参加した今大会は、コロナ禍の影響により全試合無観客で実施。決勝戦は「東の横綱」桐蔭学園(神奈川)に、勝てば初優勝の京都成章…

 記念すべき100回目の「花園」こと全国高校ラグビー大会が無事に閉幕した。

 例年より12校多い過去最多63校が参加した今大会は、コロナ禍の影響により全試合無観客で実施。決勝戦は「東の横綱」桐蔭学園(神奈川)に、勝てば初優勝の京都成章(京都)が挑むカードとなった。



2年連続3度目の優勝を果たした桐蔭学園

 試合前半、2年連続3度目の優勝を狙う桐蔭学園は、「ピラニアタックル」と称される激しい守備が持ち味の京都成章に苦戦する。先にトライを奪うも追いつかれ、前半を10−10で折り返した。

 この試合、桐蔭学園のテーマは攻守にわたって「1センチでも前に出る」ことだった。桐蔭学園を率いる高校ラグビー界の名将・藤原秀之監督は、ハーフタイムで「自分たちのやることを明確にして楽しめ!」と選手たちに声をかけたという。

 主将としてチームを引っ張ったNo.8(ナンバーエイト)佐藤健次(3年)は、この時のことを試合後に振り返る。

「藤原先生、最後に『楽しんでこい』ってすごいなと思いました。しんどい試合でも楽しむ心を意識できた。(スクラムハーフを起点にした)9番からのアタックで前に出ていたので行けると思っていました」

 ハーフタイムで刺激を受けた桐蔭学園のフィフティーンは、後半一気に畳みかける。

 後半早々、日本トップクラスの前に出るディフェンスで京都成章のミスを誘ってFL(フランカー)粟飯原謙(3年)がトライ。その直後も左右にボールを動かしながら攻撃を継続し、LO(ロック)青木恵斗(3年)が縦に突いてWTB(ウィング)今野椋平(2年)のトライにつなげた。後半11分にペナルティゴール、後半18分にオフロードパスを3本つないだ華麗なトライも加え、32−10と勝負あり。

 今大会も桐蔭学園は伝統の「継続ラグビー」を展開したが、ただボールをつなぐだけではなかった。勝負どころではボールを左右に大きく動かしつつ、相手に隙ができるとFWとBKが一体となってオフロードパスで縦につなぎ、さらにはグラバーキックをうまく使うなど、進化したスタイルを見せた。

 後半終了間際、京都成章にトライを1本返されたところでノーサイドの笛が鳴り、桐蔭学園が見事に連覇を達成した。桐蔭学園の勝因は、1試合平均41、3点を奪った攻撃力だけでなく、6試合で平均7.3失点に抑えた守備力も見逃してはならないだろう。

「率直にうれしいです! 自分たちの代でもう1回単独優勝したいと思っていたので、連覇のプレッシャーは感じませんでした」

 主将として有終の美を飾った佐藤は試合後、満面の笑みを見せた。

 花園の連覇は、第89回〜第91回に3連覇を達成した東福岡(福岡)以来9校目。東日本勢としては、第73回・第74回で優勝した神奈川の相模台工業(現・神奈川総合産業)以来の快挙だった。

 新型コロナウイルスの影響で、高校ラグビーは試合のできない状況が続いた。春の選抜大会、GWの交流大会「サニックスワールドユース」、6月のブロック大会、7人制ラグビーの「アシックスカップ」、そして10月の国体と、多くの大会が中止となって試合経験を重ねることができなかった。

 神奈川予選決勝、桐蔭学園は東海大相模相手に苦戦を強いられ、19−17の辛勝で花園出場を決めた。この試合を見るかぎり、花園での連覇は厳しいのでは......と思わざるを得なかった。

 そこで藤原監督は、主力である佐藤と青木に「ふたりが目立つ試合になるとしんどくなる。今大会は意識を変えて周りを活かしてほしい」と説いたという。

 さらに花園に入ると、予選決勝では2年生を起用したハーフ団を、3年生のSH(スクラムハーフ)伊藤光希、SO(スタンドオフ)中優人に変更。3年生の榎本拓真&秋濱悠太のCTBコンビと、WTB松田怜大&FB(フルバック)矢崎由高の1年生コンビの起用もピタリとハマった。

 結果、桐蔭学園は試合を重ねるごとに調子を上げていき、そのまま頂点に立った。佐藤主将は「花園期間中に成長し続けることができました。3年生のBKが(チームを)まとめてくれた」と感謝した。

 チームでNo.8を務める佐藤は横浜RS(ラグビースクール)での中学生時代、FWではなくエースWTBだった。当時から突出した身体能力で全国的に知られており、群馬・高崎RS時代(佐藤は小学校まで高崎に住んでいた)の先輩にあたるHO(フッカー)堀越康介(サントリー/日本代表)らがプレーしていた桐蔭学園に「憧れて」高校の進学を決める。

 桐蔭学園に入ると、突破力を活かしてWTBからNo.8に転向。100名ほど部員がいる強豪で唯一、1年生ながらスタメンの座を確保して花園準優勝に貢献した。

 2年になると、突破だけでなくタックルにも磨きがかかり、U17日本代表に選ばれて主将も経験。1年先輩のSO/CTB伊藤大祐(早稲田大)らとともに中軸のひとりとして活躍し、桐蔭学園初の花園単独優勝を含む「高校3冠」を成し遂げた。

 桐蔭学園で過ごした3年間を振り返って、佐藤は「自分が一番成長できたと思います!」と胸を張った。4月からは「大きい選手ではないので、自分のプレースタイルに合っている大学かなと思いました。(桐蔭学園の先輩である小西)泰聖さん(2年)や(伊藤)大祐さんと一緒にプレーしたかった」と早稲田大学への進学を決めた。

 身長177cm体重94kgの体格は、世界レベルで戦っていくには本人も「背丈がない」と自覚している。日本の高校生相手には負けなしだったが、今後は「FLやHOという選択肢もある。大学にいって自分の色を出せるポジションを探し、日本代表や世界レベルの選手になりたい」と目を輝かせた。

 桐蔭学園ラグビー部は毎年、漢字一文字をスローガンに掲げることが恒例となっている。今季は「昨年度の優勝したチームと比べられることも多くなると思って、先輩をマネるのではなく、自分たちのスタイルを貫くという意味を込めた」という佐藤主将の言葉どおり、「貫」だった。

 花園決勝では、桐蔭学園のスタイルを貫くことで連覇を飾った。佐藤には桐蔭学園での経験を糧に、早稲田大で新たな強みを見つけ、それを貫くことで、桜のジャージーまで駆け上がってほしい。