今年の年末年始は、帰省や旅行もせずに自宅で過ごす人も多いはず。ということで、TVや雑誌でおなじみの映画ライター・よしひろまさみちさんに、自身の感想をまじえながら、おうち時間で見て欲しい、おすすめのスポーツ映画5本を紹介してもらった。デジタ…

 今年の年末年始は、帰省や旅行もせずに自宅で過ごす人も多いはず。ということで、TVや雑誌でおなじみの映画ライター・よしひろまさみちさんに、自身の感想をまじえながら、おうち時間で見て欲しい、おすすめのスポーツ映画5本を紹介してもらった。



デジタル配信中 Blu-ray 2,381円(税別)/DVD 1,410円(税別) 発売・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

『マネーボール』(2011)

 監督は『カポーティ』(2005)、『フォックスキャッチャー』(2014)のインテリ、ベネット・ミラー。なんとアンミカの旦那の兄! 寡作だけれど毎回、作品をオスカーに送り込む本当に知的な監督。お坊ちゃんだから、ガツガツしていないんです(笑)。

 誰もが知っているブラピことブラッド・ピットが、こういうこともできるんだ、と知れたのが一番の収穫。出ずっぱりなのに、キメキメのカッコよさはなくて、いわゆるヒーローじゃなく、ちょっと枯れていて、過去を引きずっているメジャーリーグのGM役がぴったりハマっています。しかも、球団を畳むかどうかの瀬戸際という崖っぷちなのに"気に食わないならクビにすれば?"みたいに何となく余裕なのが、またアメリカンでいい感じ。

 そんな彼の元にジョナ・ヒル扮するイエール大学卒の数字オタが、ちょっとしたひらめきによる数式を持ち込んでくる。選手のパフォーマンスの特徴を数値化した、彼のその統計とデータ分析で、選手の出し方さえ間違わなければ絶対に点を稼げる、ということを証明して勝ち上がっていって、最後は大熱狂となって、気持ちよく大団円!

 実話の映画化で、スポコン色のない異色のスポーツ映画なんだけれど、スポーツもデータが左右する時代になったんだね、というのは興味深い。でもその反面、それが是か非かと問われると、微妙。ゲーム戦略としては正しいけれど、ショーとしては面白くならないし、劇的なものが生まれなくなっちゃう......。そんなことを考えさせつつ、でも、とにかく面白いことは間違いない!



デジタル配信中発売:ウォルト・ディズニー・ジャパン(C)2017 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC.

『イーグル・ジャンプ』(2016)

『キングスマン』シリーズのタロン・エガートンが、実在の五輪選手を演じたスキージャンプ映画。タロンが演じたマイケル・エドワーズは、ひと言でいうとド変人。子どもの頃からの「何でもいいから五輪選手になりたい」という夢を叶えるべく、競争率も考えて、当時イギリスの代表選手がいなかった"スキージャンプ"というニッチなところを攻めることに(笑)。

 ヒュー・ジャックマン扮する往年の選手に弟子入りしようとするんだけれど、お決まりのように、酒浸りでダメダメになっていて。そんな2人に友情が芽生え、オリンピックを目指す物語。

 主人公がアスリート界ではド素人だけに、オリンピック協会やイギリス代表団からもメチャクチャ嫌われていて、しこたま酒を飲ませて酔い潰されて、開会式に出させない嫌がらせを受けたり(笑)。でも劇映画仕立てだけに、悲愴感なく爽やかに観られちゃいます。スキージャンプの再現もあり、脚色もうまく、スポコン系な情熱や感動、さらにハートフルな家族物語まで盛り込まれていて、すごく面白い。

 監督はフレディ・マーキュリーの生涯を描いた『ボヘミアン・ラプソディ』のデクスター・フレッチャー。タロンとは2019年に『ロケットマン』(※エルトン・ジョンの半生を描いた作品)で再タッグを組んで高い評価を得ている人。つまりこの監督、実話ものを撮るのがうまいってこと。お金も掛けて、ジャンプシーンもちゃんと撮れている。日本では劇場未公開でDVDスルーになったけど、キャストも豪華で、製作陣に(『キングスマン』シリーズや『X-MEN』シリーズの)マシュー・ヴォーンも入っていて、世界興収的には製作費の倍を稼ぎだした優秀作!


