「近い将来、桜のジャージーを担うだろう」 近年の大学ラグビー界において、関係者がこぞって期待している選手がいる。身長188cm体重107kgの見事な体躯を誇る、明治大のNo.8(ナンバーエイト)箸本龍雅(はしもと・りゅうが/4年)だ。今年の…

「近い将来、桜のジャージーを担うだろう」

 近年の大学ラグビー界において、関係者がこぞって期待している選手がいる。身長188cm体重107kgの見事な体躯を誇る、明治大のNo.8(ナンバーエイト)箸本龍雅(はしもと・りゅうが/4年)だ。



今年の明治大を束ねるキャプテンの箸本龍雅

 一昨年度は2年生ながら、明治大22年ぶりの大学選手権優勝に大きく貢献。昨年度は決勝戦で敗れたが、今年度はキャプテンに就任して王座奪還に燃えている。

 新型コロナウイルスの感染拡大により、関東大学ラグビー対抗戦は例年より1カ月遅れて10月4日に開幕。昨年度に全勝優勝した明治大は連覇に向けてスタートを切ったものの、11月1日の慶應義塾大戦で黒星を喫してしまう。

 しかし、帝京大や筑波大などに勝利し、最終戦を前に5勝1敗。そして12月6日、6戦全勝のライバル早稲田大との「早明戦」に臨む。明治大にとっては、昨年度の大学選手権決勝で敗れた相手へのリベンジであり、この試合に勝利すれば対抗戦の連覇も決まる。

 紫紺のジャージーのスキッパーを託された箸本は、開幕前から「大学選手権で早稲田と対戦して優勝したい!」と語気を強めて意気込んでいた。昨年の悔しい瞬間を忘れないように、携帯電話の待ち受け画面を「早稲田大学が優勝して喜んでいる写真」に設定したほどである。

 今年度の明治大は、昨年度の反省を踏まえて「先を見すぎないで、ひとつひとつ」の意味を込めて、スローガンを「One by One」と定めた。箸本は大一番の早明戦を前に「チームの勝ち負けも大事ですが、局面、局面の1対1では絶対に負けたくない」と、スローガンを心に宿して臨む。

 来年の1月11日に国立競技場で行なわれる大学選手権の決勝までは、多くて5試合負けられない試合が続く。箸本は自分たちの代で再び大学王者になるために「一番大事なのは準備。大学選手権はどれだけ準備したかの勝負なので、やり過ぎたというくらい準備したい」と語った。

 コロナの影響により、4月から3カ月はまったく全体練習を行なうことができなかった。明治大では箸本を筆頭にリーダー陣は選手寮にとどまり、フィジカルやフィットネストレーニングを続けていたという。7月中旬に行なった自粛明けのフィットネステストで、箸本は自己最高記録を叩き出した。

 そんな抜きん出たフィジカルを誇る箸本は、1998年に福岡県で誕生した。小学校1年から玄海ジュニアラグビークラブで競技を始めたが、小学・中学時代はどちらかというとサッカー少年で、司令塔やボランチでプレーしていたという。あまりラグビーに熱心ではなく、「小学校の頃は理由をつけて、月に1度くらいしかクラブにいかなかったですね」と懐かしそうに振り返る。

 しかし、中学校時代にアビスパ福岡の下部チームと対戦して大敗し、「サッカーのトップはこんなにすごいのか!」と高校でサッカーをやることをあきらめた。ラグビーも「高校になったらやめたい」と思っていたが、親に「中学のスクール選抜のセレクションに行け」と言われ、渋々行ったという。すると、見事に選抜に選ばれて「だんだんラグビーが楽しくなってきた」と話す。

 その後、福岡県スクール選抜の一員として中学時代に全国優勝を果たし、強豪として知られる東福岡高に進学。中学時代まではCTB(センター)などBKでプレーしていたが、ふたつ年上のSO(スタンドオフ)松尾将太郎(東福岡高→明治大→NTTコム)たちとプレーした時に「スピードやスキルがまったく違っていて......」と感じ、箸本は「FWに行ってもいいですか?」と自ら転向を決めた。

 FWへの転向について、箸本は「スピードは少し自信があったので、そのスピードを保ったままNo.8などでいろんな動きができたら」と振り返る。この自らの決断が功を奏した。

 藤田雄一?監督の指導のもとFWとして頭角を現すと、高校2年時から東福岡高の主力となり、U17日本代表、高校日本代表に選出。高校3年時には主将として花園優勝にも貢献し、その頃から「いつかは日本代表になりたい!」という思いが芽生えていた。

 大学進学時は、早稲田大とどちらを選ぶか悩んだという。しかし、「伝統的にFWが強いチームに行ったほうが成長する」と藤田監督のアドバイスも受けて、明治大に入学する。

「滝澤(佳之)FWコーチを中心に、最初はLO(ロック)としてスクラムやブレイクダウンといったFWの基本的なところをゼロから学ばせてもらいました。明治大に入学して本当によかった」

 結果、大学1年から明治大の中心選手として活躍。ジュニアジャパンやU20日本代表といったユース世代の代表も経験した。

 そして2019年のワールドカップ。日本代表が史上初のベスト8進出を決めたスコットランド代表戦を箸本はスタジアムで生観戦した時、「あらためて、日本代表になって応援されるのっていいな、あの大観衆でプレーしたい、次のワールドカップは自分も出たい」との思いを強くしたという。

 そんな矢先、今年1月に箸本はスーパーラグビーのサンウルブズに練習生として招集された。当時早稲田大4年のSH(スクラムハーフ)齋藤直人(現サントリー)や天理大のCTBシオサイア・フィフィタがスーパーラグビーを経験するなか、箸本が試合に出ることは叶わなかったが、サンウルブズでの経験は大きかったという。

「自分に足りないところが明確になりました。外国人相手には少しでも上体が高いと持ち上げられるなど、厳しさを学んだ。今、自分が通用しているのは日本の大学生レベル。もっと身体を強くして、スキルも磨いていかないといけない」

 大学ラグビー生活も残り1カ月半ほど。対抗戦での早明戦、そして最後の大学選手権と、勝負の時が迫っている。箸本はまっすぐ前を見据えて、こう語った。

「勝敗に関係なく、後悔したくない。自分たちの代が終わった時、本当にひとりひとりがこの学年でよかった、明治で過ごせてよかったと思えるようにしたい」

 紫紺のジャージーをまとった「8番」が目立つ展開になれば、今年度こそ明治大が新国立競技場でカップを掲げる姿を見ることができるはずだ。