やや暗くなった秩父宮ラグビー場の電光掲示板に、「15−41」という絶望的な数字が揺れる。すでに雌雄は決していたが、それでも8番を背負ったキャプテンの箸本龍雅(4年)を中心に、紫紺のジャージーは最後まであきらめることはなかった。果敢に突破を…

 やや暗くなった秩父宮ラグビー場の電光掲示板に、「15−41」という絶望的な数字が揺れる。すでに雌雄は決していたが、それでも8番を背負ったキャプテンの箸本龍雅(4年)を中心に、紫紺のジャージーは最後まであきらめることはなかった。



果敢に突破を狙う明治大の箸本龍雅

 57回目を迎えたラグビー大学選手権の準決勝。1月2日、王座奪還を狙う明治大(関東対抗戦1位)は関西大学Aリーグ5連覇中の天理大(関西1位)と対戦した。明治大が22−17で勝利して優勝した、2シーズン前の大学選手権・決勝の再戦だった。

 2人、3人と天理の徹底的なマークにあいながらも、箸本は磨いてきたステップで前に出続けた。ロスタイム、相手ボールのスクラムにプレッシャーをかけて反則を誘っても、迷わずスクラムを選択。最後までトライを狙いにいった。

「明治の前に出る気持ちがスクラムに出ました。FWというよりチーム全体の選択で、絶対に前に出て押してやろうと」(箸本)

 だが、最後のアタックも天理大の前にノックオン......。4年連続の決勝進出を狙った明治大の今シーズンは終戦を迎えた。

 悔し涙を流す4年生が多いなか、キャプテンの箸本は気丈にも目を赤くすることもなく、達観したような、満足したような表情を見せていた。

「(試合後の表情について)4年間を振り返って、明治でグラウンドに立たせてもらい、本当に自分を成長させてもらえた環境に身を置かせてもらって、感謝という気持ちが強かった。やっぱりキャプテンなので、応援してくれたみなさんにそういう(泣き)顔を見せたくなかったというか、最後まで自分らしさを貫くことを意識していました」(箸本)

 紫紺のジャージーに感謝する気持ちと、最後までキャプテンらしく、威風堂々、涙を流すことなく、チームを代表して気丈にグラウンドの上に立ち続けた。

 今シーズンの明治大は対抗戦で慶應義塾大に苦杯(12−13)を舐めたが、早稲田大との「早明戦」で一番の出来(34−14)を見せて、22年ぶりに対抗戦での連覇を達成。大学選手権でも優勝候補の筆頭と予想されていた。

 しかし、12月19日に行なわれた準々決勝の日本大(リーグ戦3位)戦は34−7で勝利したものの、決していい内容ではなかった。箸本は準決勝に向けて「(日本大戦は)モチベーションを上げるのが難しかった。練習からうまくいっていなかったのに、試合でうまくいくわけがない」と気を引き締めた。

 その檄もあってか、選手たちは練習から集中力を持って取り組むようになったという。コロナ禍で寮のある東京・八幡山から電車に乗ってでかけない生活を続けてきたが、クリスマスイブにはプレゼント交換をし、コロナで簡略化したが恒例の餅つきも行なうなど、適度にリフレッシュして準決勝を迎えた。

「明治大から仕掛けていきたい」

 箸本は腕を撫して天理大戦に臨んだが、キックオフ直後、いきなり相手にボールをキープされて先制トライを許す。それでも、明治大は副将LO(ロック)片倉康瑛(4年)を中心にラインアウトでプレッシャーをかけて、敵陣に入るとボールを積極的に動かして24分には5−5の同点に追いついた。

 しかし、前半残り10分と後半最初の10分の計20分、明治大は天理大にモメンタム(勢い)を渡してしまう。SH(スクラムハーフ)藤原忍、SO(スタンドオフ)松永拓朗、そしてサンウルブズでも活躍したCTB(センター)シオサイア・フィフィタ(いずれも4年)を擁する天理大自慢のアタックを止めることができなかった。

 天理大は藤原がテンポよく素早くボールをさばくため、明治大はディフェンスをセットできずにプレッシャーを与えることができなかった。どうにか止めようと接点でファイトするも、逆にペナルティを犯してしまう負の連鎖に陥ってしまった。この20分間に4トライを失って5−31となり、試合の趨勢は天理大に大きく傾くことになる。

 ただ、残り30分。まだ時間はある。明治大はディフェンスを修正したことで攻撃に転じることができ、意地の2トライを重ねた。しかし、15−31となった後半33分、最も警戒していたフィフィタに突破を許し、最後はWTB(ウィング)土橋源之助(4年)にトライを献上して万事休す......。

「ひと言で言うと、完敗です。天理大さんがすべてにおいて強かった」

 明治大の田中澄憲監督が肩を落としたように、2シーズン前のリベンジ、そして初の大学選手権優勝に燃える天理大の波に飲まれての敗戦となった。

 ただ、母校に関わって4年目の田中監督は、選手たちへの労いの言葉を続ける。

「試合は決まっていたかもしれないが、明治大も最後にスクラム、モールと、自分たちがやってきたことにチャレンジしてくれたことを誇りに思います。今季はいろんな大変な状況のなか、よくがんばってくれた。学生たちには今季のような経験をこれからどう活かしてくれるか期待したい」

 ケガを抱えた副将SO山沢京平(4年)に替わり、本来の12番ではなく10番を背負ったBKリーダーの森勇登(4年)は、「悔しいという気持ちが一番強い。ただ、最後まで自分のプレーはしっかり出し切れたと思うので、そこには悔いはない」とキッパリと言った。

 キャプテンの箸本も「最後まで戦う姿勢をやり切れた」と語る。その一方で、キャプテンとしてチームを優勝に導くことができず、「リーダーとして自分がもっともっと詰められる部分、もっともっと引っ張れる部分(があったかもしれない)。まだまだ自分の未熟さを感じています」と悔しさも述べた。

 明治大は4シーズン連続となる決勝進出こそ逃したものの、2016年度の大学選手権では初戦敗退(3回戦)だった。その悔しさをバネに、田中監督の入閣後、箸本ら今の4年生が明治に入学した2017年から徐々に上昇曲線を描いていった。チームに「勝つ文化」や自分たちで考えて行動する「主体性」が定着しつつあることも、また確かだ。

 今シーズンは多くの1年生がデビューし、準決勝のメンバーは23人中15人が3年生以下だった。来シーズンは今大会での経験や敗戦の悔しさを糧に、より進化した紫紺の軍団の勇姿を目にすることができるはずだ。