フィギュアスケートの全日本選手権女子フリーが行なわれ、ショートプログラム(SP)で首位に立った紀平梨花が4回転サルコウを初めて決め、フリーでも1位の154.90点をマークして、合計234.24点で大会2連覇を飾った。日本女子の4回転ジャン…

 フィギュアスケートの全日本選手権女子フリーが行なわれ、ショートプログラム(SP)で首位に立った紀平梨花が4回転サルコウを初めて決め、フリーでも1位の154.90点をマークして、合計234.24点で大会2連覇を飾った。日本女子の4回転ジャンプ成功は、2003年の全日本選手権で跳んだ安藤美姫以来17年ぶり。安藤は当時ジュニアの選手で、日本女子シニアとしては初の4回転ジャンパーが誕生した。

 淡い紫色のコスチュームに身を包んだ紀平が、プログラム冒頭の最初のジャンプを勢いよく跳んだ。無駄な動きは微塵もなく、軽やかな跳躍から4回転を決めて着氷も流れるように降りた。試合で初めて成功させた4回転サルコウ。待ちに待った見事なジャンプだった。



全日本選手権フリーで4回転サルコウを決め、優勝を飾った紀平梨花

 続いて代名詞のトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)もしっかりと跳んだが、回転不足の判定を受けた。それでも、そのほかのジャンプではミスなく、『ベビー、ゴッド・ブレス・ユー』の透明感のある優しいピアノの音色をしっかりと表現して演じきった。演技後は右手を高々と突き上げてガッツポーズ。はにかんだ笑顔が満面に広がった。

「決めたいと思っていた4回転サルコウがきれいに決まったことがすごくうれしい。思っていたよりも冷静で、今回跳ばないと次に進めないくらいの気持ちでした。4回転サルコウでミスが出たら、他のジャンプもミスが出ると思っていたので、跳ぶしかないという気持ちがあった。跳んだ後は計画どおりに落ち着いてできました」

 素直に喜びをかみしめたが、成功できるという自信と確信があったに違いない。なぜなら、続けてこうも話していたからだ。

「北京五輪に向けて、4回転サルコウを試合で決めたいという思いがすごく強かったので、オフシーズンからずっと練習やトレーニングを頑張ってきていたので、いままでのすべての行動が、試合のあの一瞬につながっていたことがすごくうれしいです」

 今季はスイスを練習拠点にして、筋力トレーニングを中心に励んできた。コロナ禍の影響で出場を予定していた試合がキャンセルとなり、自分が取り組んできた練習の成果を発揮する場を失って、モチベーションを維持することが難しい状況だったという。それでも、諦めたり投げ出したりしないで4回転のジャンプ練習を繰り返した。4回転サルコウの完全習得のために黙々と筋力トレーニングに取り組み、肉体改造も図ってきた。

「試合がいつあるかわからない状況でモチベーションの維持が難しかった。これまで、いろいろ挑戦してきて、これが正解かどうかもわからない気持ちでずっとずっと頑張ってきました。だから、今回はやらないという選択肢は私の中ではほとんどなかったし、挑戦する気持ちでずっとずっと過ごしていました。公式練習でも4回転のイメージを確認したり、今まで以上に4回転に時間を使いました」

 満を持して挑んだ全日本選手権の舞台。今季初戦という注目が集まるなか、日本のファンの前で大技を成功させたことで喜びもひとしおだっただろう。一方で、その成功の要因を冷静に分析した。

「一番はあの状況のあの瞬間に調子を持っていけたこと。いままでは靴の調整がうまくいかないことが多くて、跳び方が定着しないまま試合に出ていましたが、そこを克服して同じ靴で同じ跳び方のイメージを掴めて試合に臨めたことが大きかった。それに試合がなかった今季は、演技の完成度を高める練習よりも、筋トレと4回転の練習を多くできたことが成功につながったと思います」

 ロシアの新星たちが席巻した昨季はなかなか国際大会で力を発揮できず、グランプリ(GP)ファイナルでは4位に甘んじた。それでも昨年12月の全日本選手権で初優勝を決めて、今年2月の四大陸選手権では大会連覇を飾った。そして迎えようとしていた3月の世界選手権(モントリオール)が新型コロナウイルスの感染拡大によって中止に。勢いづいたはずのはやる気持ちを整理するのは簡単ではなかったはずだ。

 そのままオフシーズンに入り、練習場所を確保するのも困難な状況が続くなかで、何とかスイスに拠点を構えることができ、練習環境を整えてトレーニングに励んできた。その間、今季予定された大会が次々と中止や延期となり、ようやく出場できたのが全日本選手権だった。

「今年は昨年と比べると試合がなかったので、コツコツとやってきたと感じています。(試合での)達成感を味わえないなかで、ずっとやり続けるのは結構つらかったですし、自分がちゃんと成長できているのか、もしくは(実力が)下がっていっているのか、試合がない分、それもわからなかった。だから、なかなか自分に自信を持つことができなかったし、このままいって大丈夫なのかとか、結構いろんなことを考えた年だったかな。

 それでも、この1年間すごく長いようで短かったなと思っていて、いま試合を終えてみて感じることは、北京五輪に向けて、あまり達成感のない練習を積み上げてきたことは無駄でなかったなと思いますし、1年間諦めずにコツコツやってきてよかったと思います」

 そう話す表情には誇らしさが宿っていた。

 優勝した紀平は、来年3月に開催予定の世界選手権(ストックホルム)の代表に選出された。もちろん、まだ収束できていないコロナ禍で大会が開催されるかどうか、先行きは不透明だ。それでも、全日本選手権と同時期に行なわれていたロシア選手権は大いに刺激になったようだ。

「自分のことで精一杯だったので(ロシア選手権の)演技自体は見られなかったですが、点数と順位は確認しました。私も目標としている(フリーで)160点台だとか、もっともっと高い得点を出した選手もたくさんいて、すごい刺激になりました。私ももっと完成度の高い演技を目指していきたい。今回はまだ痛みがあるので3回転ルッツを外したり、完全な構成ではないし、もっとレベルは上がると思う。その課題を克服したら、いまよりも10点以上は点数を伸ばせると思いました。

 次の試合までに今回の反省点をしっかり練習して、いろいろ修正して、ロシアの選手と世界選手権で戦っていけるようなレベルにして、ショートとフリーともに自分がもうこれ以上できないという完璧な演技をしたいです」

 金メダル獲得を目指す2022年北京五輪も近づいてきた。そんな大事な時期についに大技を試合で決めてみせ、「一歩進めたなという気はします」と、世界のトップで戦えるステージに立てた手応えをつかんだ。ここからさらなる成長をどう遂げられるのか。ロシア勢とのライバル対決を楽しみに待ちたい。