全米女子オープンの予選ラウンド2日間でバーディーを積み重ね、最終日を首位で迎えた渋野日向子選手。大会前には、ここまでの活躍は予想していませんでした。残念ながら4位という結果に終わりましたが、シーズン当初のことを考えれば、よくがんばったと思…
全米女子オープンの予選ラウンド2日間でバーディーを積み重ね、最終日を首位で迎えた渋野日向子選手。大会前には、ここまでの活躍は予想していませんでした。残念ながら4位という結果に終わりましたが、シーズン当初のことを考えれば、よくがんばったと思いますし、復調を感じさせる大会だったのではないでしょうか。
昨年は国内4勝を挙げて、海外メジャーのAIG全英女子オープンでも優勝。大躍進を遂げて、渋野選手は今季、さらなる高みを目指していました。オフの間にトレーニングに力を入れて肉体改造を図り、アプローチのバリエーションを増やすことを第一の課題としていました。
ところが、今季の開幕戦、アース・モンダミンカップでは、トレーニングをがんばったことで、上半身に力が入りすぎている印象を受けました。バックスイングがやや速くなって、その分、切り返しが浅くなっていると感じました。
つまり、オフの取り組みがスイングに生かし切れていませんでした。そのため、スコットランド女子オープンや連覇を狙ったAIG女子オープン(全英女子オープン)などでも苦しい戦いを強いられましたが、そんなシーズン当初の苦悩を思えば、全米女子オープンではいろいろなことが改善されていました。
スイングにおいては、リズムがよくなり、切り替えからインパクトまでには左足で壁をつくって、スムーズな体重移動ができていました。体幹トレーニングの効果も見て取れましたね。
なかでも、うまく立て直しを図れていたのが、パッティングです。国内の大会でも予選落ち、あるいは何とか予選を突破していた頃は、不安を抱えながら打っているシーンが頻繁に見られました。
その要因として考えられるのは、アプローチで苦労していたこと。アプローチで寄せ切れず、パットの際に距離が残る場面が多く、結果的にプレッシャーがかかって、うまくストロークできない、という悪循環に陥っていたように思います。
それが、全米女子オープンではどっしりと構えて、ストロークも安定していました。グリーンが大きいうえ、アンジュレーション(起伏)もあって、世界のトッププレーヤーでも短いパットを外していましたが、渋野選手は芯にしっかりとヒットさせて、転がりもよかった。
ですから、1.5m~2mぐらいの微妙な距離のパットを外すことが少なった。パッティングが好調だったゆえ、他のショットにもいい影響を与えていたように思います。2日目までは、狙ったところにショットが打てて、パーオン率も出場選手中、2位でしたからね。
全米女子オープンではパットが冴えていた渋野日向子
気持ちの面での変化も、好成績につながった要因だと思います。渋野選手本人も話しているとおり、考え方ひとつで、1ストローク、2ストローク違ってくるということを、およそ2カ月間の海外遠征で学んだ。
さらにその海外での戦いで、自分より優れた選手が世界にはたくさんいることを知った。そうして、全英女子オープン優勝という肩書を背負うことなく、今一度、チャレンジャーとして挑むことができた。それが、初日、2日目の躍進に結びついたのではないでしょうか。
ただ、さすがに最終日は苦戦。寒さによって、ボールが思ったほど飛ばないなか、ピン位置が難しくなったことで、セカンドなどでは、高い弾道でピタッと止められる技術が求められました。そこは、きつかったと思います。
飛距離の出る選手ならば、アイアンで高い球を打ってピンを狙うところを、渋野選手の場合、ユーティリティーを手にせざるを得なかったですからね。そういった点を含めて、自分のゴルフをさせてもらえませんでした。
今回のコースは池が絡んでくるホールが多く、池につかまったら、ボギーでは収まらなくなります。そういうプレッシャーも、渋野選手を襲っていたかもしれません。
初めての海外メジャーで、何も考えず、ひたすらピンを狙っていればよかった昨年の全英女子オープンと比べると、今回の全米女子オープンにはメジャーチャンピオンとして臨んだうえ、この1年でさまざまな経験をして、いろいろなことを考えるようになっていました。海外メジャーの重要性や怖さを認識したことを含め、渋野選手が抱えていた重圧やプレッシャーは、全英女子オープンの比ではなかったと思います。今では、世界中のゴルフファンが「スマイリング・シンデレラ」を知っていますしね。
そうした状況にあって、優勝争いの主役を演じて、最終的に4位という成績を残したことは、今後に向けて、光明が射したと言えるでしょう。
宮里藍さんもそうでしたが、渋野選手は失敗しても、その失敗をきちんと分析して糧とし、次の戦いにつなげていく力がズバ抜けています。それは、世界のトップに立つ選手が持つ、必須の才能と言えるでしょう。
一つひとつ階段を上がって、再びメジャーチャンピオンになることを期待したいです。