速く、美しく、挑戦し続ける女性ドライバーたち 第6回 梅本まどか 後編 SKE48元メンバーのコ・ドライバー梅本まどか近年、世界のモータースポーツを統括する国際自動車連盟(FIA)や自動車メーカーが若手女性ドライバーの育成・発掘に力を入れ始…

速く、美しく、挑戦し続ける女性ドライバーたち 
第6回 梅本まどか 後編 



SKE48元メンバーのコ・ドライバー梅本まどか

近年、世界のモータースポーツを統括する国際自動車連盟(FIA)や自動車メーカーが若手女性ドライバーの育成・発掘に力を入れ始めた。いまだ男性中心の競技ではあるが、サーキットレース、ラリー、ドリフトなどで活躍する女性ドライバーは増加傾向だ。そこで、国内外のさまざまなカテゴリーで挑戦を続ける日本の女性ドライバーにインタビューした。

第6回は、アイドルグループSKE48元メンバーのドライバー梅本まどか。アイドル時代にモータースポーツに出合い、魅了されたという梅本はグループ卒業後にラリーのコ・ドライバー(走行の手助けをする選手)になった。入門用のラリー競技に参加すると、初年でチャンピオンを獲得し、全日本選手権にステップアップ。今季はコロナ禍で中止となった最高峰の世界ラリー選手権(WRC)に出場予定だった。芸能からモータースポーツの世界へと、輝く舞台を変えた梅本にインタビューした。

ーーSKE48を卒業した当時、その後、世界ラリー選手権(WRC)の出場権を得ることは想像できましたか? 

梅本 まったくできませんでした。あの頃はラリーそのものを知らなかったですから(笑)。私はスーパーフォーミュラ(SF)やF1をきっかけにモータースポーツに興味を持ちましたが、その後、スーパーGTなどの「箱車」のレースを知り、ジムカーナやダートトライアルにも興味が広がっていき、ラリーという競技を知りました。

ーーラリーのどんなところに惹かれたのですか? 

梅本 ドライバーとコ・ドライバーのふたりでペアを組んで戦うことですね。そこが他の競技と違います。ふたりだからこそ、いい時も悪い時も、あらゆる場面で絆が試されます。相性が悪かったら、長いラリーを最後まで生き残ることはできません。そこが面白くて、難しいところです。

 それからサーキットレースとは違って、市販車に近いマシンで公道をタイムアタックしていきます。厳密に言えば異なる部分もありますが、市販車ベースのクルマで、公道を激しく走るのが、見る側もやる側にとっても魅力だと思います。



ラリーではドライバーのナビゲーションを行なう梅本

ーーラリーでコ・ドライバーを務めていますが、どのような役割を果たすのですか?

梅本 シンプルに言うと、ドライバーのナビゲーションです。ラリーはドライバーとコ・ドライバーがタッグを組んでスペシャルステージ(SS)と呼ばれる競技区間をタイムアタックするのですが、ドライバーは視覚だけに頼って走るのではなく、コ・ドライバーがコースや路面の状況を記した「ペースノート」から読み上げた指示を聞きながら運転します。

 競技中は、ドライバーが気持ちよく走れるようにノートを読むタイミングがすごく大事です。リエゾンというSSとSSの間の移動区間にもドライバーのモチベーションが上がるようにほめたり励ましたりしながら、スケジュールを管理し、さらにチームと連絡を取ってクルマの状況を相談したり、情報収集をしたり......。やることがいっぱいあります。

ーーコ・ドライバーをしていて、最も大変なことは何ですか?

梅本 始めた時に周囲から一番に心配されたのが揺れに対するクルマ酔いです。でも私は、クルマに限らず、船でも、人生で一度も酔ったことがないので、そこは強いと思います(笑)。

 大変なのはやっぱりペースノート作りです。ドライバーによって作り方が変わってくるのが難しいところ。例えば、ラリーではコーナーの角度の大きさを数字で示すのですが、細かく指示を出してほしい人もいれば、逆に細か過ぎると嫌がる人もいます。ノートを読み上げるのは日本語ではなく英語じゃないとダメという人もいますし、ドライバーによってさまざま。苦労はありますが、うまく合わせられてドライバーが気持ちよく走ってもらえた時は快感です。

ーーラリーでは、ペースノートの出来が結果を左右すると言われますね。

梅本 そのとおりだと思っています。いいペースノートができれば、あとはドライバーを気持ちよく走らせればいい。コ・ドライバーにとっては競技中よりもコースの下見を行なう「レッキ」が、ある意味本番なんです。

 レッキの際は、車載カメラで映像を撮りつつ、ドライバーのコメントや自分の感じたことをノートに書いていきます。その後、映像を見直すと、映像と自分の印象が違うことが多々あります。最終的には感覚を優先してノートを作りますが、書き込んでいる時にガタガタ道だと、文字が揺れるじゃないですか。それもひとつの情報になりますが、そのあたりは映像ではわからないことですね。

 レッキで情報をどれだけ吸い上げられるかと気を張りすぎて、頭がパンクしそうになることもあります。レッキは永遠の課題かもしれません。

ーーこれまでさまざまなラリーに出場してきましたが、最大のピンチは何ですか?

