NHK杯で3位に入った松生理乃 12月25日からの3日間、長野市で開催されるフィギュアスケートの全日本選手権。昨年の女子シングルは紀平梨花が229.20点の高得点で優勝し、2位は樋口新葉。優勝経験者の宮原知子や坂本花織が思わぬ不調で、3位か…



NHK杯で3位に入った松生理乃

 12月25日からの3日間、長野市で開催されるフィギュアスケートの全日本選手権。昨年の女子シングルは紀平梨花が229.20点の高得点で優勝し、2位は樋口新葉。優勝経験者の宮原知子や坂本花織が思わぬ不調で、3位から5位は190点台前半の得点にとどまるやや低調な結果だった。

 今年はグランプリ(GP)シリーズがコロナ禍で変則開催になり、全日本前に開催が予定されていたGPファイナルも中止が決まった。海外を練習拠点とする紀平と宮原は、全日本がシーズン初戦になる。とはいえ、連戦が続く中の出場だった昨年までと違い、フレッシュな状態で試合に臨めるともいえる。

 国内を拠点にしていた選手たちも、11月下旬のNHK杯後は練習や調整の期間は十分だ。NHK杯で229.51点を出して優勝した坂本も、200点台をキープした樋口もさらなる積み上げを狙っているだけに、全日本は200点以上の表彰台争いが必至の状況だ。

 NHK杯では、実績のある選手たちの表彰台争いに割り込んできそうな選手が出現した。ジュニアながらも合計198.97点で、坂本と樋口に次いで3位になった松生(まついけ)理乃だ。しかも、大会4日前まで青森県で開かれた全日本ジュニアに出場しており、疲労も残っている状態での結果だった。

 中京大中京高校1年、16歳の松生は浅田真央に憧れ、山田満知子、樋口美穂子の両コーチに指導を受けている。ノービス時代は、全日本では2017年の(Aクラス)11位が最高。ジュニアでは、18年の全日本で8位、19年は9位だった。

 昨季、初参戦のジュニアGPリガ大会で193.03点の3位となり注目を集め始め、今年、一気に成長してきた。9月の中部選手権ジュニアはシニア1位を5点以上上回る183.31点で優勝すると、10月末の西日本ジュニア選手権を188.90点で制した。同大会のシニア女子と比較すれば、坂本と三原舞依に次ぐ3位の得点だった。

 その勢いで11月の全日本ジュニアはショートプログラム(SP)でノーミスの69.06点を出して1位発進し、フリーはフリップの減点はあったものの、129.32点を獲得。合計198.38点に伸ばして初優勝を果たした。

 松生の強みは、助走が短く力みのない流れのいいジャンプだ。今季の躍進の大きな要因として、SPでは初戦から3回転フリップ+3回転トーループを基礎点が1.1倍になる最後のジャンプに入れ、大きな得点源にしている。さらにフリーでも西日本から、3回転ルッツ+3回転トーループと、3回転フリップ+3回転トーループ+2回転トーループ、3回転サルコウ+3回転トーループの連続ジャンプをすべて後半に入れて得点力を高めた。日本女子のトップ選手でもやっていないような高難度の構成にしている。昨年からトリプルアクセルの練習もしているという。

 ジャンプだけではなく、滑り自体も腕をしなやかに使って表現の効果を高めている。ステップではしっかり音に乗り、曲調に合わせて動きの間を取ることができているのも特徴だ。

 NHK杯のSPは、スピンをすべてレベル4にするなどの丁寧な滑りで65.74点を獲得。後半の3回転フリップ+3回転トーループでは最初のフリップがダウングレードになって減点されたが、4位発進。フリーは、前半の3回転ループをミスして減点され、3回転フリップ2本が「ノット・クリア・エッジ」(明確でない踏み切り)と判定されたが、流れを途切らせずに演じ切り、坂本に次ぐ133.23点を獲得。合計を198.97点にして3位になり、シニアを押しのけて表彰台に上がった。

 課題になるのは、NHK杯でもノット・クリア・エッジと判定されている3回転フリップの修正だ。プラス材料になっているのは、全日本ジュニアではすべての項目で7点台の61.60点だったフリーの演技構成点だろう。シニアと戦ったNHK杯では3項目が8点台に乗って63.76点と高くなっており、ジャッジの評価も上がりつつある。

 単純に計算すれば、ノーミスだった全日本ジュニアのSPに、NHK杯のフリーを加算すれば202.29点になる。3回転ループのミスで2点強を取りこぼしたこともあり、現状でも200点台中盤を出せる力は確実に持っている。ジャッジの評価向上も追い風になって得点を伸ばせば、シニアの有力選手たちも大きなミスはできない状況になってくる。

 また、松生のほか、15歳の吉田陽菜(はな)も、初出場だった昨年19位の悔しさを晴らそうと、SPでもトリプルアクセルに挑戦することを決意している。そうしたジュニア勢が、上の世代の選手たちをどう刺激するか、全日本の滑りが注目される。