2019年をもってツアープロから退き、現在はテレビ解説やコースセッティングなどで活躍する諸見里しのぶ。インタビュー後編では今後注目すべき選手たち、そして渋野日向子について話を聞いた。若手の才能も高く評価する諸見里しのぶ――2020年の女子…

 2019年をもってツアープロから退き、現在はテレビ解説やコースセッティングなどで活躍する諸見里しのぶ。インタビュー後編では今後注目すべき選手たち、そして渋野日向子について話を聞いた。



若手の才能も高く評価する諸見里しのぶ

――2020年の女子ツアーは若い世代の活躍が目立ちました。プレーを見てどう思いますか。

 昨年は"黄金世代"や"プラチナ世代"、さらにその下の"新世紀世代"の活躍が目立ちましたね。とにかく今の若い子たちは見ていてすごく楽しい。6月の「アース・モンダミンカップ」で渡邉彩香さんの復活優勝もすごかったですが、そこから笹生優花さんが「NEC軽井沢72」と「ニトリレディス」で連続優勝したときは衝撃でした。特にNECの最終日、16番パー5で、セカンドを6番アイアン(残り195ヤード)で打って、2.5メートルにつけたプレーにはみんな驚いたと思います。

――笹生さんはパワーが印象的ですよね。

 笹生さんの圧倒的なパワーは体の強さから来るものですが、アプローチの技術もあります。アマチュアの頃から様々な国でプレー経験があるので、対応能力が高い。あとは決断するのもとにかく早いですね。

――ほかにはどんな選手のプレーが印象に残っていますか?

 2020年に3勝した古江彩佳さんは、試合に出るたびに上位に食い込んで、プレーもすごく楽しそう。自信もついている印象を受けました。1勝した西村優菜さんも、当初は苦しい幕開けだったのですが、勝つためには何が必要なのかを試合ごとに吸収し、経験値が増えてレベルが上がっていると感じます。原英莉花さんのメジャー2勝(日本女子オープン、JLPGAツアーチャンピオンシップリコーカップ)もすばらしかった。それを見たほかの選手たちも「私もできる」と思うはず。さらにレベルアップしてくる選手が増えると思います。

――今の若い選手たちには、強みや個性があると感じますか。

 そう思います。古江さんは淡々としたプレーをするのが特徴で、小技がうまく、ボギーを打たないゴルフを身上としていますよね。西村さんは、体格は小さいですが、体をうまく使ったスイングで飛距離もそれなりに稼ぎますし、全体的に引き出しが多いと思います。原さんは"飛ばし"という武器をうまく使っています。リコーカップの時には、ロングホールでしっかりバーディーを取っていて、強みを活かしたコースマネジメントができているなと感じました。それにしても若い選手たちはみんな仲がいいですよね。

――優勝した瞬間は、仲のいいプロが水を掛け合ったりしていますよね。

 誰かが優勝した次の日には、同期プロが集まって、お祝いの食事をしているそうです。私の場合は、ほかの選手よりも1時間でも多く練習してやろうと思っていて、同期でご飯に行くことはありませんでした。当時は同期の(上田)桃子をはじめ、不動裕理さんや古閑美保さんなど強い先輩がたくさんいたので、勝つためにはどうすればいいかずっと考えていました。私は特に負けず嫌いだったんだと思います(笑)。

――メジャー優勝者だと永峰咲希選手も日本女子プロゴルフ選手権でようやく2勝目を手に入れました。

 実は彼女がプロデビューした年に一緒に回ってるんです。すごく印象的なのはドライバーショット。40ヤード近く置いて行かれたことがあったんです。あとはロングアイアンのキレのよさがとても印象に残っています。期待されながらもなかなか勝てず、2018年のフジサンケイクラシックで初優勝して、2勝目がメジャーだったことはとても立派です。もともとポテンシャルはありましたし、2020年に入ってショットの安定性に磨きがかかっていたのが優勝の要因かなと思います。

――先日、全米女子オープンで渋野日向子選手が4位と優勝を逃しました。2020年の渋野選手をどのように見ていましたか?

 渋野日向子さんは、2020年は"不調"と言われていましたが、米ツアーに参戦してからは色んなアプローチの技を習得しているなと思いました。2020年の前半はスイングを変えたり、パッティングスタイルを変えたりしながら、模索を続けていたと思います。更に強くなるためには必要なことで、今は進化する過程だと思います。私はすぐに成績ばかり求めるのもおかしいと思っています。

――この先の成長を考えれば、焦るべきではないということですね。

 渋野さんは「海外でグランドスラムを達成したい」と言っていますから、そこに挑戦するためには、今どうするべきかを考えているはずです。選手にとっては2~3年の土台作りが非常に重要です。即効性のあるものを取り入れて成績を上げるのか、2~3年後に目標に近づけるようにするのか、それは選手の覚悟次第だと思います。もちろん成績が出ないのは苦しいですが、彼女の米ツアーの戦いぶりを見ていると、本当に楽しそうでした。アプローチの技術を見ていても、吸収力も早い。そこはとても優れていると思います。

――それでも世間もメディアも、渋野選手に勝利を求める傾向がありますよね。諸見里さんも当時は周囲の声に苦労されたと思います。

 強い選手だからこそ、20位以内にいても「スランプだ」とか「なぜ勝てないのか」と言われるんです。でもそれは光栄なことだし、しょうがない部分もあるかもしれません。それこそ"宿命"ですよね。それをわかったうえで、自分の気持ちの切り替え方や集中力を高める方法を考えたほうがいいと思います。2カ月の米ツアー遠征から戻ったあとの日本ツアーで、大王製紙エリエールレディスで5位、JLPGAツアーチャンピオンシップリコーカップで3位タイといい結果を残していましたし、そのあとの全米女子オープンで4位ですから、静かに彼女の成長を見守りたいなという気持ちです。

――渋野選手以外の若手の台頭も楽しみですね。

 もちろんです。2020年の全米女子オープンに出場した選手たち(渋野含め19人)は、経験を基に今年はさらにレベルアップしてくると思います。だから私も生半可な気持ちで解説したらいけないんですよ。

――2021年はどのような活動を計画していますか?

 まずは3月のダイキンオーキッドレディスに出場する準備をしています。実は第一線を退いた今の方が"自信だけ"はあります(笑)。飛距離がかなり落ちているので、この3カ月でしっかりトレーニングをして飛距離を伸ばしたいですね。もちろん、コースセッティングや解説も続けながら、色んなことに挑戦して、「これだ!」と思えるもの、やりたいことを見つけていきたいです。

【Profile】
諸見里しのぶ(もろみざと・しのぶ)
1986年7月16日生まれ、沖縄県出身。9歳でゴルフを始めジュニア時代から頭角を現す。19歳でプロテストに合格し翌年初優勝を飾る。2009年には年間6勝を挙げる活躍を見せる。19年をもってツアープロから退いた