ツアー通算9勝の諸見里しのぶが、ツアープロとして第一線を退いてから1年。最近ではテレビ解説やラウンドリポーターなどメディアで見かけることが多くなった。ただ完全に引退したわけではないため、推薦されればトーナメントへの出場の可能性も残している…

 ツアー通算9勝の諸見里しのぶが、ツアープロとして第一線を退いてから1年。最近ではテレビ解説やラウンドリポーターなどメディアで見かけることが多くなった。ただ完全に引退したわけではないため、推薦されればトーナメントへの出場の可能性も残している。しのぎを削るツアープロから離れ、ゴルフを違った角度から見つめなおした諸見里は今どのようにゴルフを見ているのか、話を聞いた。

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解説だけでなくコースセッティングにも挑戦した諸見里しのぶ

――まずは2020年の女子ゴルフ界を振り返って、どのような1年でしたでしょうか?

 本当に今年はあっという間に終わったなという1年でした。私も一線を退いてからは、活動の幅を広げようとワクワクしていた中でのコロナ禍......。3月のダイキンオーキッドレディスに推薦で出場予定だったのですが、直前で中止になり、それが衝撃でした。長年ゴルフをやっていますが、まさか試合ができなくなるとは思っていなかったので。それでも女子ツアーは14試合開催できたのはすごく良かった。選手たちは調整が大変な1年だったと思います。

――昨年、ツアーの第一線から退きましたが、諸見里さん自身はどのような活動をされましたか?

 ゴルフの練習もしていたのですが、今年からコースセッティング委員も務めました。3月下旬から先輩について研修をしていました。内容はトーナメント開催コースの下見とその準備です。

――具体的にはどのようなことを学ぶのでしょうか?

 芝生の育ち方を学んだり、試合をするコースで実際にカップの位置を決めたりもしました。そのための打ち合わせも入念に行ない、グリーンキーパーやゴルフ場の管理者とラフの長さやグリーンの硬さを話したり、大会関係者と情報共有もしました。一つのトーナメントを開催するために、多くの人が携わっていることに驚きました。

――岡本綾子さんからも色々と学んだと聞きました。

 岡本さんが日本女子プロゴルフ選手権大会コニカミノルタ杯のコースセッティングをされていたので、無理矢理に同行させてもらいました(笑)。綾子さんは知識がとても豊富。例えば、ティーイングエリアを決めるときにも、景観について細かく考えていたり、ラフの調整の仕方をグリーンキーパーさんと話し合ったりしているので本当にすごいなと......。そういう部分ももっと勉強していかなきゃいけないなと感じました。

――実際に担当した試合はありましたか?

 10月に開催されたステップ・アップ・ツアーの「かねひで美やらびオープン」は私が1人で担当しました。予想よりも研修期間が少なかったので、戸惑うことも多かったのですが、競技委員さんやゴルフ場の関係者に助けていただきながら、なんとかできた感じでした。

――そもそも選手時代はセッティングのことを考えないですよね。

 これは私が反省すべき点なのですが、最後の2~3年は自分のゴルフに精一杯で周りのことはまったく見えていませんでした。だから距離の設定やどこにバンカーがあると難しいのかなど、イマジネーションが浮かばないんです。コースセッティングは、まだまだ勉強しなければいけないですね。

――今年は解説の仕事もたくさんされていました。

 初めての解説はものすごく大変でした。日本語がわからない(笑)、っていうのは冗談で。ゴルフ場の状況を見ながら、実際に何が難しいのか、選手たちは何を思っているのかなどを言語化しないといけない。自分自身が感覚派だったからか、それがとても難しかったです。アナウンサーさんの質問に対して、見合った言葉を返せるかなど、コミュニケーション能力がとても問われました。

――プレー内容を忠実に言葉で表現するのは難しいですか?

 そうですね。だから選手やコースについてたくさん調べました。今年はレギュラーツアー、ステップ・アップ・ツアー、米女子ツアーで解説する機会をいただき、回数をこなすことで、少しずつ言葉が出るようになりました。初日から身構えて、練習から試合まですべて見るのは初めてでしたし、こんなにも人のプレーをじっくり見たことも人生で初めてです(笑)。

――解説したなかで、印象に残っている試合はありますか?

 どれも楽しく解説できましたが、全英女子オープンは同期の(上田)桃子が6位に入って、その姿に勇気をもらいました。今年の日本ツアーは若い選手たちの活躍が目立ちましたが、その中でも桃子や藤田さいきさんらベテランも上位に入っていましたし、若林舞衣子さんも産休から復帰されて、トップ5に2回入りました。私と同世代の選手が頑張っている姿を見て本当に刺激をもらいました。

――その上田桃子選手とは、賞金女王争いをしたライバルでした。現在も結果を残している姿を見て何か思うことはありますか?

 桃子とは当時は本当にバチバチでした。仲が良かった...、いや悪かったかな...。私が一方的に悪くしていたのかも(笑)。でも、同い年で同期なので、なおさら負けたくないって気持ちが強かったんです。彼女のストイックさ、ゴルフに対する姿勢、それこそ試合が終わって納得いかなかったらアカデミーに戻って練習もして、最後の最後までパターをやったりしていました。その姿勢が今も変わっていないんですよ。そこがすごいところです。

――歳を重ねると戦うモチベーションを保ち続けるのは簡単ではないですよね。

 そうです。20代前半と後半では体にも変化が現れますし、30代になると体力面での違いが出てきます。20代では悔しかったらいくらでも練習して、寝る時間なんていらないと思っていました。寝る時間があるなら、トレーニングやストレッチ、パター練習をやっていたのですが、年を重ねるとそれができなくなる。若い時は寝れば翌日にはすぐに元気になったのが、今は体が重たいとか......。それを桃子は敏感に感じ取って、トレーニングやケア、食生活を変えていると思います。

――だから今も強いと?

 全英での活躍に加えて日本女子オープン3位タイ、JLPGAチャンピオンシップリコーカップでも3位タイですから。若いときからゴルフに向き合っているからこそ、成績が出ているなと感じました。桃子にはこれからもツアーを盛り上げてもらいたいです。

【Profile】
諸見里しのぶ(もろみざと・しのぶ)
1986年7月16日生まれ、沖縄県出身。9歳でゴルフを始めジュニア時代から頭角を現す。19歳でプロテストに合格し翌年初優勝を飾る。2009年には年間6勝を挙げる活躍を見せる。19年をもってツアープロから退いた