7月の開幕からわずか5カ月で17戦----。激動の2020年シーズンが、いよいよ終わろうとしている。 レッドブル・ホンダにとって、開幕前に思い描いていたチャンピオン争いとは、ほど遠いシーズンとなってしまった。シーズン最終戦に臨むレッドブル…

 7月の開幕からわずか5カ月で17戦----。激動の2020年シーズンが、いよいよ終わろうとしている。

 レッドブル・ホンダにとって、開幕前に思い描いていたチャンピオン争いとは、ほど遠いシーズンとなってしまった。



シーズン最終戦に臨むレッドブル・ホンダ

 開幕当初からRB16のリアエンドには致命的な不安定さがつきまとい、ホンダのパワーユニットも匹敵すると予想していたメルセデスAMGには及ばなかった。シーズンを通してその改良を進めギャップを縮めてきたものの、いまだメルセデスAMGの尻尾を掴むには至っていない。

 2021年シーズンも、今季型マシンRB16をベースにしたマシンで戦うことになる。それだけに、今シーズンのうちにその問題点を徹底的に究明し、対策を見つけ出しておくことは必要不可欠だ。

 最終戦アブダビGPは、その最後のチャンスとなる。

「最終戦にあたって、レッドブル、アルファタウリ両チームともにランキングが確定したなか、我々としても最善を尽くしていい形で今年を締めくくり、来年につなげるところを主題として進めていきたいと思っています」

 ホンダの田辺豊治テクニカルディレクターは、アブダビGPに向けてこう語る。

 レッドブルはポルトガルGPのポルティマオに2021年型想定のフロアを持ち込んで走らせていた。このアブダビにも来季を想定したアイテムを持ち込み、実走テストを行なう。

 ホンダもパワーユニットの使い方の面で、来季に向けたデータ取りを行なうという。そのデータがガラリと設計変更されている来季型の開発に役立つことになる。

「チーム側は試しておきたいアイテムを持ってきて、試してダメなら引っ込めて、来年に向けてもう一度アップデートするということです。パワーユニットとしてもここをしっかりと走り切れると、来年に向けての耐久性の確認サンプルになりますので、そこまできっちりと走らせたい」

 これまで、信頼性がホンダのアキレス腱だと思われていた。

 しかし、今季は4台ともに年間3基のパワーユニットでここまでやってきて、この最終戦アブダビでも突発的なことでもなければ追加の投入は予定していないという。

「今のところ戦略的なパワーユニット交換は一切考えていません。予選での空タンクでの乗り方と、決勝のフルタンクでタイヤデグラデーション(性能低下)もあるなかでの乗り方、それらがベストになるバランスで使ってきています。シーズンの最後で疲れちゃっているから少し落として使う、というような対応はありません」

 F1サーカスはバーレーンの2連戦から、そのままチャーター便でアブダビへと飛んだ。

 新型コロナウイルスの感染拡大により、厳しいロックダウン状態にあるアブダビへは特例で入国している。到着後はサーキットのあるヤス島のホテルにパトカー先導でバス移動し、ヤス島は高い壁で囲われて完全に隔離状態にあるため、F1関係者がそこから外に出ることは許されていない。

 PCR検査で陽性と判断されても、おいそれと代役スタッフをヨーロッパから呼び寄せられるような状況ではない。そのため、絶対に感染するわけにはいかないという大きな重圧のなかで関係者たちは過ごしている。

 そしてそれは、この3週間に限ったことではない。開幕前からずっと続いているものであり、その重圧がわずか5カ月間のシーズンを長く重苦しいものにしている。

 家族とともにイギリスに駐在しているレッドブルのスタッフでさえ、自宅で過ごす時間はごくわずかだった。ホンダの場合は日本から現地に赴くスタッフもおり、彼らは開幕前から一度も日本に帰ることなく現場で戦い続けている。

「日本から出張してきているメンバーにとっては、つらいシーズンだったと思います。山本(雅史マネージングディレクター)も1回しか日本に帰っていませんし、現場のクルーのなかには1回も帰っていない人もいます。

 常に『ありがとう』という気持ちですが、今の段階になると『(帰国まで)もうすぐだね』と聞いたら『(帰ったら)泣きます』と言っていました。そのくらい、厳しい仕事をお願いしているということです」

 今年はパワーユニットの開発が凍結され、あとは現場の"使い方"でどうにか工夫し、少しでもメルセデスAMGとの差を縮めるべく努力するしかなかった。さらに予選・決勝でICEの燃焼モードを変更できないルールがシーズン途中から導入されたため、現場の負担はさらに大きくなった。

 そして、突然のF1撤退の報せ。

 彼らがそんな苦境のなかでも最後までモチベーションを保ち続けたのは、やはりホンダとしてF1という世界の頂点で戦うことの意味を知っているからだ。

「我々は何のためにF1に挑戦しているのか? その最前線に立つ自分は何をしなければならないのか? それを理解したメンバーがこの現場に来ていますから、苦しいのはもちろん苦しいですが、みんな弱音を吐かずに戦っています。

 家族と会えない、妻や子どもたちと会えない......非常につらい思いをしてもらっています。とにかく『ありがとう』という言葉しかない。ただ、最後のレースでやっと帰れると浮き足だってはいけませんから、『最後はガッチリ行こうぜ』という話もしています」

 苦しいシーズンの最後をしっかりと戦い、2021年の飛躍に向けて最大限に利用する。最終戦アブダビGPは、目の前の結果だけでなく、来季の逆襲につながる大事なレースとなる。