大波乱のバーレーンGPを終えてもなお、F1界の波乱は終わらなかった。王者ルイス・ハミルトンがレース翌日に新型コロナウイルス陽性反応を示し、欠場を強いられることになったからだ。 メルセデスAMGは月曜深夜から急遽ジョージ・ラッセルをウイリア…

 大波乱のバーレーンGPを終えてもなお、F1界の波乱は終わらなかった。王者ルイス・ハミルトンがレース翌日に新型コロナウイルス陽性反応を示し、欠場を強いられることになったからだ。

 メルセデスAMGは月曜深夜から急遽ジョージ・ラッセルをウイリアムズから呼び戻し、今週末のサヒールGPに代役起用することを決めた。2017年GP3、2018年FIA F2とタイトルを獲得し、F1に昇格したメルセデスAMG期待の育成ドライバーがついにワークスチームのシートに座ることとなった。



サヒールGPでのフェルスタッペン(左)とアルボン(右)

 メルセデスAMGの速さは変わらない。しかし、王者ハミルトンの不在は、ライバルたちにとって付け入る隙ともなり得る。

 いかにラッセルが優れたドライバーであろうと、この2年はウイリアムズで走っており、メルセデスAMGのシミュレーターを体験していなければ、今回使うシートも3年前に作成したものだ。両エースドライバーより12cmも身長の高いラッセルは、コクピットに身体を収めるために本来のサイズより小さなシューズを履くことを強いられ、それでもヘルメットは本来あるべき位置よりも高く飛び出している。

「いつも(レッドブルの前に)メルセデスAMGがいる、いつもハミルトンがいる......とは違う形でのレースになりますが、それはそれとして、我々としては持てる力を100%発揮できるように準備して予選・決勝を戦うことはいつもと変わりません」

 ホンダの田辺豊治テクニカルディレクターはこう語るが、レッドブル・ホンダにとって課題もある。それは、バーレーン・インターナショナル・サーキットの"アウタートラック"と呼ばれる3.543kmの外周ショートコースは実質4つしかコーナーがなく、それ以外はストレートだということだ。

 当然、スロットル全開で走る割合は長くなる。全開率77%のモンツァほどではないにしても、それに近い全開率になりそうだと言う。

「実際に走ってみてからでないと詳しいことは言えませんし、モンツァほどではないかと見ていますが、かなり高くてトップレンジに入っていることは間違いないですね」

 現状、シーズン中の開発が凍結されているパワーユニットは、メルセデスAMGが最強で、そこからやや後れてホンダだと言われている。ということは、全開率の高いサーキットレイアウトで戦う今週末は、先週のバーレーンGPよりも苦しくなる可能性が高いと考えるのが当然だ。

 マックス・フェルスタッペンはこう語る。

「このレイアウトが追い風になるのは、パワーのあるマシンだけだよ。僕らにとっては先週よりも少し難しい週末になると予想している。このコースレイアウトではラップタイムはすごく僅差になるだろうから、僕らよりも後ろの中団勢との差が縮まる。簡単な週末になるとは思っていないよ」

 対メルセデスAMGで厳しいだけでなく、レッドブルにとっての"稼ぎどころ"であるコーナー数が少ないということは、中団グループのマシンに対しても差をつけにくいことを意味する。つまり、モンツァのレースがそうだったように、中団グループの中に埋もれてしまう可能性もあるというわけだ。

 ただし、モンツァの時は車体がまだ問題を抱えていた。それが徐々に改良されてきているだけに、アレクサンダー・アルボンは「モンツァのような惨劇(フェルスタッペン=リタイア、アルボン=15位)は起きないだろう」と言う。

「モンツァの時は車体もよくなかったけど、そこからマシンは改良が進んで、先週もいいフィーリングだった。だから今週はモンツァよりもいい展開になることを期待しているよ」

 実際、全開率が高いとはいえ、タイトコーナーが4つあり、今週末はモンツァほど極端にダウンフォースを削ってストレート重視のセッティングにはしないと見られている。

 以前なら、パワーサーキットでは気合いを入れてセッティングを変え、エンジンからパワーを引き出すこともできた。だが、シーズン後半戦に導入された予選・決勝シングルモードの規定によって、ピンポイントでの攻めたセッティングで勝負をかけることができなくなっている。パワーユニットメーカーとしてはやれることが減り、FIAの当初の狙いとは逆に、決勝でのパフォーマンス差は広がっているようなところもある。

「TD37(予選・決勝シングルモード)の件もあって、4台のパワーユニットを足並み揃えて使っていかなければならなかったり、今季3基目を使っていて(マイレージが)足りなそうな個体もあって、そこで何かがあると困りますから、冒険的なことはやりにくくなっています。以前は"前借り"みたいなこともできましたが、TDのおかげで(パワーユニットを使う)自由度が大きく削がれている感はあります」

 セクター1とセクター3は先週と同じだが、全開で抜けるS字とタイトなシケインのセクター2は未知数。路面コンディションも読めない。

 シミュレーター上では1周54〜55秒のラップタイムが刻まれているといい、一見不利に見えるレイアウトだが、未知の部分も多いだけにどう出るかわからない。

 王者ハミルトン不在のメルセデスAMGに、レッドブル・ホンダはどこまで肉薄できるだろうか。