2020年12月31日にさいたまスーパーアリーナで開催されたRIZIN.26。1年を締めくくる大会にふさわしい好試合が続出したなかで、メインカードの朝倉海と堀口恭司によるバンタム級タイトルマッチは、日本中に大きな感動を与えた。 両者は昨年…

 2020年12月31日にさいたまスーパーアリーナで開催されたRIZIN.26。1年を締めくくる大会にふさわしい好試合が続出したなかで、メインカードの朝倉海と堀口恭司によるバンタム級タイトルマッチは、日本中に大きな感動を与えた。

 両者は昨年8月にも対戦し、朝倉が1回1分8秒でKO勝利。しかし今回は、右膝の大ケガから復帰した堀口が1回2分48秒の劇的KOでリベンジを果たした。この試合の勝敗を分けたポイントはどこなのか。2000年代にPRIDEなど総合格闘技の世界で活躍した大山峻護氏に、大会を振り返ってもらった。

――まず、朝倉vs堀口戦を見た率直な感想を教えてください。

「コロナ禍でネガティブな気持ちになってしまった人が多い中で、今の格闘技界にできる最高のカードを見せることができたのは、とても大きな意味があったと思います。格闘技が多くの人に勇気や力を与えられることを教えてくれた試合でした」



昨年12月31日の堀口vs朝倉について語った大山氏 photo by Segawa Taisuke

――2019年8月以来の再戦に臨む2人のメンタル面について、大山さんはどのように見ていましたか?

「2人とも最高の状態だったのではないかと思います。まず朝倉海選手は、前回の堀口戦のあとに『まぐれじゃないか』という声も聞こえてきた中で、それ以降も実力者を次々と倒して強さを証明しました。試合を重ねるごとに自信を深め、最高の状態を作っていたのではないかと思います。

 一方で堀口選手は、前回の敗戦時のインタビューで『よかったんじゃないですか。これでまたイチから強くなろうって感じです』と発言したのを聞いた時から、『常人のメンタルではないな』と思っていました。それまで積み上げたものを、当時は"期待のホープ"という印象だった朝倉選手に奪われる屈辱を味わったあとに、飄々(ひょうひょう)と、他人事のように受け答えができるタフさ。普通の選手にはできないですよ」

――今回の試合に向けても、気負うような様子は見られませんでしたね。

「今回の対戦が決まった時のインタビューでも、『負けてしまったものは仕方ないので、やり返します』と淡々と答えていましたが、これは無理をして言っているわけではなく、自然と出た言葉だと感じました。彼の揺るがないメンタルは、例えば、野球のイチロー選手などのような超一流選手に匹敵するレベルだと思います」

――今回の試合内容についてですが、距離の探り合いの中で、堀口選手はカーフキックを多用しました。この展開は予想していましたか?

「堀口選手は距離を詰めてテイクダウンを奪いにいくのかな、と思っていました。彼の頭の中にはその戦略もあったようですが、カーフ(すね)へのローキックを狙い、じわじわと圧をかけていった。試合後のインタビューで、『リング上で朝倉選手と対峙した時に変えた』と言っていましたが、これはすごいこと。いくつか戦略は用意していたでしょうけど、その場で変更できるのは一流選手の為せる業です。

 心配されたケガの影響もまったく感じなかったですね。カーフキックもしっかり踏み込んでいましたし、フィジカル面の調整も見事としか言いようがありません」

――これまでの試合とは違う戦い方だったのでしょうか?

「まったく違う戦い方でしたね。それまでの堀口選手は、距離を取りながらリング全体を使い、相手の隙を見て一気に踏み込んで力強いパンチを当てにいく戦い方をしていました。しかし今回はカーフキックを使う戦略で、堀口選手陣営は予想以上に手応えを感じながら試合を進められたはず。一方で、朝倉選手にとっては予想外の攻撃だったのでしょうし、パニックになってしまったように見えました」

――試合の中で想定外のことに対処するのは、やはり難しいものなんですね。

「人は"想定内"の時は安心していられます。朝倉選手も堀口選手もたくさんの引き出しを持った選手なので、多くのことを想定して試合に挑んでいると思いますが、今回は堀口選手が一枚上手だったのでしょう。堀口選手が想像を超えた戦略をとったため、朝倉選手のメンタルがグラつき、そこを堀口選手が一気に突いた形になりました」

――ファーストコンタクトとなった堀口選手のカーフキックで朝倉選手はバランスを崩しましたが、そこが大きな勝敗の分かれ目だったということでしょうか?

「間違いなくあの時点で手応えを感じたと思います。堀口選手には、アメリカン・トップチームという世界最高峰のチームがバックにいますからね。彼らが練った戦略はすごいですよ」

――見事なKO勝ちでしたが、試合後の堀口選手がセコンドに向かって「Easy Fight」と叫んだことには賛否両論があるようです。

「嬉しさの裏返しだと思いますよ。また、僕が感じた堀口選手の強さのひとつが、試合後の『みんなに喜んでもらいたかった』という発言です。アスリートは、ついつい自分さえよければいいと思ってしまうものですが、それを超えた目標設定ができる選手は強い。堀口選手は戦略も目標設定も完璧だったと思います。

 朝倉選手も、兄の未来選手とチームを組んで戦いましたが、堀口選手陣営のほうが上でした。しかも今回、(アメリカを拠点とする)堀口選手は日本に帰国してから2週間の隔離もあったはずです。朝倉選手にも言えることですが、これまでと同じような準備ができない中でフィジカルとメンタルを整え、圧巻のパフォーマンスを見せたことは本当にすごいですよ」


「Bellator」と「UFC」の2団体王者だった堀口

 photo by AP/AFLO

――さらに堀口選手は試合後のインタビューで、一昨年の11月に返上した「Bellator」の世界バンタム級王座の奪還や、UFCへの再チャレンジについても言及しました。

「堀口選手のように、『日本の最高傑作』と呼ばれる選手が世界に出てその実力を見せてくれるのは、ファンとしては嬉しい限りですよね」

――負けた朝倉選手も、試合後にはさっそく『リベンジしたい』と話しています。

「27歳でこれだけの経験値を積んだ彼が、今後どう成長していくか楽しみです。アスリートは、どれだけ"ストーリー"に共感してもらえるかが大切ですが、朝倉兄弟はすでにそのストーリーを持っていますよね。兄と共に名古屋から出てきた"荒くれ者"が世界のトップに勝って成り上がったものの、リベンジを許した。そんな朝倉選手が、これからどんな新しいストーリーを生み出すのか。多くのファンが楽しみにしているでしょう」

――次回のRIZINは、3月14日に東京ドームで開催することが発表されました。

「堀口選手が最後のマイクアピールで『頑張っていればいいことがある』と口にしましたが、堀口選手と朝倉選手から大きなパワーをもらいました。3月の大会も含め、2021年もRIZINから目が離せませんね」

■大山峻護(おおやま・しゅんご)
1974年生まれ、栃木県出身。5歳から始めた柔道で実業団でも活躍し、2001年にプロデビュー。PRIDE初参戦でヴァンダレイ・シウバと対戦し、その後、両目網膜剥離で長期の欠場を余儀なくされたが、復帰戦でヘンゾ・グレイシーを判定で破る。2014年に現役を引退後、企業向けの人材育成サービスを手がける「エーワルド」を設立。格闘技とフィットネスを融合したプログラム「ファイトネス」で、心と体の健康を増進するための企業研修を行なう。