マックス・フェルスタッペンとレッドブル・ホンダが、ついに表彰台の頂点に立った。 8月の70周年記念GP以来、最終戦のアブダビGPで実に4カ月ぶりの勝利。それも、あの時のようなタイヤの波乱に乗じてではなく、真っ向勝負でメルセデスAMG勢を下…

 マックス・フェルスタッペンとレッドブル・ホンダが、ついに表彰台の頂点に立った。

 8月の70周年記念GP以来、最終戦のアブダビGPで実に4カ月ぶりの勝利。それも、あの時のようなタイヤの波乱に乗じてではなく、真っ向勝負でメルセデスAMG勢を下しての勝利だ。



最終戦を制してガッツポーズのフェルスタッペン

 予選ではベストセクターがなかったものの、最後のアタックラップを高いレベルでまとめ上げ、0.025秒の僅差でポールポジションを奪った。

 決勝の問題は、後ろにメルセデスAMGの2台が控え、それぞれ別々の戦略で揺さぶりをかけてくるだろう、ということだった。アレクサンダー・アルボンが予選5位に終わり、1対2の戦いを強いられるレッドブルとしては、1度きりのピットストップをどう切り抜けるかが勝負の分岐点であることは明らかだった。

 フェルスタッペンはスタートを決め、メルセデスAMG勢にアンダーカットを仕掛けられないようにギャップを広げて維持した。

「スタートできちんとメルセデスAMGの2台を抑えて1コーナーに入っていった時点で、まずひとつホッとしました。ただ、向こうは2台持っているわけです。2台でアンダーカットとオーバーカットを仕掛けたり、セーフティカーが出た時に1台だけ入れたりとか、戦略を分けることでマックスの前に出るという可能性がありました。ある程度のギャップがつくまで、ひと段落できませんでした」(ホンダ・田辺豊治テクニカルディレクター)

 しかし10周目、セーフティカーが入ったことで、ほぼ全車がピットストップを済ませることになった。つまり、これでピット戦略をめぐる1対2の戦いは回避されたのだ。

「あのタイミングでほぼ全車がハードタイヤに換えたことで、(その後の)タイヤ交換のタイミングで前に出たり後ろになったりがなくなり、レースがシンプルでわかりやすい展開になりました。そのぶんだけ、またひと段落しましたね」

 田辺テクニカルディレクターはそう振り返るが、残り45周をハードタイヤで走り切らなければ負けてしまう。タイヤの摩耗としては事前データからいってもギリギリの距離で、実際に走り始めたドライバーたちからは「このタイヤでは最後までいけない」という無線があちこちから聞こえて来ていた。

 タイヤを労わりながら、同時に後続とのギャップも広げていく。そんな走りをフェルスタッペンは巧みに重ねていった。

「かなりの周回数を走らなければならなかったから、後ろの2台を見ながら少しずつギャップを作ろうとしていて、10周くらいはずっとセーフティマージンを築くべくプッシュしたよ。突然タイヤがタレたり、何かが起きたときのことを考えてね。

 このサーキットはタイヤに厳しいし、とくに最終セクターがタフだから、全開で走るわけにはいかない。でも、後ろのメルセデスAMG勢もペースを落としてきたから、僕も少しペースを抑えて走ることができたんだ」(フェルスタッペン)

 メルセデスAMGはここ数戦、カスタマーチームのMGU-K(※)にトラブルが散発していた。その原因が究明できていないだけに、MGU-Kから放出するERS(エネルギー回生システム)の120kWの出力を、やや抑えて走らなければならなかったのだ。

※MGU-K=Motor Generator Unit-Kineticの略。運動エネルギーを回生する装置。

 しかし、その影響はラップタイムにして0.1秒にも満たないほどだったという。メルセデスAMGが苦しんでいたのは、パワーよりもむしろ、低速コーナーでの回頭性だった。

 フェルスタッペンとレッドブル・ホンダの速さは本物だった。2位バルテリ・ボッタスとのギャップは毎ラップのように広がっていき、メルセデスAMGのピットからプッシュの指示が出ても、ボッタスはそのギャップを縮めていくことができなかった。