梅本 これもやっぱりレッキです。私はまだラリー歴が浅いですが、昨年11月にWRCラリージャパンの開催に向けた国際格式のテストラリー「セントラルラリー愛知・岐阜」に出場しました。その時のレッキは本当に難しかったです。全日本選手権ではSSに分岐があったらなんとなく方向がわかるんです。でも、国際格式のセントラルラリーは道が全然わからないようになっていました。

「ええ? ここで曲がるの!」と思う場所がいくつもあって、ドライバーのコメントをノートに書きながら距離を測ってコースを把握する必要がありました。やることが一気に増えて、頭がパンクしそうになりました。

 今年出場予定だったWRCのドイツ大会はもっとすごかったです。レンタカーでコースの下見をしてきたのですが、ブドウ畑がずっと続いていて景色がまったく変わらないんです。道は細いし、分岐もすごく多い。何度かコースを外れてしまい、難しさを痛感させられました。

ーーコ・ドライバーではなく、ラリードライバーに挑戦したい気持ちはありますか? 

梅本 私はダメです。人(コ・ドライバー)を乗せて、クラッシュするかもしれないなんて考えられません(笑)。もともと争うことが向いていないですし、ドライバーは無理だと思います。

ーーしかしアイドル活動はある意味、競争という印象です。メンバーがたくさんいる中で「目立ってなんぼ」の世界ではなかったですか?

梅本 私は小さい頃からダンスやバレエをやってきて、SKE時代もセンターに立ちたいと思ってやってきました。でもアイドルになった時、同期で最年長だったんですね。オーディションに受かった時、「あなたはトップを目指すよりも、グループのリーダーになって、チームを盛り上げてほしい」と言われました。それで自分が目立つことよりもチームのことを考えてずっと活動してきました。

 グループはメンバーがいっぱいいるので団体競技のようなもの。それぞれのキャラクターを活かし合うところが楽しかったです。ただ相手が何を考えているのかがわからなければ、コンビネーションを生み出すことはできません。コミュニケーションは絶対に密に取らなければならないです。そういう経験や考え方が、コ・ドライバーにも活きていると感じています。

 とにかく自分の中ではドライバーをすごくリスペクトしています。自分で走るよりも、隣に乗っているドライバーを輝かせたいという気持ちが強いです。

ーー何度かサーキットレースには出場しているようですね。 

梅本 サーキットをひとりで走るのは楽しいのですが、レースではバトルしたくない、クルマをぶつけたくないって思ってしまうんです(笑)。バイクでも初心者向けのレースに出たのですが、後ろからエンジン音が聞こえると、早く抜いてくれーって(笑)。

ーー性格的にコ・ドライバー向きなのかもしれませんね。 

梅本 ドライバーはどこか"キレている"というか、アドレナリンを一気に出せるような人じゃないとできないと思います。できるのは本当に限られた人だけで、だからこそ尊敬できます。私はそうしたリスクを背負って走るのは向いていません。

 ジムカーナやダートトライアルのようなタイムトライアル競技はやりたいと思いますが、あくまでもドライバーの気持ちを知ることが目的です。ドライバーを経験したほうがよりコ・ドライバーの質が上がりますから。他の選手と競い合うレースは正直、見るだけでいいですね(笑)。

ーー最後に今後の夢を教えてください。 

梅本 来年、WRCラリージャパンへの出場が決まれば、クラスが違いますが、勝田貴元選手のような世界で活躍するトップドライバーと同じコースを走れます。それは本当にうれしいことですし、ラリーの醍醐味のひとつだと思います。WRC出場のチャンスはなかなかありません。何とかに出場に漕ぎつけて、いい結果を残すこと。それが目標です。

【profile】 
梅本まどか うめもと・まどか 
1992年7月17日、愛知県生まれ。2010年にSKE48の第4期生としてデビュー。16年に卒業し、現在は地元の名古屋を拠点にタレント活動をしながら、バイクや自動車のメディアを中心に活躍。ラリーには18年、「TOYOTA GAZOO Racingラリーチャレンジ」にてコ・ドライバーとして出場し、参戦初年度にC-1クラスでチャンピオンに輝く。19年から、国内最高峰の全日本ラリー選手権にドライバーの板倉麻美とのコンビで参戦中。