サヒールGPの表彰台に、メルセデスAMGの姿はなかった。ピエール・ガスリーが優勝したイタリアGP以来、今季2度目の波乱だ。 純粋な速さではどうしても打ち破ることができないメルセデスAMGが、ピットストップ時のタイヤ管理ミスで後退した。レッ…

 サヒールGPの表彰台に、メルセデスAMGの姿はなかった。ピエール・ガスリーが優勝したイタリアGP以来、今季2度目の波乱だ。

 純粋な速さではどうしても打ち破ることができないメルセデスAMGが、ピットストップ時のタイヤ管理ミスで後退した。レッドブル・ホンダにとっては、間違いなく優勝の大きなチャンスだった。



フェルスタッペンのレースはスタート直後に終わった

 しかし、レッドブルもそこにはいなかった。

「レースなので何があるかわかりませんし、"勝てるはず"と言うほど図々しくはありません。しかし、王者メルセデスAMGがいてそこに追いつけない。彼らが自ら後退してくれれば、我々が勝つチャンスは高かったと思っています。今年を振り返れば、トラブルやミスもあって勝てるレースを落としてきたのは痛かったですし、今日もまた落としたのは非常に残念だなと思っています」

 ホンダの田辺豊治テクニカルディレクターがこう振り返るように、レッドブル・ホンダは絶好のチャンスを逃したことになる。

 70周年記念GPでは、メルセデスAMGの綻びに乗じて勝利を収めた。しかしそれ以降、モンツァやイスタンブールなどメルセデスAMGがミスを犯したレースは何度かあったにもかかわらず、レッドブルはそれ以上に大きなミスを犯したり不運に見舞われたりして、それを掴み取ることができなかった。

 サヒールGPでは、スタート直後のターン4でマックス・フェルスタッペンが他車の接触に巻き込まれてクラッシュを喫した。

 ターン1手前でメルセデスAMGの2台に挟まれて行き場を失い、ターン2ではリアを滑らせたバルテリ・ボッタスを避けるためにバックオフを余儀なくされ、そしてターン4ではボッタスとセルジオ・ペレスに左右を挟まれて先にブレーキングをして引かなければならなかった。

 それだけリスクを冒さず安全に行ったにもかかわらず、イン側のシャルル・ルクレールと接触し、スピンしたペレスを避けようとランオフエリアに退避せざるを得なかった。

「スタートはよかったんだけど、前を押さえ込まれて行き場を失ってしまったから、僕はできるだけ問題に巻き込まれないようにしようとした。だけど、周りのみんなはすごくアグレッシブで、リスクを冒した走りをしていた。まるで最終ラップかのようなリスクの冒し方だったよ。

 今日はいいレースができるマシンに仕上がっていたはずだし、チャンスもあった。それだけにこんなに早くレースが終わってしまって、とてもフラストレーションが溜まる」(フェルスタッペン)

 たしかに、そこまでは不運の連続だった。だが、舗装のランオフエリアの先にはグラベルがあり、速度を維持したままそこに突っ込んでコントロールを失ったのは不用意だった。

 この接触で最後尾まで落ちたペレスが実質的な1ストップ作戦で追い上げて劇的な初優勝を飾っているだけに、無難にコース復帰を果たしていれば、レーシングポイントよりも速さのあるレッドブルをドライブするフェルスタッペンが勝利を収めていた可能性は高かったと言える。クリスチャン・ホーナー代表も「今日は間違いなく優勝争いができたはず。それだけに本当に残念だ」と振り返った。

 アレクサンダー・アルボンは1周目の混乱を切り抜けたものの、その後のペースが振るわず中団グループの中から抜け出せなかった。

 しかし、レース前半はペレスの前を走り、21周目に抜かれたあともその背後を走り続け、55周目までペレスの後ろにいた。

 だが、最終的に表彰台に立ったランス・ストロールやエステバン・オコンをペレス同様に抜くことはできず、62周目にセーフティカーが導入されたところでピットインしてソフトタイヤに履き替え、6位から10位へ後退。ソフトタイヤでの猛追を期待されたが、6位までしか挽回できなかった。ジョージ・ラッセルのパンク以外は3台を抜いただけで、実際にはこのピットストップも失敗だったことになる。



サヒールGPでF1初優勝を飾ったセルジオ・ペレス

 予選で12位に終わってしまったことや、アルボン自身のドライビングにキレがないのもさることながら、レッドブルがどのチームよりも多くのダウンフォースをつけ、どのマシンよりもストレート最高速が遅かったことも大きく影響していた。

 各車がトレイン状態でつながって走っていると、全員がDRS(※)を使ってしまいDRSの効果がゼロになってしまうから、本来の最高速が遅ければ勝負にならない。

※DRS=Drag Reduction Systemの略。追い抜きをしやすくなるドラッグ削減システム/ダウンフォース抑制システム。

「ストレートが遅いのはわかっていたことで、DRSが使える時はなんとかほかのクルマについていくしかないと思っていたけど、実際にオーバーテイクをするのはものすごく難しかった。

 前のクルマを抜くには、ターン1で強引に飛び込んでいくしかなかった。僕らはセクター2のようなところでは速かったんだけど、そこでは追い抜きはできないからね。今日の僕らのダウンフォース設定ではものすごく厳しいレースだったよ」(アルボン)

 結局のところ、メルセデスAMGの自滅という最大のチャンスを、レッドブル・ホンダは2台ともに生かすことができなかった。それもひとつの理由ではなく、さまざまなミスが積み重なっての結末だ。

 マシンパッケージとしての実力で負けて勝てないいつものレースよりも、メルセデスAMGがいなくなって間違いなく最速のマシンだったサヒールGPで勝てなかった痛手と落胆は大きい。

 2020年はもう最終戦アブダビGPを残すのみとなった。来季の挑戦に向け、完全に膿を出し切るようなレース週末を送るべく、最大限の準備を進めてもらいたい。