昨年、海外メジャーの全英女子オープンを制した渋野日向子が、またも大舞台で躍動した。新型コロナウイルス感染拡大の影響で12月に延期された全米女子オープンで、最終日をトップで迎えるなど世界トップレベルを相手に再び優勝争いを展開して見せた。 最…

 昨年、海外メジャーの全英女子オープンを制した渋野日向子が、またも大舞台で躍動した。新型コロナウイルス感染拡大の影響で12月に延期された全米女子オープンで、最終日をトップで迎えるなど世界トップレベルを相手に再び優勝争いを展開して見せた。

 最終的には、優勝した韓国のキム・アリムが最終日にスコアを伸ばすなか、渋野はスコアを落として4位に終わったが、テレビ画面を通して声援を送っていた日本の多くのファンを魅了。渋野はあらためて、海外メジャーで戦える選手であること、それも優勝を狙える選手であることを、広く知らしめた。



全米女子オープンを4位でフィニッシュした渋野日向子。photo by Getty Images

 シーズン当初は思うようなゴルフができず、不本意な結果が続いていた。連覇を狙った全英女子オープンでは、あえなく予選落ちを喫した。それでも、その後に挑戦した米ツアー4試合ではすべて予選突破。さまざまな経験をして、いろいろなことを吸収した。

 そして、日本ツアーに復帰してから、徐々に結果を出し始めていく。大王製紙エリエールレディスで5位、JLPGAツアーチャンピオンシップリコーカップで3位タイという成績を残し、この全米女子オープンに向けては、上り調子で迎えることができた。それは大会前、終始リラックスした表情を見せていた渋野の様子からも、大会への抱負を語る言葉の節々からもうかがえた。

「(日本ツアーを終えて)結果的には調子を上げてきたように見えるかもしれませんが、というよりは、新しい自分を作り上げていくために、すごく心もリフレッシュされていて『またイチから』という感じにある。そう考えると(そこから)すごくいいスタートを切れているというか、ゴルフに対して初心に帰れているというか。

(前回の米ツアー参戦から)およそ2カ月では、なかなか成長は感じられないですけど、自分のモチベーションだったり、ゴルフに対する気持ちだったりは、2カ月前よりはすごくポジティブになれているというか。いい方向に考えられるようになってきていると思う。技術に関してはなかなかですけど、気持ちの面ではすごく変わってきていると思うので、それでどれぐらい変わるのか、今回はすごく楽しみです。

 アプローチなんかでも、いろいろと落とし場所を考えて"イメージして打つ"というのが、今までよりも楽しくなってきていて。グリーンを外した際はこれまで、『(カップに)寄るかなぁ~。どんなところから打つんだろう......』みたいな、不安な気持ちでその場に向かっていたんですけど、今はその間に『どんな感じで打ったら寄るんだろう』とか考えていて、すごくいい気持ちで......いい気持ちはおかしいか......プラス思考? そう、(グリーンを)外してもプラス思考で、すぐに気持ちを切り替えられるようになった。もちろん、外した瞬間は怒りますけど、(次のプレーを考えると)グリーンに向かうまでもが、すごく楽しく感じられるようになった。

(コースについては)やっぱり『全米女子オープン』っていう名に負けないくらい、かなり難しいコース。すべてが大事なホールで、落とし穴も各ホールにあるので、そこはしっかりと気をつけていかないとな、って思っています。本当に難しいコースではあるんですけど、強い気持ちを持って、今の自分ができるゴルフをしっかりと出し切って、予選通過を目指してがんばっていきたい」

 迎えた初日、多くの選手が難コースに苦しむなか、渋野はいきなり爆発した。4バーディー、1ボギーの3アンダーで回って、2位タイと好スタートを切った。

「今日は出来すぎ。100点?......100点以上ですね、ふふふッ(笑)。こんなにいいゴルフ、今年はやった記憶がない。この難しいコースで、これだけのスコアが出せるとは思っていなかった。ドライバーは、練習場では本当にポンコツ。でも、試合に入れば、狙いどころも決まっていて、それでしっかり打つことができている。ティーショットに関しては、特に怖いものはなかった。

 アイアンショットも距離感がよかった。ピンがグリーン手前ギリギリに切ってあったら、そこに落ちるぐらいの番手で打って、あとは風任せという感じでしたけど、ほとんどエッジに落ちてくれて。そこで、バーディーが取れた。バンカーショットも、自分の思ったところに出せている。出来すぎくん、なんです。

 パットもよかったです。(前半から)距離感が合っていたし、ラインに乗れば(バーディーが取れる)という状況で、自分の思っていたところに打てた。ロングパットも1mぐらいに寄せられていたし、下りのパットも手前10cmに止めるという気持ちで打って、それができた。ほんと、大オーバーがなくてよかった」

