現在の球界を代表する日本人打者の名前を挙げろと言われたら、誰に最も票が集まるだろうか。侍ジャパンの4番候補である中田翔(日本ハム)、筒香嘉智(DeNA)は欠かせないだろう。二刀流で圧巻の活躍を続ける大谷翔平(日本ハム)も、打球の飛距離はナン…

現在の球界を代表する日本人打者の名前を挙げろと言われたら、誰に最も票が集まるだろうか。侍ジャパンの4番候補である中田翔(日本ハム)、筒香嘉智(DeNA)は欠かせないだろう。二刀流で圧巻の活躍を続ける大谷翔平(日本ハム)も、打球の飛距離はナンバーワンとも言われている。豪快な打撃で沸かせる柳田悠岐(ソフトバンク)も候補の一人。今季堂々たる成績を残した鈴木誠也(広島)は来年以降、球界トップの打者になれる可能性を秘めている

■“野村の懐刀”が明かすヤクルト山田の凄さ、「今風の野球選手」が史上初の偉業

 現在の球界を代表する日本人打者の名前を挙げろと言われたら、誰に最も票が集まるだろうか。侍ジャパンの4番候補である中田翔(日本ハム)、筒香嘉智(DeNA)は欠かせないだろう。二刀流で圧巻の活躍を続ける大谷翔平(日本ハム)も、打球の飛距離はナンバーワンとも言われている。豪快な打撃で沸かせる柳田悠岐(ソフトバンク)も候補の一人。今季堂々たる成績を残した鈴木誠也(広島)は来年以降、球界トップの打者になれる可能性を秘めている

 ただ、最も多くの票を集めるのは、山田哲人(ヤクルト)ではないだろうか。今季は怪我での離脱がありながら、打率.304、38本塁打、102打点、30盗塁をマーク。史上初の2年連続トリプルスリー(打率3割、30本塁打、30盗塁)という偉業を達成した。ゴールデングラブ賞こそ名手・菊池涼介(広島)に譲ったが、二塁手として3年連続ベストナインに選出。24歳にして、歴史に名を残す成績を収めている。

 山田は2010年のドラフト会議で“外れ外れ1位”でヤクルトに入団。当時、これほどの素質を持った選手と見ていた人間は少なかったのではないだろうか。現役時代に南海、ヤクルトでプレーし、引退後は野村克也氏から絶大な信頼を寄せられてヤクルト、阪神、楽天でヘッドコーチや2軍監督を務めた松井優典氏は、山田の入団時に2軍の育成コーチと寮長を兼務していた。数々の名選手を見てきた“野村の懐刀”の目に、入団当初の山田はどう映っていたのか。

 松井氏は「山田がここまでやるとは思いませんでした」と率直な胸の内を明かす。

「レギュラーにはなるとは思っていました。最初からそういう印象はありました。相当な素材だと。1年目のキャンプで一番最初の実戦を見た時に『これは絶対に一流になる』と思いました。スイングスピード、走るスピードの速さ、一番良かったのはボールに対しての対応力。そういうものを見た時にこれはレギュラーになると。

 ただ、トリプルスリーをやるとは思わなかった。レギュラーになって、球界を代表するショートくらいにはなるかなと。ベストナインに選ばれるとか、そのあたりまでは行くかなという印象は持っていました。ただ、まさか(ホームランを)30本打つとは思わなかった。20本打てばいいかなという感じでした。20本と30本の差というのはかなりありますから。あとは走攻守のバランスが取れた選手を目指してほしいと。ただ、今はかなり高いレベルでバランスが取れていますからね」

■寮で生活していた山田に「美談はない」

 では、なぜ才能はここまで開花したのか。松井氏は「ここまでなれたのは、本人の力はもちろんだけど、杉村(繁1軍打撃コーチ)とか三木(肇1軍作戦コーチ兼内野守備走塁コーチ)の存在は外せない」と前置きした上で、入団当初から山田が寮で見せていた“意外”な素顔を振り返ってくれた。