 最終的に15秒もの大差をつけ、フェルスタッペンはメルセデスAMG勢を寄せつけることなく、完璧な勝利を収めた。

「正直言って、ここに来るまでは勝てるなんて想像していなかったし、ポールが獲れるとも思っていなかった。彼らがエンジンを少し抑えて使わなければならなかったという記事もチラッと読んだけど、それを差し引いても僕らのパフォーマンスはかなり強力だったし、予想以上だった。タイヤを労わりながら走ったけどマシンバランスはよかったし、本当に楽しかった」

 レッドブル・ホンダのパフォーマンスが急にメルセデスAMGに近づき、追い越したわけではない。

 振り返ってみれば、1周目でリタイアを余儀なくされたサヒールGPでは予選で0.056秒の僅差に迫っていたし、苦手としてきたバーレーンGPでも2位・3位のダブル表彰台を得ていた。トルコGPでは雨で自滅したが、金曜からトップタイムをマークして予選ではポールポジション目前の走りを見せていた。その前のエミリア・ロマーニャGPでも、パンクでリタイアするまではメルセデスAMGの1台を下して2位をもぎ取っていた。

 開幕当初はCFD(数値流体解析)と実走のコラレーション(誤差補正)に問題を抱えていたため、RB16が想定どおりの空力性能を発揮せずに苦戦を強いられた。だが、様々な検証作業の末に誤差の解明に成功し、続々とアップデートを投入してきたことによって、終盤戦に入ってRB16は着実にメルセデスAMGとのギャップを縮めてきていたのだ。

 クリスチャン・ホーナー代表はこう語る。

「マシン改良を進め、ここ数戦で少しずつメルセデスAMGに近づいて来ていたことは確かだ。シーズン終盤の3分の1は大きな進歩を果たした。バーレーンGPでも先週のサヒールGPでも、マシンは非常に速かった。何が問題だったのかを我々は理解しているし、来季型マシンではその問題が対策されていることを期待している」

 その結果、最終戦アブダビGPではメルセデスAMGを上回った。2014年のパワーユニット規定導入からレッドブルが苦手とし、メルセデスAMGが勝ち続けてきたこのサーキットで彼らを上回ったのだ。

 もちろん、これはメルセデスAMGがMGU-Kに不安を抱えるなかでの結果でしかなく、これで完全にメルセデスAMGを凌駕したとは言えない。しかし、その過程にあることは確かだ。

「開幕戦からシーズン中盤戦に入るまでの(大きな差をつけられた)状況があり、シーズン中盤で一歩近づいて、そしてシーズン終盤に来てまた一歩近づき、昨日・今日はちょっと前に出たという結果で終わりました。だが、それがすべてではありません。メルセデスAMGを追い越す勢いで必死に開発していかないと、"追い越せ"にはまだまだ到達できないと思っています」

 田辺テクニカルディレクターはそう言って兜の緒を締め直す。



アブダビGPでのレッドブル・ホンダは速さが光っていた

 終わりよければすべてよし。しかし、F1を戦ううえで求められる"終わり"とは、チャンピオンシップの制覇であり、最終戦の優勝ではない。

「F1世界選手権に参戦している者としては、チャンピオンを獲ることが目標ですし、終わりよければすべてよしとは言えません。1年を通してではまだまだ王者メルセデスAMGに敵わなかったということを胸に刻み、ホンダの参戦最後の年に悔いのない形で来年の最終戦を迎えられるように、これからまた開発を進めていきたいと思います」

 アブダビを制したRB16のモノコックやサスペンション、ギアボックスなど約60%が、そのまま来季型マシンRB16Bとなる。残り40%の空力パッケージで、今年の試行錯誤から学んだことを最大限に生かし、どこまで進歩を遂げることができるかが勝負のカギになるだろう。2021年がレッドブル・ホンダにとって待ち望んだものになるかどうか、それはこのあと2カ月間の短いオフシーズンにかかっている。

 レッドブル・ホンダが絶対王者メルセデスAMGと肩を並べる地点にいることは証明された。ホンダのF1参戦最後のシーズンへ向けて、本当の勝負はここから始まる。