Netflix映画

「フォックスキャッチャー事件の裏側」独占配信中

『フォックスキャッチャー事件の裏側』(2016)

 これは、簡単にまとめると"頭のおかしいパトロンについたら大変な目に遭った"という実話。スポーツ界においては、切っても切れないのがパトロンの存在。特に個人競技はお金がかかるから、どうしようもない。

 ベネット・ミラー監督の劇映画『フォックスキャッチャー』(2014)で描かれた実際の事件の裏側に迫るドキュメンタリー。ロサンゼルス五輪のレスリングで金メダリストのシュルツ兄弟がまずかったのは、ただ"自分がレスリング選手になりたかった頭のおかしい大富豪ジョン・デュポンがパトロンについてしまった"こと。レスリングファンに、お金も出す、練習場も作る、と言われたら飛びつきたいのはわかるけど、それが悲劇のはじまり。最後には兄のデイブ・シュルツがデュポンに射殺されてしまう。

 その物語は劇映画のほうで遺憾なく楽しんで欲しいけれど、その裏側を描いているのが、このドキュメンタリー。

 自分の所有する土地にレスリングの練習施設を作り、選手たちとともに生活するなど、全てを提供していた大富豪のデュポン。そして、もう一人の重要人物、コーチである兄・デイブとの関係――。2人の蜜月がどうだったか、周辺にいた人々の証言で回想劇のように構成されているんだけれど、よくわかるのは、デュポンがいかに地域を巻き込んでいたか、ということ。

 彼はお屋敷がある田舎町にすごいお金を落としていて、地元警察と癒着していたり、自分も自警団みたいなのをやっていたり。買収でデュポンがレスリングのシニア大会で優勝するなんてことも。お屋敷の門の先で行なわれていたことは、誰も見たこともないし、知らなかったという、すごく気持ち悪い話。あの門を入ったら最後、明らかにサイコパスな彼の、抜けられない蟻地獄に落とされた感じ。



デジタル配信中発売:ウォルト・ディズニー・ジャパン(C)2014 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC.

『ドッジボール』(2004)

 ドッジボール競技を描いた、スーパー軽い映画(笑)。だって、そもそも大の大人がドッジボールを映画にしようなんて普通、思わないですよね。それにドッジのルールって、地域や学校によってちょっとずつ違うみたいで、この映画では、外野に出た選手はプレーには参加できず、内野が相手を一人当てれば、仲間の外野を一人戻せるというルール。

 物語は、ヴィンス・ヴォーン扮する主人公が、自分の経営する寂れたスポーツジムを買収から守るため、30日以内に5万ドルが必要――というところから始まる。そのお金を稼ぐためにドッジボールの大会に出ることになるんだけど、そもそも賞金が安い大会に出るって......とツッコミどころ満載。

 ヴィンスに"小男のカッコつけ"とバカにされている大手ライバル店のベン・スティラーのジムも大会に出ることに。ヴィンスのチームも、なぜか発注間違いして、当日に届いたユニフォームがSMの女王様のコスチューム(笑)。もう仕方ないからそれを着て大会に出る、という、本当に小ネタまでくだらなくて。

 そこまでくだらないのに、肝心のドッジのシーンは、結構ガチなんです。球がドカッと来て、かなり痛そう。音は後からつけているけれど、当時はまだVFXじゃないから、あれはガチだと思います。スポーツ映画って実話か原作ものがほとんどの中、こうした完全なるフィクションという本作は貴重。お正月のホリデーシーズン、一本は何も考えずに大笑いしながら、子ども心を取り戻して楽しんでほしい作品。



DVD価格:3,800円(税抜き)発売元:㈱彩プロ販売元:TCエンタテインメント(C)2018 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved

『ファイティン!』(2018)

 こちらはアームレスリング。腕相撲ってスポーツですよね? ズバリ、マ・ドンソクを堪能する映画です! マ・ドンソクと言えば、『新感染 ファイナル・エクスプレス』(2016)あたりからプチブレイクしたけれど、来年はマーベル作品『エターナルズ(原題)』が彼を一般レベルに落とし込んでくれるはずなので、確実にくる、知っておいた方がいい人。

 彼は子供時代にアメリカに移住しているから、メチャクチャ英語がきれいで流暢。スポーツ科学とかでアメリカの大学も出ていて、アスリートのトレーナーをやっていた人なんです。それが何かの拍子で韓国のドラマにちょっと出たら、注目されちゃって。

 さて、内容はと言うと、マ・ドンソク演じる男は、親が経済的に困窮して養子に出され、アメリカに渡ったという設定。そこでアームレスリングで稼いでいたんだけど、韓国の大会に出ることになって......。

韓国に戻った彼が本当の親を尋ねたら、お母さんはいなかったけれど、妹にあたる実の家族がいて、その貧しい家族を助けるため、俺が稼いでくるよ、と腕相撲大会に出るという"家族もの"でもあるんです。

 アームレスリングのシーンは、彼の腕の太さだけでガチすぎる~! あれだけ巨体なのに動きが俊敏で、やっぱりアスリートなんだなと思わされます。元から鍛えている人じゃないとできない役。ぜひ、早めに観てほしい!