 2日目はさらにすごかった。6バーディー(2ボギー)を量産し「67」のラウンド。通算7アンダーまでスコアを伸ばして、2位に3打差をつけての単独トップに立った。

「ここまでショットがいいのは(今年も)ありましたけど、パットがここまでいいのは久しぶり。自分の思ったところに打てる回数がかなり増えてきているので、自分でも怖いぐらい。バーディーが6個も取れたのは奇跡。このスコアで回れるような気候ではないなと思っていて、ここまで伸ばせたので(今日は)120点です! ハハハッ(笑)。

 よくなった要因? う~ん、今までの自分を捨てたことかな。本当にプロ1年目というか、プロになりたてくらいの気持ちのほうが、ゴルフに対して気持ち的にも成長できるな、と。そういう意味では(よくなったのは)初心に帰ったことによってかなって思います。

 スイングについては、特に直しているところもないんですけど、試合を重ねるたびに"振れてきているな"という実感はあります。こっちに来た時は最初、上半身だけで(クラブを)上げていたな、というのがあったので、ちょっとお腹も意識しながら(クラブを)上げようかなと思ってやったら、ちょっとずつよくなっている感じですね。

 そんなにゴルフは変わったわけではないんですけど、(自分の)気持ちが変わったことによって、ゴルフ、試合に対する気持ちに余裕というか......、(自らの)考え方を変えたことによって、新しい自分が生まれてきているのかな、というのはすごく実感できています」

 決勝ラウンドに入った3日目は苦しいラウンドとなった。1バーディー、4ボギーの「74」。通算4アンダーと、3つスコアを落とした。それでも、単独トップの座をキープした。

「今日は本当に難しかったです。ショットも(予選ラウンドの)2日間のようにはうまくいかなくて、やっぱり首位にいるという緊張感が最初からあった。そのまま18ホール、5cmぐらい宙に浮いた状態でゴルフをしていました。ドラえもんの気分です。

 緊張感があるなかで、自分の動きができず、行ってはいけないところに打ってしまったり、(グリーンに)乗っても難しいところにボールが残ってしまったりして、耐えるゴルフしかできなかった。でも、今年の調子だったり、メンタルだったりを考えると、よくやっていると思うので、この位置(首位)で3日目を終えていることを褒めたほうがいいのかな......。けどまあ、欲深くなっちゃいますよね、人間は......。

 伸ばし合いのほうが得意? 得意かどうかはわからないです。でも、粘るゴルフ、耐えるゴルフもできるようになってきていると(自分では)思っていて。グリーンを外した時のイメージを作るのも楽しくなっていて、むしろ、そういうゴルフが好きになってきているのかな、と。

 それが今の自分らしさ? ゴルフの調子がだんだん悪くなったこともあって、昨年のように戻りたいという思いが膨らんで、だんだん"自分らしさ"というのは何かわからなくなった。そこから無茶苦茶になって、すべてを投げ捨てて、今に至っているので......。今、それを見つけている途中。ゴルフでも。そのなかで、攻めのゴルフだけやっていたのが、粘るゴルフもちょっとずつできるようになったんだよ、っていうのはあります」

 そして、メジャー2勝目が期待された最終日。再び厳しいゴルフを強いられ、ボギーが先行。2バーディー、5ボギーの「74」で終えた渋野は、通算1アンダー、4位という結果に終わった。

「こんな大舞台でよくがんばったとはいえ、悔しいもんは悔しい。こういう気候だったり、緊張感があったりするなかで、自分のしたいスイング、ゴルフがまったくできなかったので、そういうところに対して、すごく悔しいな、と思います。これが、今の自分の実力だなと思って、受け取るしかない。

 自分の今日のゴルフからして、耐えるしかないと思っていたんですけど、10番、11番でボギー、ボギーとなってからは、『どうやったらパーを取れるんだろう』と思うようになっちゃったかな......。そして(2打差を追う展開になって)16番(パー3)ではすごくいいショットを打てたと思ったんですけど、あそこで決め切れない。17番でも3パットしちゃうっていう......。

 全英女子オープンの最終日とは違った? ぜんぜん違います。何が違ったのかわからないですけど、考えることは多くなってきていますよね、全英の時よりは。(当時は)何を考えていたかわからないですけど、あの優勝はたぶん偶然だったんだなって、すごく思います。

(今回の奮闘で)偶然じゃないことを証明できた? いやぁ~、それはないですね。結局、勝たないと証明できないと、私は思うので。3日目までの順位に自信を持っていいと思っても、結局は最終日が大事。最終的に4位という結果なので、何も証明できていないかなって思います」

 渋野は涙を堪えながら、反省の弁を繰り返した。ただ、今回の戦いの中で得たものは多い。彼女自身、自信を得たり、成長を感じられたりしたこともたくさんあったという。となれば、今後への期待が膨らむばかりだ。

 渋野自身は否定したが、見ている側としては、全英女子オープンの優勝が偶然ではなかったことを、今回の彼女の奮闘によって、あらためて実感できた。やはり、彼女には何かをやってくれそうな雰囲気がある。今でこそ口にしないが、渋野は以前、海外メジャーの完全制覇を目標に掲げていた。そんな大いなる夢も、彼女なら実現できるんじゃないか--今回、そう思ったファンも少なくないのではないだろうか。