「入団当初の一番最初のミーティングで、山田は服の中に手を入れてお腹を掻きながら話を聞いていました。それを『何してんだ!』と注意した。それがスタートでした。少し“天然”というか、そこが野球でも生きている。一言で言えば、今風の野球選手です。

 例えば、今年セ・リーグのMVPを取った新井(広島)がプロに入ってきた時なんかは、細くて、一から十まで教えてもらって、それを朝から晩まで練習していた。山田はこういうスタイルが似合わない選手。寮で黙々とバットスイングしていたとか、そういう美談はないんです。『俺はこうするんだ』というこだわりなどを持たないで、自分のやりたいことを一生懸命やる。

 その後に、杉村がティーバッティングを毎日やらせたというけど、あのくらいは毎日、誰でもやっている。いろんなアイデアを活かした中でのトレーニング方法を取り入れたとしても、あのくらいの数はみんなこなしているものです。努力して、一生懸命、朝から晩まで、という話は正直あまりない」

 決して、がむしゃらに努力をしてきたタイプの選手ではない。ただ、その中で才能を開花させることができた。2軍監督として多くの若手選手を育ててきた松井氏は、これも山田の素質の一つだと分析する。

「潜在能力と、それを発揮する能力という2つがプロ野球選手には必要です。潜在能力がある選手はたくさんいるけれど、力を出す能力がなくて、『いいもの持っているな』と言われながら引退していく。そういう選手がいっぱいいる。ただ、山田の場合は自分の感覚の中でそういうものを持っていた。努力の効率がいい」

■大きかったセカンドへのコンバート、真中監督の決断

 また、セカンドへのコンバートも大きなターニングポイントだったと松井氏は振り返る。履正社高では強打の遊撃手として甲子園でも活躍し、ヤクルトに入団してきた山田だが、真中満監督が2軍監督時代の2013年にセカンドへのコンバートを決断。そこから力を発揮し始めた。松井氏は続ける。

「(入団当初)山田はショートとして一流になると思っていました。ただ、一番の欠点が、技術的にはスローイングでした。今でも苦労している。我々(2軍スタッフ)はショートとして育成して、なんとか大成してもらいたいという思いが強かった。スローイングを修正できないかとか、そういう方向で考えていました。そこで視野を変えたのが真中監督。当時2軍監督で、ショートからセカンドにコンバートしたのが真中監督でした。これが大ヒットだった。山田の一番の成功の要因は、セカンドに変えたこと。大きなターンングポイントだったと思います。

 我々としたら、まだ経験を積んで、ショートでも教えることがあるだろうし、教えないといけないという思いがみんなあったと思うけど、それを真中監督が変えた。その視点が一つの大きなポイントだった。指導者としては、『若いから何とかショートで』と思うものです。ただ、それを3年目に変えて、それがきっかけになって、打ちだした。山田は1年目のプレーオフでもメンバー入りしていて、ブレークしてもらいたというのはあったんだけど、成長の度合いがちょっと停滞期を迎えたのが2年目だった。ただ、そのあとはもうグングンと上がっていった」

 スローイングの不安がなくなり、精神的な負担も減った山田は、打撃で圧倒的な力を発揮。シーズン193安打、そして2年連続トリプルスリーと偉業を達成し続けている。今季もシーズン途中まで快調に飛ばしていただけに「怪我しなかったら40-40(40本塁打、40盗塁)。そういう可能性もありました。来季以降は40-40に期待したい」と松井氏は言う。

「例えば、糸井(阪神)の方が潜在能力は凄い。体は大きいし、スライディングして次の塁に進む時のステップなんか、彼のような大きな男がやるようなステップじゃない。ああいうところを見ると身体能力はすごい。山田も糸井のように全ての能力を発揮するようになれば、もっともっとやれる。そこに山田の凄さがある」

 来季は3年連続トリプルスリー、そして日本球界初の「40-40」へ。山田の成長曲線に終わりは見えない。