知られざる実業団陸上の現実~駅伝&個人の闘いSGホールディングス(1) SGホールディングスグループ陸上競技部(以下SGH)は、1987年に佐川急便陸上競技部として誕生した。滋賀県守山市をホームとして活動し、2019年の関西実業団対抗駅伝競…

知られざる実業団陸上の現実~駅伝&個人の闘い
SGホールディングス(1)

 SGホールディングスグループ陸上競技部(以下SGH)は、1987年に佐川急便陸上競技部として誕生した。滋賀県守山市をホームとして活動し、2019年の関西実業団対抗駅伝競走大会では、2年ぶり7回目の優勝を果たすなど、関西の強豪チームとして名が高い。その実力はもちろん、ここ最近注目を集めているのが学生トップクラスの選手の獲得である。

 2019年は鈴木勝彦(城西大)、竹下凱(帝京大)、三上嵩斗(東海大)、湯澤舜(東海大)、橋詰大慧(青学大)の5名。2020年は、阪口竜平(東海大)、關颯人(東海大)、鈴木塁人(青学大)、平田幸四郎(帝京大)の4名。2年間で9名を獲得したが、その多くが箱根駅伝など3大学生駅伝を走り、学生長距離界で活躍してきた選手である。

「強い選手が入ってきて、ここ2年でチームカラーがガラリと変わりました」



塩見雄介監督代行の積極的なスカウティングでチーム強化に励むSGH

 そう笑みを見せるのが、塩見雄介監督代行である。ほかの実業団から嫉妬の声が聞こえてきそうなスカウティングだが、チームとしてどういう意図があったのだろうか。

「ここ数年、ニューイヤー駅伝の順位が低迷していて、なんとか巻き返しを図ろうということで、個はもちろん、駅伝に強い選手を獲得しようと動き出しました」

 2018年のニューイヤー駅伝は34位、2019年が33位、そして2020年は22位だった。選手の加入により、順位は上がってきている。今年はさらなる飛躍が期待されるが、ここ数年、スカウティングはどのように行なわれたのだろうか。

「すでに記録を出しているトップクラスの選手はもちろんですが、高校や大学で伸びしろを秘めている選手を自分の目で見極め、勧誘してきました。その際、重視するのはフォーム。クセのない選手はケガをしにくいですし、伸びる可能性があります」

 塩見監督代行の地道なスカウティング活動が実を結び、次々とトップクラスの選手獲得に成功した。いったい秘訣はどこにあるのだろうか。

「私の魅力と言いたいところですが(笑)。特別なことはしていなくて、とにかく足しげく通い、監督や選手と話をして何を求めているのかを聞き、チームの運営方針とすり合わせします。それに対し、フレキシブルに対応できるのがウチの強みかもしれません」

 こうしたスカウティング活動に欠かせないのが、西川雄一朗コーチだ。2018年にSGHのマネージャーとして入社。東海大時代は主務を務め、両角速監督とスカウティング活動をすることもあり、他チームの選手と交流が多かった。塩見監督代行も「西川の存在は大きいですね」と、語る。

「西川は年齢的にも選手との距離が近い。私にはなかなか入らない情報とか、私が選手につつけないところを聞き出してくれることがあるので、それはすごく助かっています」

 SGHは現在、滋賀と東京を拠点に活動している。東京で活動しているのは、佐藤(悠基)、橋詰、三上、關、鈴木塁人の5名だ。いずれも青学大と東海大の卒業生だが、滋賀と東京でどういう振り分けをしているのだろうか。

「彼らはそれぞれフィジカルコーチなど付き合いがあり、たとえば鈴木はそこを生命線のように大事にしています。拠点を2つにしたのは、今までのものをなしにして新しく滋賀でやるよりも、今までやってきたノウハウを生かして自分の力を伸ばしてほしいからです」

 実業団チームには、登録は地方ながら東京に拠点を置いて活動しているところがいくつかある。選手のニーズが多様化し、チームもそれに応えるべく、活動スタイルも変わりつつあるようだ。

 SGHには優秀なランナーが次々に入社してきているが、今後、全員が成長曲線を描けるかどうかはわからない。実業団で伸びる選手、伸び悩む選手の差はどこにあるのだろうか。

「大事なのは実業団に入って、自分がどうなりたいかを明確に持っていないと厳しい。目的意識が明確な選手は伸びていきますね。学生は、箱根を目指して練習するから強くなるけど、それが終わると明確な目標がないまま実業団に入る選手が多い。そうなると伸び悩んでしまう。正直、箱根を超えるようなレースは実業団にはないですから」

 そして塩見監督代行はこう続ける。

「箱根駅伝はドラマがあるから感動するんです。でも、ニューイヤーは勝負のままで終わってしまうので、そこに感動がないんです。やっぱり多くの人に見てもらうためには、それだけの魅力、ドラマ性を見出していかないと難しい。それがレース場所なのか、メディアの扱いなのか......ただ、箱根を走った選手がそのまま出場するので、ものすごく地味になった感じはないと思うんです。しかもレベルは実業団のほうが圧倒的に高い。箱根から実業団にうまく結びつけて盛り上げていかないと、今後が心配ですね」

 箱根上がりの選手は、1500mから1万mの中長距離が主戦場になる。この種目もマラソンや100mなどの短距離と比べると、注目度は高くない。

「私が思うに、良くも悪くも同じレベルの選手が多すぎることだと思います。大迫(傑)選手のように突き抜けると注目され、スター選手になっていくと思うんですが、今はレベルは上がったけど飛び抜けた選手がいなくて、その層が厚くなって渋滞している感じです」

 SGHのチーム目標は、駅伝の上位入賞とともに、世界で戦える選手を輩出していくことだ。世界で戦える選手については、この2年間の補強でようやく道筋が見えてきた感があるが、駅伝の上位入賞は2021年のレースから現実的な目標になる。

「今年の目標は3位以内です。ウチの最高位は7位ですが、もう20年も前のこと。簡単ではないですが、目指せるだけの戦力は揃っていますし、選手が力を発揮すれば十分可能だと思います。意識するのは住友電工さんですね。選手の傾向も近いし、チームカラーも少し似ているので」

 全7区間で選手それぞれがすばらしい走りを見せれば、3位以内はもちろん、優勝争いも可能だろう。目標を達成し、彼らが成長し続けられれば、近い将来SGHの「黄金時代」がやってきそうだ。