12月26日、全日本フィギュアでフリー演技をする宇野昌磨 12月26日、全日本フィギュアスケート選手権男子フリー。宇野昌磨は前半の4回転トーループが3回転になり、後半の4回転トーループ後に急遽入れた4回転トーループは着氷で手をついてしまうミ…



12月26日、全日本フィギュアでフリー演技をする宇野昌磨

 12月26日、全日本フィギュアスケート選手権男子フリー。宇野昌磨は前半の4回転トーループが3回転になり、後半の4回転トーループ後に急遽入れた4回転トーループは着氷で手をついてしまうミスがあった。しかし、滑り終わった瞬間に満面の笑顔で両手を突き上げてガッツポーズをした。その理由を笑顔でこう説明した。

「単純にうれしかったんです。4回転トーループをパンクしてしまったけれど、何かそこからは逆にすごく楽しめた」

 全日本の宇野の姿で際立っていたのは、楽しそうな表情だった。スイスを拠点にしていたためグランプリ(GP)シリーズはフランス大会の出場を予定していたが、新型コロナウイルス蔓延で大会が中止に。結局、全日本選手権がシーズン初戦となった。

「これまでの僕は目の前の試合を目標にして、そこで得た技術的な課題を次の試合に向けて克服しようという気持ちでやってきていました。でも、今年は1年くらい試合がなくて目標も明確にはならず、試合を予定しても『なくなってしまうのではないか』という中で練習をしていた。自分の練習に目標も見つけられず、不安を感じながら練習をしていた時期もありました。それでもステファン(・ランビエール)コーチという存在に恵まれてスケートを楽しむことを考えて。僕が今までやってきたご褒美だと思って楽しむことも必要だな、と練習をしてきました」

 こう話す宇野にとって今回の全日本は、試合に出られる楽しさを久しぶりに味わえる大会だった。前日のSPは最初の4回転フリップは3.93点の高い加点を取るジャンプだったが、次の4回転トーループは転倒。結果は94.22点で3位になり、こう振り返った。

「あのジャンプ(4回転トーループ)は練習でも不安があった。思い切りいって跳べる踏み切りにはできたけど、着氷を制御する心の余裕がなかった」

 他の要素を完璧にこなしていただけに、惜しい結果だった。



SP演技の宇野

 だが、6歳下の鍵山優真に次ぐ順位にも動揺もなかった。

「鍵山君は単純に僕よりうまいと思うし、今回は挑戦される立場ではないと思って臨んだので。悔しいというより自分がミスをした結果だと、受け入れることができた」

 そう話すように、宇野は自然体だった。その姿勢はフリーでも変わらず、逆転しなければと気負うことなく過ごせたという。「気がついたら自分の出番になっていた」というフリーは、氷上で名前をコールされ「30秒でポーズを取らなければいけないのか。短いな」と思いながらスタート。「気が付いたら4回転フリップと4回転サルコウは跳び終わっていて、3本目のジャンプでパンクしていた」と苦笑する。

「(3本目のジャンプ以降)やっと、いろいろ考えるようになった。4回転トーループをパンクする試合はなかなかないけれど、あのコースのトーループは練習でも結構失敗していたので。3回転になった時に『この場所では跳べないんだな』と思い、もしやるんだったら3回転サルコウ+3回転トーループの場所は違うコースで入れようと思い、『それも縁だな』と思って挑戦しました」

 宇野が最後から2番目の、3回転サルコウ+3回転トーループを予定していたところで挑戦した4回転はミスとなったが、続くトリプルアクセルからの3連続ジャンプは最後の3回転フリップが4分の1回転足りないだけに抑えた。

 4回転サルコウへの挑戦も、「すごい挑戦というより、小さな挑戦くらいの気持ちで挑めました。最近はサルコウがだいぶ自分のものになっているんじゃないかなと思うので」と、気負う素振りはなかった。

「これまでは大会に出ることがずっと当たり前だと思って練習してきたので、こういう状況になって初めて開催してもらえることへの感謝を覚えました。だから今回、大会に出られたことが本当によかったし、単純に楽しかった。それに自分で言うのもおかしいとは思うけれど、男子は観ている方も楽しめるとてもいい試合になったんじゃないかなと思います」

 宇野は大会を振り返って「目標があらためて見つかったし、これまでで一番大会に出てよかったと思える試合だった」とも言った。その目標とは、リンクサイドで演技を見た羽生結弦という存在だ。宇野は本人の前でも、彼が自らの最終目標だと言い切る。

「羽生選手は朝の練習でもノーミスだったし、去年と比べると成功率や体のキレが全然違うなと思って見ていました。練習でできていることを本番でやるのは本当に大変なことなのに、それを見ている側からすればいとも簡単にやってのけるすごい選手だなと......。この大会に出て、僕もミスはあったけれど、自分にとってはいい演技ができたと思いました。でもその後で(羽生)ゆづくんの演技を生で見た時に、僕とは『こんなにも差があったんだ』と思ったし、失礼だけど、すごくうれしかったです。すごく偉大な選手だというのを、久々に試合に出てあらためて痛感したので、『僕の目標はゆづくんだ』とどんな大会より思ったし、自分もまた頑張ろう、と」

 フリーで190.59点を獲得した宇野は、合計284.81点で鍵山を逆転して2位。一喜一憂するのではなく、結果を素直に受け止めていた。

 2018年平昌五輪後に勝つことを強く意識し始め、昨シーズンは新たな道を模索した宇野。コーチ不在の時期には苦しんだ。だが、ランビエールコーチに師事してから、勝ちたいと思っていた時期には「逃げ」と思い込んでいた「スケートを楽しむ気持ち」を大切にしてもいいんだ、と思えるようになったという。

 新たな道を歩み始めた宇野にとって、今年2月のチャレンジカップ以来10カ月ぶりとなった全日本は、新鮮な気持ちで再び前に進む第一歩になったようだ。